男の働く運送会社には
奇妙なウワサがある
「赤い女に気をつけろ」
男だらけの職場
暇を持て余した誰かが
勝手に 言いふらしたのだろう
そう考えた男は 気にもとめなかった
そんな、ある日
男は馬鹿らしいと思った
だが、ウワサを信じる者は 複数いる…
ピーンポーン♪
間の抜けた電子音が 辺りに響き渡る
屋敷から現れたのは
どこか幸薄そうな 美しい女
ガチャ
女について玄関を上がると
部屋の熱気が気になった
周りの家具に当たらぬよう
慎重にテレビを置く
10分後
女の用意した茶に 手を伸ばした時
「気をつけろよ」
同僚の言葉が 男の頭をよぎった
目の前の女は
真っ赤な口紅をつけている
男は躊躇したが
女の美しさと
都合のいい言い訳で
その迷いは 霞んで消えてしまった
咲き誇る数多の樹木に 目を奪われる
膝にあたる葉を 手ではらいながら
女のあとを着いていく
それは、どう見ても…
巨大な 『箱』
女は愛おしそうに 箱を撫でると
不意に振り返った
その目は“ヒト”では なかった
男は慌てて逃げようとした
だが
ギィィ…
女が箱のふたを開けると
中から見覚えのあるものが 伸びてきた
それは…
桃色の細く長い舌
ネバつく塊が男の体中に まとわりつく
長い舌は男の全身を 捕らえると
ずる…ずるり…
戻ろうとする
元いた『箱』の中へと
男がどんなに暴れ叫んでも
所詮、箱は箱
男の体は足もとから 飲み込まれ
両手の先が見えるのみ
バキ…ボキ…
グチャ…
事の顛末を見ていた女は
嬉しそうに微笑む
外側に折れ曲がった 10本の指は
血に染まり まるで花びらのよう
コメント
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赤い花....見てみたい((