ラト
来るな!!
ラト
来るな!!!
ラト
こっちに来るなぁぁぁ!!!
普段の穏やかな口調からは 想像も出来ないラトの叫びが耳を貫く。
わたしはまた、 ぎゅっとこぶしを握る。
主
((怖くない。怖くない。
主
((恐怖心なんて捨てろ。
主
((半端な優しさはラトを傷つけるだけだ。
主
…………
深呼吸をひとつ。
主
ラト
いつものように彼の名前を呼んだ。
主
ラト、落ち着いて。
主
大丈夫だよ。私だよ
ラト
ううっ…
ラト
やだっ!!!
ラト
来るな来るな!僕に近づくなぁ!!
頭を掻きむしり、 苦しそうにうめきながらラトは叫んだ。
ラト
僕に近づくなああ!!
ラト
もう怖いのも痛いのもいやだ!!
ラト
もう、いやだぁ…!!!
主
ラト
主
ねぇ、ラト。大丈夫だよ
主
もうそんなことするやつなんかいないよ!
主
ラトに痛い思いもつらい思いもさせないよ!
ラト
うっ…うっ…
ラト
来るな!消えろ!
ラト
嘘を言うな!
ラト
散々痛めつけて今さらなんだっていうんだよ!!
ラト
嘘つき!!
ラト
嘘つき!!!
ラトは叫び続けながら、 手近にあるものを投げつけてきた。
わたしは身構えながら、 少しずつ彼の元へ近づいた。
ラト
くっ、くるなぁ!
ラト
来るなぁ!!!
掠れた彼の声と、叩きつけられ、砕ける音で耳がいっぱいだった。
その中で、溢れ続ける思いがあった。
時々、彼の表情が曇る時があった。
この世界に来て、 悪魔執事の存在を知って
少し怖かったし、戸惑ったけれど、 みんなの優しさや天使との戦いのことを知って、
わたしはみんなを支えたいと思った。
その中で、 いつからか彼が特別になった。
最初はとっても怖かったし、 不思議な人だなって思ったけれど、
温かい優しさを持っている人だとすぐに気づいた。
それからは
一緒にお話をしたり、 食事をしたり、 本を読んだり、 演奏を聞いたり
時間をともにするなかで すこしずつだけれど、 自分のことを話してくれるようになった。
やわらかい笑顔をむけてくれるようになった。
それがすごくすごく嬉しくて
だけれど、わたしは、
全然彼のことを知らなかったんだと思い知らされた。