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白いバスの運転手

皆さん、そして陽子さん

白いバスの運転手

ご機嫌よう

白いバスの運転手

陽子さんをお迎えに参りました

運転手のおじさんはそう言って、口元を釣り上げたように笑った。

……

誰?

此岸に行く魂を乗せるバスの運転手だよ

愛斗

いっつもいきなり来るんだから……

白いバスの運転手

「ご縁」は予知ができませんので

白いバスの運転手

これも一つの運命、という事です

いつもぶっきらぼうな喋り方の男鹿さんと違って

言葉遣いは丁寧だけど、どこか突き放されたような気分になる言い方だ。

白いバスの運転手

さあ陽子さん、準備はできましたか?

陽子

あの、ちょっと待ってください

陽子

まだお別れがちゃんと出来てないんです

白いバスの運転手

はあ……

白いバスの運転手

大事なのは彼岸での出来事ではなく

白いバスの運転手

これから転生する此岸での未来だと思うんですけれどね

運転手さんは、まるで早く仕事を終わらせたいかのように

不機嫌そうな顔をした。

鬼塚先生

それでも、少しくらい時間はあるでしょう?

ロクじい

心残りなく此岸に返してあげたいんじゃ

ロクじい

何とか出来んかのう?

先生二人が頭を下げたら、運転手さんは顎に手を当てて考えこんで

その後、ポケットから懐中時計を取り出して見つめながら

仰々しく話し始めた。

白いバスの運転手

そうですね……

白いバスの運転手

30分。それ以上は待てません

陽子

ありがとうございます!

陽子

後挨拶してないのは……

陽子

倉内先生、テミ先生、そしてザック先生だ

鬼塚先生

多分ザック先生は保健室だね

鬼塚先生

急ごう!

 

 

 

ザック先生

そうか、今日行くんだね

ザック先生

大丈夫、陽子ならお母さんと仲良く暮らせるよ

陽子

先生がいなければ、お母さんのことを知る勇気が持てなかった

陽子

……ありがとう、寄り添ってくれて

ザック先生

さあ、そんなに泣かないで

涙を流す私の肩に、先生は優しく手を置いた。

ザック先生

テミ先生に挨拶はしたかな?

ザック先生

今の時間は園庭のお手入れしてると思うから

ザック先生

中庭にいると思うよ

ザック先生

元気で、しっかりするんだよ

陽子

はい……!

陽子

ありがとうございました!

 

 

 

テミ先生

……そうですか、今日……

陽子

園庭の手入れとか、ありがとうございました

陽子

少し前までは、この綺麗なお庭でだけ

陽子

私は私でいられました

テミ先生

いえ、庭園手入れは趣味が嵩(こう)じてなので

テミ先生

……気の利いた事は言えませんが、代わりにこれを。

テミ先生

いつものポーカーフェイスのまま先生が差し出したのは

赤く豆粒のような小さい花の鉢植えだった。

陽子

……小さくてかわいい花だね

テミ先生

「カランコエ」という花です

テミ先生

「たくさんの小さな思い出」

テミ先生

「あなたを守る」

テミ先生

そういう花言葉を持ちます。

テミ先生

彼岸での出来事の記憶は朧げになっていきますが

テミ先生

ここでの出来事は、確実にあなたを守っていくでしょう

テミ先生

……頑張ってくださいね。

そういつもの調子で話す、先生の口元が優しくほころんでいた。

テミ先生

さあ、園長先生のところへ。

陽子

ありがとう、先生

陽子

このお花、大事にするね!

 

 

 

蔵内先生

……陽子さん

蔵内先生

本当によく頑張りましたね

園長先生は少し涙ぐんでいる。

蔵内先生

これはささやかですが……

蔵内先生

「卒園証書」です

蔵内先生

「貴女はよく遊び、よく学び」

蔵内先生

「そしてこの園を巣立つときが来ました」

蔵内先生

「貴女の旅路の安寧をここに祈ります」

蔵内先生

さあ、最後に……

蔵内先生

またギュってしていいかな?

陽子

……うん!

蔵内先生

陽子

生前ではもう忘れかけていたこの温もり。

私は先生に抱っこされるのが大好きだった。

蔵内先生

此岸に行ってもこの私

蔵内先生

「地蔵菩薩」がいつも見守っていますからね。

蔵内先生

……さあ、もう時間ですよ

陽子

約束だよ、先生……!

陽子

お世話になりました!

 

 

陽子

陽子

お待たせしました!

白いバスの運転手

時間ギリギリですね

白いバスの運転手

こちらにも都合があるんですけどねえ?

苦しそうに息を吐きながら戻ってきた陽子さんに、運転手のおじさんは冷たく当たった。

男鹿さん

間に合ったんだからいいだろう

男鹿さん

ぐだぐだ言うんじゃない

白いバスの運転手

ふん、品性のかけらもない言葉遣いだこと

白いバスの運転手

だから鬼族は……

男鹿さん

天使ってのも、偉そうな物言いするんだなあ

ロクじい

おほん!

ロクじい

二人とも、子供達の前じゃぞ

男鹿さん

……すみません、取り乱して

白いバスの運転手

これは失敬

白いバスの運転手

白いバスの運転手

陽子さんは、生まれ変わりではなく

白いバスの運転手

当代の黄泉返りでしたよね?

陽子

……はい!

白いバスの運転手

では福禄寿さん、お願いします

ロクじい

任せておきなさい

ロクじい、どう言う事?

前にも言ってたろ?

ロクじいは寿命を司る神様

つまり……

愛斗

何するんだ?

陽子の寿命を書き直すんだよ!

察しが悪いなあ、もう

ロクじい

ええっと、陽子が載っているページは、と……

騒ぎを他所に、ロクじいは何処からか取り出した

辞典のように大きい本を、筆片手にめくっていた。

ロクじい

ちょい、ちょいの

ロクじい

ちょい、と!

ロクじい

よし、これで大丈夫

ロクじい

これでもう少し長く生きられる

陽子

……長生きはするの?

ロクじい

そうしてやりたいのは山々じゃが

ロクじい

えこひいきをするわけにはいかんからの

ロクじい

他の子らと平等な修正、あとは他の神のみぞ知る

ロクじい

って言うところじゃ

白いバスの運転手

もういいですよね?行きますよ

そう促されて、陽子さんはバスに乗り込んだ。

……けれど窓を開けて身を乗り出し、叫び出した。

陽子

待って!後……

陽子

桜ちゃん、優くん

陽子

愛斗くん、健くん

陽子

みんなありがとう、仲良くしてくれて

陽子

特に桜ちゃん

陽子

私のことを気にかけてくれてありがとう!

……うん!

私、きっと忘れないから!

愛斗

元気でな!

無理すんなよ!

さようなら、ありがとう

陽子さん!

 

白いバスは園の門柱を通りすぎ……

モヤに隠れて見えなくなった。

 

 

陽子の母親

陽子、聞こえる!?

陽子の母親

お母さんよ!

看護師

なんで、いきなりバイタルに変化が……!?

看護師

先生呼んできます!

看護師

陽子

陽子

お……さん……?

陽子の母親

……陽子

陽子の母親

よーこお!!!

お母さんは泣きながら私を抱きしめた。

陽子

ちょっと、苦しい……

陽子

そんなに体を締め上げないで……

陽子の母親

ああごめん

陽子の母親

……

陽子の母親

ほんとに、ほんとにごめんねえ……

涙を堪えようときっと口を結び、目頭に力を入れるけれど

お母さんの目からはボロボロと涙が零れ落ちていた。

陽子

うん……

陽子

……あの花瓶の花は?

陽子の母親

……ああこれ?

陽子の母親

家の庭に見覚えのない花が咲いててね

陽子の母親

なんだか、惹かれるものがあったから

陽子の母親

病院に持ってきて飾ってもらったの

陽子

(この赤くて小さい花)

陽子

(……なんだったっけ、懐かしい気がする)

陽子

お母さん、この花押し花にしたいな

陽子

手伝ってくれる?

陽子

……その後、今までの分もいろんな話をしようよ

陽子の母親

……うん、うん!!

 

 

……行っちゃったね

お母さんと仲良くしてたらいいな

はあ、あのバスを見送るの、何回目だろう

俺もいつかは卒園できる日が来んのかなー

愛斗

なんだよ、さっきは「しばらくゆっくりする」って言ってたのに

そうは言っても気になるもんは気になるの!

……あれ、男鹿さんは?

さあ?他の仕事に行っちまったんじゃねえの?

あの人もワーカホリックなんだから

わ、わーか……?

仕事人間って事だよ!

愛斗

……ん?

愛斗

そう言ってたらまた、アレ

黒いバスだ

男鹿さん、また戻ってきたの?

蔵内先生

蔵内先生

あらまあ、また入園らしいですね

蔵内先生

悲しいことではありますけれど、また賑やかになりそうです

ええ……!?

陽子の事、まだ切り替えられてないのに……

全く、世の中ひでぇ親ばかりだなあ

愛斗

その分、ここのみんなで仲良くしようぜ

愛斗

しかし、どんな子が来るんだろう

 

バスが止まって、男鹿さんと……

ぬいぐるみを抱いた小さな女の子が降りてきた。

男鹿さん

蔵内園長、みんな

男鹿さん

新しく入園する子を連れてきました

ぬいぐるみを抱いた子

……

女の子は男鹿さんの後ろに隠れて

こちらを不安そうに覗いたまま動かない。

……こんにちは!

ぬいぐるみを抱いた子

こ、こんにちは……

僕は健

一緒に遊ぼうよ!

 

Re glow ─よいこの賽原保育園─ 完

3ヶ月の間ありがとうございました

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この話ができたきっかけは2年前の虐待事件です。 作者である私の子供と同い年の子供が凄惨な亡くなり方をして、リアルな事件をあまり引きずるタイプではない私も随分感情移入してしまい、そのショックから心を守る為、「虐待等で傷ついた子供は神仏に見守られながらお迎えを待つ」と言う話を作り上げ、そう信じようとしました。 世の中から虐待がなくなり、傷つく子供がいなくなることを祈ります。

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