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野嶋隆は夢を見た

とても静かで優美であった

竹藪に囲まれていて

洋風の こざっぱりとしたコテージがある

内装は……

暖色のライトに暗色の木材 調和している

インテリアも 西欧を思い浮かべるシンプルな作り

しかし 窓から外を見ると

やはりそこは竹藪に包まれている

どこかから 川なのか滝なのか流水の音がする

気にはならない

言うなればそれがあるからこそ 静謐は生まれる

これは

和洋折衷か

何ものにも、染められる

人も同じだ 人について言うなれば

外面には個性がある それは他人の存在を意識するからだ

しかし内面はどうだろう

実際のところ "自分"なんか存在しないではないか

そのくせ、人はそれを嫌う 必死に"自分"を創りあげる

そうして出来上がったのは

"自分"ではなく"他人"

外面なのである

……そうだ

オリジナルなんかない それでも人は個を主張する

そうしないと 生きているのか死んでいるのか 分からないからだ

どっちだっていいと思えた時 即ちそれこそが人の死だ

人の死だ

死だ

野嶋隆

…死。

新海拓馬

"し"?何だ、"し"ってじいさん。

野嶋隆

うわ、誰だ!!

新海拓馬

ボケてんのかじいさん。僕だよ僕、新海拓馬さ。

野嶋隆

何だ、新海くんか……。

新海拓馬

人を幽霊だとでも思ってるのか。
それよりさ、体調は大丈夫なのかい?

野嶋隆

あ、ああ。
大丈夫だ。

野嶋隆

それより、私は一体……。

新海拓馬

ああ、そうか。そう言えばじいさんは知らないんだったな。ったく、まさか倒れちまうとはな。

野嶋隆

倒れる?

新海拓馬

本当に覚えてないんだな。じいさん、橘真衣が自白したあと、すっかり動揺したんだろうな。あんたは、間もなく気を失ったってわけだ。

野嶋隆

気を失った……。

そういえば あの時

私は橘真衣の自白を聞き……

自白を聞き……?

私はそれから何かを……

野嶋隆

うぅっ!

新海拓馬

じいさん!おい、大丈夫かよ。無理はするんじゃない。

野嶋隆

い、いやすまない。頭痛が少しするだけだ。

新海拓馬

それが不味いんだろうが。
待ってろ、冷凍枕でも作ってきてやるよ。

野嶋隆

あ、新海くん。別に私は…

行ってしまった

あの青年 平素から素直になればいいのに

私はそう思って少し笑み また考え出した

そうだ 昨日、確かに橘真衣がこの事件の犯人なのだと判明した

それは本人が自白したからで 絶対的な根拠というものはない

私はどうしても諦めきれず 他の可能性を考えたのだ

そこで至った結論は……

野嶋隆

ぐっ!!

駄目だ 思い出そうとすると頭に激痛が走る

野嶋隆

どういうことなんだ、全く。

野嶋隆

今、何時だろうか?

右ポケットに入った懐中時計を開く

時刻は午前5時38分

早朝だ

野嶋隆

新海くん。まさかずっと付いていてくれたのだろうか。

野嶋隆

…ふっ。やっぱり思春期というものはわからんな。

私は立ち上がった

新海には悪いが もう頭痛はすっかり治まってしまい

歩けるくらいには回復した

野嶋隆

待つべきか。

野嶋隆

冷凍枕を作ると言っていたな。
ならば、もう少し時間がかかるはずだ。

野嶋隆

このまま新海くんのところに行っても、きっと彼は聞き入れてはくれないだろうな。

ならば 少しだけ出歩こう

こんな早朝に誰かがいるとは思えないが

私は目的地も定めぬまま 歩みを進めた

目に入った扉を開ける

私はシアタールームに着いていた

ここは2階にある部屋で

簡単に見て回った時に発見したが 小さいながらも本格的だ

橘真…… 彼は相当な資産家だったに違いない

何気なく席の方を見ると そこには中村雨音がいた

野嶋隆

おや、中村くんじゃないか。一体、こんなところでどうしたんだい。

中村雨音

あ、野嶋さん……。

中村雨音

もう、お体の方は大丈夫なんですか?

野嶋隆

ああ。新海くんのおかげですっかり良くなってね。

中村雨音

そうなんですね……彼。

中村雨音

新海くんは、野嶋さんが倒れた時に1番に駆け寄ったんです。最初は嫌な人…今でもちょっと苦手だけど…でも、根はいい人なんですね。

野嶋隆

ああ、そのようだ。

私は中村の隣に腰掛けた

シアターにはもちろん 何も映ってはいなかった

中村雨音

……。

野嶋隆

どうしたんだい。昨日は眠れなかったのかな。

中村雨音

はい。やっぱり、あんなことがあってすぐには……。

野嶋隆

人が殺されているんだ。それが正常な人間の反応だよ。

中村雨音

それもあるんですけど、やっぱり真衣ちゃんのことが気になって…。

野嶋隆

橘真衣……か。

彼女が犯人なのか

私は 今でも信じられなかった

中村雨音

真衣ちゃんは、悲しそうに牢獄へ1人行くんだって言ってました。

中村雨音

その前に、同年代のわたしに打ち明けておきたかったんだって……。

中村雨音

だから、あの告白は相当に勇気が必要だったんだと思います。凄く落ち着いているように見えるけど、真衣ちゃんは普通の子なんです。

野嶋隆

一人で牢獄に……か。

あの年齢の女の子が一人 牢獄に入る決心をしている

牢獄と言うことは 少年院と呼ばれるものではなく

女子刑務所にでも入るつもりか

それはさぞかし 不安なのではないだろうか

野嶋隆

しかし、それは初耳だな。事実を述べるだけで、昨日はそんな心境を吐露していなかった。

野嶋隆

君のことを信用していたんだね。

中村雨音

そう思うと、少し嬉しいですね。

中村は笑った

ここしばらくは もう見ていなかった笑顔

笑顔を作ることもできないなんて やはりここに居てはいけない

こんな屋敷からは抜け出すのだ

中村雨音

……わたしですね、小さい頃から記憶力が人より優れているんです。

野嶋隆

ん?

中村雨音

ある日、わたしの目の前を車が通り過ぎたんです。何となく、運転手の顔立ちとか、車体とか、ナンバーを覚えていたんです。

中村雨音

白のブラウスと緑のソックス、それにアクセサリーを3個買っていた帰りです。わたしは若い警察官に話しかけられました。

中村雨音

話を聞くと、盗難車の目撃情報に関する書き込み調査でした。わたしは15分前に見た車体とナンバー、犯人の顔立ちを覚えていたので正確に伝えたんです。

中村雨音

それから、その地区の地理は熟知してますから、犯人の盗難車が逃げ込みそうな地点を伝えたんです。

中村雨音

すると見事に犯人確保につながって、後日たまたまその若い警察官と会って、是非とも感謝状を贈りたいと言われました。

中村雨音

わたしは警察署で表彰されて、「女子高校生探偵、犯人を確保!?」なんて大仰なニュースまで流れたくらいなんです。

中村雨音

ご存知、ないですね。

野嶋隆

いや、知らなかったが…。

中村雨音

何でいきなりこんな話をしたんだって感じですよね。でもわたし、今言ったように"忘れられないんです"。

野嶋隆

忘れられない?

中村雨音

切り刻まれたあの二人の死体、それにとっても苦しそうな真衣ちゃんの顔。

中村雨音

どうしても、目を閉じても脳裏に浮かんでしまって。

野嶋隆

……ああ。

似たような症例を聞いたことがある

確か サヴァン症候群であったか

しかし、サヴァン症候群は 知性に障害を持ちながら何か一つの分野に突出していることを指す

中村は知性に障害はないようだし 先天的に記憶力が突出しているだけなのか

それにしても ニュースにまでなっているとは知らなかった

野嶋隆

……だから眠れないんだね。

中村雨音

はい…。

野嶋隆

私の体調を心配するより、君自身の体を心配しなさい。睡眠は活動する上で何よりも大切だ。

中村雨音

……あはは。

野嶋隆

どうしたんだい?中村くん。

中村雨音

野嶋さんって、お父さんみたいなこと言いますね。

野嶋隆

健康には小うるさいからな。

中村雨音

以後、気を付けますね。

ほんの少し和やかになった

孫をまた思い浮かべながら たそがれた

そして立ち上がった

野嶋隆

……今は6時ちょうどか。そろそろ、食堂にでも行かないかね。

中村雨音

そうですね。うん。行きましょう。

私達はシアタールームを後にした

廊下を無言で歩いていた

食堂までほんの少しの距離だ

しかし そこで中村雨音が立ち止まった

中村雨音

……野島さん、待ってください。

野嶋隆

ん?どうしたんだい。

中村雨音

ここ、真衣ちゃんの部屋ですよね。

見ると 橘真衣に割り当てられた部屋がある

静かで特に変わったことはない

野嶋隆

そのようだが。

中村雨音

起きてるかわかりませんけど、わたし真衣ちゃんと話したいです。

そういって申し訳なさそうに 軽くノックをした

……返事はない

中村雨音

真衣ちゃん、寝てるのかな。

野嶋隆

まだ朝も早いようだし、そうかもしれないな。

中村雨音

じゃあ、また後にしましょう。

残念そうにそう言い、 また私達は歩みを進めた

食堂に着くと 意外にも面々が顔を揃えていた

新海拓馬

おいじいさん。あんたどこ行ってたんだよ?

野嶋隆

あ。

新海拓馬

まさか、忘れていたなんて言うんじゃないだろうな、おい。

すっかり忘れてしまっていた

野嶋隆

……すまない。

新海拓馬

ちっ。二度と看病なんかしてやらねえよ。クソジジイめ。

神崎隼也

そんな刺々しいことをいう割に、新海が1番心配してたんじゃないか?

新海拓馬

う、うるせえ!!

新城綾香

あら、朝から騒がしいのね。

新城は既に 朝食を作り上げていた

中村雨音

あ、新城さんすみません。わたしすっかり休んでて。

新城綾香

いいのよ雨音ちゃん。

新城綾香

それより、寝坊助の犯人ちゃんを起こしてきてくれないかしら。食べないかもしれないけれど、冷めてしまうわ。

神崎隼也

そんな言い方はやめましょうよ…。

中村雨音

わたし、起こしてきます。

中村は再び 体を翻し、廊下へ向かった

私は昨日からほとんど何も食べていないため

美味しそうな匂いに釣られて 席に座った

神崎隼也

野島さん。体の方は大丈夫なんですか。

野嶋隆

ああ、大丈夫だ。ありがとう。

神崎隼也

それは良かったです……それにしても、俺は最初から怪しいと思ってましたが、いざ言葉にして本人から聞いてみると、衝撃でしたよね。

野嶋隆

本当にな。

新海拓馬

ふん。僕も最初からわかっていたさ。

神崎隼也

嘘をつけ、嘘を。

新海拓馬

嘘じゃねえよ!

新城綾香

仲がいいのね、二人とも。

皆、どこか安心している

犯人の特定も済み これからはここを出るだけ

おや、そう言えば出る方法は?

野嶋隆

すまない。聞きたいことがあるんだが、この橘邸を出るにはどうすればいいんだ?

野嶋隆

彼女が封鎖したにしても、内側から破るにはなかなか難儀だと思うんだが…。

神崎隼也

それが、どうやら俺たちのスマホをやっぱり持ってるらしいですね。心の準備もできていないし、あと一夜だけ猶予をくれと。

神崎隼也

それで全ては終わるんだ、らしいです。まあ、俺達は完全に巻き込まれた被害者ですけど、彼女もワケがあってこの事件を起こしたみたいですし、1日だけなら待ってみようと言う話になりましてね。

野嶋隆

そういうことだったんだな。
私もそうしただろう。

新城綾香

寛大よね、私達って。

新海拓馬

僕は反対したんだけどな。

神崎隼也

野嶋さんの安否が心配で、一刻も早く病院へと行かせてやらなくちゃって、言い回ってたもんな。

新海拓馬

違う、僕は自分のために言ったまでだよ。

野嶋隆

全く……私は幸せ者だな。

うるせぇ、と言ったきり 新海はそっぽを向いてしまった

平和だ

ようやく平和が訪れたのだ

これで……事件も解決

そこに慌ただしい足音がした

中村雨音

はぁはぁ。

野嶋隆

中村くん?

神崎隼也

橘真衣はどうしたんだ?

中村雨音

そ、それが。

野嶋隆

それが?

中村雨音

"何度呼んでも答えないし、ドアを叩いているのに何も反応がないんです"!

また嫌な予感がした

これは……

神崎隼也

行こう、みんな!!

私達は大急ぎで 橘真衣の部屋へと向かった

息も絶え絶えで扉の前に来た

神崎隼也

真衣さん?真衣さん!!

神崎が強く扉を叩く

しかし反応はない

神崎隼也

……これは、もしかしますよ。

中村雨音

そ、そんな!!

新海拓馬

じ、じ、自殺?

野嶋隆

こら新海くん!

新海拓馬

あ、す、すまない。

嫌な予感は肥大するばかり

不安を打ち消すように 私は大声で言った

野嶋隆

ドアを破ろう。神崎くん、新海くん。君たち二人でドアにタックルをして、鍵を壊して入るんだ!

神崎隼也

分かりました。

新海拓馬

わ、分かった!!

せーの、という合図とともに 二人は若い体をドアに打ち付ける

なかなか開かなかった

それを数十回繰り返した時 ようやくドアが少し開いた

野嶋隆

よし!鍵を開けるぞ!!

私はドアの隙間に手を挟み 解錠に成功した

野嶋隆

無事でいてくれ!!

中村雨音

真衣ちゃん!!

私達はなだれ込むように 橘真衣の部屋へと侵入した

……そこで見たものは

白いベッドは赤黒く変色している

そして まるで生気もなく投げ出された足

半身だけ起こされており

胸にはナイフの柄しか見えないほど その刃は深く突き刺さっている

その柄を 痩せた両手はしっかりと握っている

まるで 自らに制裁を加えているかのように

しかし 目を引いたのはそれだけではない

橘真衣の隣に置かれている A3サイズはあろうか

その大きな紙面に また、あの汚らしい野蛮な字で

悪魔の文言は書かれていた

「マーダーゲームハ オワラナイ」

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