紗良
え?そうなの?
奏音
父さんは昔から頭が良くて、物語を創作するのが好きだった。
奏音
私が足し算を出来ないことに1番呆れていたのは父さんだった。
奏音
ガリ勉だった父さんは分からないって言ったらそこから喧嘩になって今はすごい仲悪いんだけどね。
奏音
詩や小説を読むのも書くのも好きだったけど、父さんにはお前には才能が無いって言われっぱなしで。
奏音
酒を呑み酒に吞まれ毎日リビングで潰れる。
奏音
あれだけの量の本をいつ書いてるんだか。
紗良
なんか、奏音って強いね。
紗良
私にはそれを言われた気持ちが分からないけど、奏音は強いよ。
奏音
…私は、強くないよ。
紗良
そんなに毎日お酒飲んでるんだ。夏宮さんの話好きなの多いのに。
奏音
語彙と想像力だけが長けた人だったからね。
奏音
紗良はなんの小説が好き?
紗良
うーん。迷うけど…。
紗良
あの、歌手目指す女の子の話!
奏音
あぁ。あれか。
紗良
私も将来とかあったからさ、歌の才能が無いって言われ続けた少女が歌手になるあの感じ?
紗良
すごく好き!
紗良
奏音は?
奏音
音楽。かな。
紗良
音楽って言う題名の本?聞いたことないなぁ。
奏音
まぁあんまり売れなかったらしいから、しらなくて当然だよ。
奏音
父さんは小説も書くけど音楽も好きだった。
奏音
暇があれば家のピアノを延々とひいていたよ。
奏音
母さんもピアノ教室開いてて、よくピアノの弾き方を教えてくれた。
奏音
ピアノは好きだったけど、やっぱり上手く弾けなくて。
奏音
声も綺麗じゃないし、また才能はないって言われ続けて
奏音
私はピアノを辞めた。
紗良
奏音ピアノも弾けるんだ…。
紗良
私もやってたよ!ピアノ。
紗良
ピアノってさ、やればやるほど面白いじゃん?
奏音
そうかなぁ…。
紗良
そうだよー。だって誰がドの音を弾いても、ピアノから出る音は同じじゃない?
紗良
誰がバッハの名曲を弾いても、細かく聞けば違うだろうけど、同じに聞こえる。
紗良
その人は悲しさを表現するために作った曲かもしれないけど、聞き方によっては楽しく聞こえるかもしれない。
紗良
真っ当な人間と人を殺した人が同じ曲を弾いても、ピアノから出る音はドレミファソラシドでできてる。
紗良
ピアノって素晴らしいほどに無機質だよね。
奏音
わかるよ。それ。
奏音
ピアノを弾いてる時は、才能がなくても、常識や定理に囚われず好きなように弾ける。
奏音
押したら音が出る。それがメロディになり、やがて曲になる。
奏音
唯一、常識や定理がない場所だったから、好きだったんだけどな。
紗良
どうして嫌いになったの?
奏音
父さんにも母さんにも、あなたの音楽はつまらないって言われるんだもん。
紗良
酷い!
紗良
私はそう思わないよ!絶対綺麗だもん!
奏音
聞いたことないでしょ。
紗良
今から聞く!ほら、音楽室、いこ