芥子菜 未来
薄暗い教室で目覚めた17歳の少年、
芥子菜 未来 (からしな みらい)は、
戸惑わずにはいられなかった。
熱を持ったみたいにどんよりと曇った頭は、
心臓が脈打つたびに鈍い痛みが走り、
瞼はおもりでもぶら下がったかのように重い。
だが、自分が着た覚えのない、
詰襟を用いた黒の学ランを着ていることと、
教室にある窓という窓に、
鉄板が打ち付けられていることを認めた途端、
人工的な眠気は急速に遠ざかっていった。
芥子菜 未来
軽口を叩き余裕ぶってみせるが、
背中には嫌な汗が滲み、口の中は水気がなく乾いている。
芥子菜 未来
芥子菜 未来
未来は自室にこもり、毛布に包まる日々を思い返しながら、
眼球を忙しなく動かし、何かしらの情報を得ようとした。
そして気づいた、自分以外にも学ランを着た少年や、
ブレザーを着た少女が、うつむき姿勢で椅子に座っているという事実に。
ブレザーを着た少女
芥子菜 未来
家族以外と話すのが久しぶりすぎて、
話し言葉の構成が幼児以下になってしまう。
しかし、未来の隣の席に座る少女は、
嫌な顔ひとつしない。
芥子菜 未来
芥子菜 未来
長い黒髪が綺麗な少女。
その横顔は自分が朝から晩までプレイしている、
ソシャゲのヒロインにどことなく似ていた。
未来は椅子から立ち上がり、
少女の様子を確かめる為に、
そっと顔を覗き込んだ。
瞬間、少女の体が揺れた。
かと思いきや、少女は糸の切れた操り人形みたいに、
横ざまに倒れた。
芥子菜 未来
未来の悲鳴交じりの声に、
数人の少年少女が反応を示す。
???
見知らぬ少女
どうやら彼等もこの学校? の生徒ではないらしい。
未来は数分前の自分と同じ状態の少年少女を一瞥しつつ、
床に膝をつき少女の手に触れた。
そして、気づいた。
芥子菜 未来
隣に座っていた少女が既に絶命していたことを。
見知らぬ少年
見知らぬ少女
目覚めた途端に死体と遭遇。
異様な状況に放り込まれ、
一瞬でパニックに陥った少年少女が金切り声で喚いている。
芥子菜 未来
今すぐ逃げ出したかった。
さっきから膝の震えが止まらないし、
心臓が痛い程に脈打っている。
けれども、どうにかして現状を打開したかった。
自分が好んでよく見るデスゲーム系ホラーの、
モブキャラのように叫んでいるうちに死ぬなんて、
マヌケな結末だけは迎えたくなかったから。
芥子菜 未来
未来は思考をかき乱す不快な声を頭から追い出し、
固く瞼を閉じた。
すると…。
???
大きなメガネが特徴的な、
委員長風の少女が未来の隣に並んだ。
芥子菜 未来
芥子菜 未来
???
芥子菜 未来
芥子菜 未来
芥子菜 未来
???
芥子菜 未来
羨望の眼差しがくすぐったい。
同年代の女の子と話すことが元々苦手な未来は、
照れくささを誤魔化す為に素っ気無く返し、
メガネの少女からそっと離れた。
杜松 楓
芥子菜 未来
杜松 楓
杜松 楓
芥子菜 未来
芥子菜 未来
家に引きこもり現実から目を背ける自分は、
死んでいるのか生きているのか分からない。
だが、足元に横たわる少女のように、
静かに朽ちてゆくことだけは避けたかった。
芥子菜 未来
杜松 楓
芥子菜 未来
杜松 楓
芥子菜 未来
杜松 楓
芥子菜 未来
芥子菜 未来
杜松 楓
杜松 楓
芥子菜 未来
杜松 楓
奇妙な偶然。
これがもっと違う出逢いなら、
運命を感じていたかもしれない。
しかし、奇妙な偶然はふたりだけのものではなかった。
見知らぬ少年
見知らぬ少女
見知らぬ少女
喚いていた少年と少女が仲間でも見つけたという風に、
未来と楓(かえで)に救いを求める眼差しを向けてくる。
それに同調するように、他の少年少女達も頷き、
自分達も同じ『引きこもり』であることを主張し始めた。
芥子菜 未来
芥子菜 未来
シンパシーを通り越して、
陰謀的な不気味さのお釣りがかえってくる。
芥子菜 未来
見知らぬ少年
芥子菜 未来
見知らぬ少年
見知らぬ少女
見知らぬ少女
芥子菜 未来
芥子菜 未来
最も無関係だと思えたキーワードが、
後々起死回生の切り札となり最終局面で煌く。
物語作りの基礎技術を何気なく思い出し、
未来はブレザーを着た少女を真っ直ぐ見つめた。
と、その時。
キーンコーンカーンコーン…。
ノイズ交じりの始業ベルが鳴り響き、
教室のざわめきを瞬く間に飲み込んだ。
そして次の刹那、教卓の上に設置されたモニターが明滅し、
どこか無感情な雰囲気を漂わせる若い女性の顔が映し出された。
???
???
???
???
芥子菜 未来
杜松 楓
杜松 楓
梔子 六花
梔子 六花
梔子 六花
芥子菜 未来
見知らぬ少女
見知らぬ少女
芥子菜 未来
見知らぬ少年
見知らぬ少年
思春期の苛立ちや反発の心理がそうさせるのか、
先程まで喚いていた少年はより一層声を荒げ、
教室の扉に手をかけた。
と──同時に。
ビイイィィィィッ!
電子機器の異常を告げるビープ音が教室を駆け抜け、
少年の胸が内側から爆ぜた。
バスンッ!!
見知らぬ少年
血肉を扉にぶちまけた少年の、
虚ろな眼が未来達をとらえる。
未来と楓(かえで)は、非現実的な光景を目の当たりにし、
身じろぎせず立ち尽くしていた。
芥子菜 未来
芥子菜 未来
コメント
2件
引きこもってただけなのに...(