朝食のために 橘真衣を呼びに行った中村雨音
しかし、何度部屋の前で呼びかけても 橘真衣は応答しなかったと言う
不審に思った我々は 同じように呼びかけるがやはり反応はない
そこで 神崎隼也と新海拓馬は扉の鍵を壊し
一同は部屋の侵入に成功する
しかし、そこで見たものは……
ナイフが深々と刺さった 橘真衣の死体と
「マーダーゲームハ オワラナイ」
そう書きつけられた "絶望"の吐瀉物であった……
野嶋隆
新海拓馬
新海拓馬
中村雨音
新城綾香
神崎隼也
神崎隼也
状況を飲み込めない
これは自殺……? 待て待て、橘真衣は死んだのか?
なぜ?
なぜ
中村雨音
中村雨音
いま思えば
神崎隼也
新城綾香
神崎隼也
マーダーゲームは
新海拓馬
新海拓馬
ここから始まったようなものだ
まただ
確か最初に殺人が起きた時にも 俺は中村を追った
その時も 中村は錯乱していた
前回と違うこと……
それは
俺も錯乱しているということだ
神崎隼也
神崎隼也
思考に集中する
神崎隼也
神崎隼也
一つだけ、その文言が浮かんだ
神崎隼也
神崎隼也
神崎隼也
あり得るかもしれない
神崎隼也
神崎隼也
神崎隼也
神崎隼也は狼狽した
僕は優秀な人間だ
地元では有名な 進学校に通っているし
ある出版社の公募に 自作の小説を寄稿して 最優秀賞をもらったことだってある
"周り"からは将来を嘱望され 憧憬の眼差しを向けられる
それが僕という存在の常だ
"周り"、か……
嫌いだ というよりは、気に入らない
いつも僕の後をついてきて いつも僕に対しては甘い
そんな人間が気に入らない 常に正直でありたい
だからこそ 僕はものをはっきりと言う
時には、言い過ぎだとも言われる 調子に乗りすぎだ、とも
そんなことを好き勝手言うが
自分の意思もない "他人に言われるがままの操り人形" なんてごめんだ
だからこそ 嫌われてもいいから 僕と言うものを貫いた
周りの無能な人間なんか使えはしない 僕の頭脳だけが道を切り拓く
それはどんな場合でも 謎というものがあれば機能する
はずだったのに……
新海拓馬
ここにきてからというもの 僕は無能でしかない
新城綾香
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
なぜだ?
なぜ こんなにも落ち着いて推理できる?
野嶋のじいさん……
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
野嶋隆
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
野嶋隆
新城綾香
会話に参入できない じいさんは一般人かのように振る舞うが、僕の読みでは違う
新城綾香という女も ただ者じゃない
どちらも情報の取捨選択が速いし 情報の連結からくる推理も 確実なものにしている
そこから分析をし 実証し……
理論を確実なものにする
新海拓馬
野嶋隆
確か「ミステリ談義会」のチャットで 僕はそう言っていたな
口だけなのだ 行動なんか、常人にはできない
そうだよ 常人にはできないんだよ
野嶋隆
中村雨音
あの馬鹿そうな女は 僕と同じだ
同じ普通の人間さ
僕は、何もできない
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
野嶋隆
野嶋隆
新海拓馬
事件を解決するしかない、か
それは既に話し合ったことで 理屈としても理解している
だけど
理屈通りになんか、ならないさ
新城綾香
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
野嶋隆
野嶋隆
新城綾香
野嶋隆
いやだ、やりたくない
もう、疲れたんだ
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
新城綾香
新海拓馬
いけすかない女の挑発も いまは気にならない
とにかく 休みたかった
僕は 書斎へと足を動かした
やはり大きい
紙の匂いが部屋に充満している とても心地よかった
僕は椅子に座って辺りを見渡す
ミステリ、SF、サスペンス、コメディー、ラブストーリー、純文学……
哲学書や自己啓発書 図鑑、児童書、エッセイ、専門書……
媒体についても言うと 本だけじゃなく、論文や新聞なんかも揃えられている
並の本屋を上回っている量だ
一言で言えば、壮観だな
僕はすぐに椅子から立ち上がった
内容としては現実とリンクするから あまり好ましくはないが
ミステリのコーナーに立ち寄った
いや、リンクなどしないか
別にフィクションだからいいのだ 人が殺されても
あくまでそれは 記号化されたものでしかないのだから
しかし、現実は違う そこに様々な感情がダイレクトに絡んでしまう
小説の中だけで十分だ
新海拓馬
高島 詩乃
新海拓馬
僕のお気に入りの作家だ
ミステリ界隈では有名で 数々の名作を生んできた巨匠である
論理を重んじ、論理に終わる
そんなクールな主義を掲げ 事件を颯爽と解決していく探偵
これを見事に描き切っている
そう 探偵とは、ヒーローのようなものだ
力を持ち、人々を導く
それが物理的な力であろうと 知性に傾倒したものであろうと
ヒーローはヒーローである
だから 僕はミステリを愛してやまない
そう思うと 無性にミステリを読みたくなった
高島詩乃の代表作 「慧眼の使者」 を僕は手に取った
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
野嶋隆
新海拓馬
新海拓馬
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
やはり歯切れ悪く 言いにくそうにじいさんは言い放った
野嶋隆
新海拓馬
新海拓馬
じいさんは照れ臭そうに言った
……嘘か
いや、それはない と、瞬時に思い直した
このじいさんは冗談をあまり言わない なぜなら、頭が硬いからだ
それに 常人より落ち着いて推理を行うことができるのも
その肩書きがあれば説明がつく
しかし そうなれば本当に……
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
アナグラムとは 文字を入れ替えると別の意味合いになる
いわゆる 言葉遊びや暗号化のことである
それをもとに考えると…
高島詩乃は TAKAJIMA SHINO 野嶋隆は NOJIMA TAKASHI
これを入れ替えると……
確かに どちらにも一致する
新海拓馬
新海拓馬
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
僕は思い切り伸びをした
やってられるかと 何かがふっきれたのだ
目の前には憧れの大作家 嬉しくは思う
しかし感動はない それはこの状況に殺された……
マーダーゲームか
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
僕とじいさんは 新聞コーナーの前まで来た
几帳面にも年代別に整理され これだけの量でも 探すのは容易そうだった
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
そういってじいさんは 僕と並んで少し隣のコーナーを見る
何を探しているんだ?
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
じいさんから 中村雨音という女が 過去に感謝状を贈られたと言う話を聞いた
新海拓馬
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
それは僕も同じなのだ
こういうところは 正直になれない
"周り"を認めたくないがために 信条としている正直な気持ち
それがすっかり 信条というものによって 信条という気持ちが殺されている
滑稽だ
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
新海拓馬
野嶋隆
待てよ
ここがX県内で 同じくX県出身の大作家がいる
しかし 僕たちは"偶然にも"オンラインチャットで知り合った他人だ
ならば
新海拓馬
野嶋隆
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
野嶋隆
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
野嶋隆
新海拓馬
そんなことが
野嶋隆
じいさんは片手でそれを拾い上げた
野嶋隆
僕はそれを受け取った
新聞のスクラップのようだった
そこには僕の受賞した 「高校生ミステリGP」 という出版社が公募したなかで
新海拓馬(17)さんが最優秀賞を受賞 という本文が掲載されていた
任意で応じた 不機嫌そうな僕の顔写真も載っている
さらには 中村雨音の記事も掲載されており
確かに 盗難車の犯人逮捕に貢献したと 書かれている
わざわざ この二つの記事をスクラップにして ここに置かれていた
野嶋隆
新海拓馬
野嶋隆
新海拓馬
なってしまう
僕は、いや僕たちは
とんでもない化け物に
魅入られたのかもしれない
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