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野嶋隆は夢を見た
とても静かで優美であった
竹藪に囲まれていて
洋風の こざっぱりとしたコテージがある
内装は……
暖色のライトに暗色の木材 調和している
インテリアも 西欧を思い浮かべるシンプルな作り
しかし 窓から外を見ると
やはりそこは竹藪に包まれている
どこかから 川なのか滝なのか流水の音がする
気にはならない
言うなればそれがあるからこそ 静謐は生まれる
これは
和洋折衷か
何ものにも、染められる
人も同じだ 人について言うなれば
外面には個性がある それは他人の存在を意識するからだ
しかし内面はどうだろう
実際のところ "自分"なんか存在しないではないか
そのくせ、人はそれを嫌う 必死に"自分"を創りあげる
そうして出来上がったのは
"自分"ではなく"他人"
外面なのである
……そうだ
オリジナルなんかない それでも人は個を主張する
そうしないと 生きているのか死んでいるのか 分からないからだ
どっちだっていいと思えた時 即ちそれこそが人の死だ
人の死だ
死だ
死
死
死
死
死
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
そういえば あの時
私は橘真衣の自白を聞き……
自白を聞き……?
私はそれから何かを……
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
行ってしまった
あの青年 平素から素直になればいいのに
私はそう思って少し笑み また考え出した
そうだ 昨日、確かに橘真衣がこの事件の犯人なのだと判明した
それは本人が自白したからで 絶対的な根拠というものはない
私はどうしても諦めきれず 他の可能性を考えたのだ
そこで至った結論は……
野嶋隆
駄目だ 思い出そうとすると頭に激痛が走る
野嶋隆
野嶋隆
右ポケットに入った懐中時計を開く
時刻は午前5時38分
早朝だ
野嶋隆
野嶋隆
私は立ち上がった
新海には悪いが もう頭痛はすっかり治まってしまい
歩けるくらいには回復した
野嶋隆
野嶋隆
野嶋隆
ならば 少しだけ出歩こう
こんな早朝に誰かがいるとは思えないが
私は目的地も定めぬまま 歩みを進めた
目に入った扉を開ける
私はシアタールームに着いていた
ここは2階にある部屋で
簡単に見て回った時に発見したが 小さいながらも本格的だ
橘真…… 彼は相当な資産家だったに違いない
何気なく席の方を見ると そこには中村雨音がいた
野嶋隆
中村雨音
中村雨音
野嶋隆
中村雨音
中村雨音
野嶋隆
私は中村の隣に腰掛けた
シアターにはもちろん 何も映ってはいなかった
中村雨音
野嶋隆
中村雨音
野嶋隆
中村雨音
野嶋隆
彼女が犯人なのか
私は 今でも信じられなかった
中村雨音
中村雨音
中村雨音
野嶋隆
あの年齢の女の子が一人 牢獄に入る決心をしている
牢獄と言うことは 少年院と呼ばれるものではなく
女子刑務所にでも入るつもりか
それはさぞかし 不安なのではないだろうか
野嶋隆
野嶋隆
中村雨音
中村は笑った
ここしばらくは もう見ていなかった笑顔
笑顔を作ることもできないなんて やはりここに居てはいけない
こんな屋敷からは抜け出すのだ
中村雨音
野嶋隆
中村雨音
中村雨音
中村雨音
中村雨音
中村雨音
中村雨音
中村雨音
野嶋隆
中村雨音
野嶋隆
中村雨音
中村雨音
野嶋隆
似たような症例を聞いたことがある
確か サヴァン症候群であったか
しかし、サヴァン症候群は 知性に障害を持ちながら何か一つの分野に突出していることを指す
中村は知性に障害はないようだし 先天的に記憶力が突出しているだけなのか
それにしても ニュースにまでなっているとは知らなかった
野嶋隆
中村雨音
野嶋隆
中村雨音
野嶋隆
中村雨音
野嶋隆
中村雨音
ほんの少し和やかになった
孫をまた思い浮かべながら たそがれた
そして立ち上がった
野嶋隆
中村雨音
私達はシアタールームを後にした
廊下を無言で歩いていた
食堂までほんの少しの距離だ
しかし そこで中村雨音が立ち止まった
中村雨音
野嶋隆
中村雨音
見ると 橘真衣に割り当てられた部屋がある
静かで特に変わったことはない
野嶋隆
中村雨音
そういって申し訳なさそうに 軽くノックをした
……返事はない
中村雨音
野嶋隆
中村雨音
残念そうにそう言い、 また私達は歩みを進めた
食堂に着くと 意外にも面々が顔を揃えていた
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
すっかり忘れてしまっていた
野嶋隆
新海拓馬
神崎隼也
新海拓馬
新城綾香
新城は既に 朝食を作り上げていた
中村雨音
新城綾香
新城綾香
神崎隼也
中村雨音
中村は再び 体を翻し、廊下へ向かった
私は昨日からほとんど何も食べていないため
美味しそうな匂いに釣られて 席に座った
神崎隼也
野嶋隆
神崎隼也
野嶋隆
新海拓馬
神崎隼也
新海拓馬
新城綾香
皆、どこか安心している
犯人の特定も済み これからはここを出るだけ
おや、そう言えば出る方法は?
野嶋隆
野嶋隆
神崎隼也
神崎隼也
野嶋隆
新城綾香
新海拓馬
神崎隼也
新海拓馬
野嶋隆
うるせぇ、と言ったきり 新海はそっぽを向いてしまった
平和だ
ようやく平和が訪れたのだ
これで……事件も解決
そこに慌ただしい足音がした
中村雨音
野嶋隆
神崎隼也
中村雨音
野嶋隆
中村雨音
また嫌な予感がした
これは……
神崎隼也
私達は大急ぎで 橘真衣の部屋へと向かった
息も絶え絶えで扉の前に来た
神崎隼也
神崎が強く扉を叩く
しかし反応はない
神崎隼也
中村雨音
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
嫌な予感は肥大するばかり
不安を打ち消すように 私は大声で言った
野嶋隆
神崎隼也
新海拓馬
せーの、という合図とともに 二人は若い体をドアに打ち付ける
なかなか開かなかった
それを数十回繰り返した時 ようやくドアが少し開いた
野嶋隆
私はドアの隙間に手を挟み 解錠に成功した
野嶋隆
中村雨音
私達はなだれ込むように 橘真衣の部屋へと侵入した
……そこで見たものは
白いベッドは赤黒く変色している
そして まるで生気もなく投げ出された足
半身だけ起こされており
胸にはナイフの柄しか見えないほど その刃は深く突き刺さっている
その柄を 痩せた両手はしっかりと握っている
まるで 自らに制裁を加えているかのように
しかし 目を引いたのはそれだけではない
橘真衣の隣に置かれている A3サイズはあろうか
その大きな紙面に また、あの汚らしい野蛮な字で
悪魔の文言は書かれていた
「マーダーゲームハ オワラナイ」