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三年生の夏は思っていたよりも あっさり始まった
朝の教室
窓から差し込む光
騒がしい一・二年生
でも俺たち三年はどこか一段落ち着いている
「引退」「受験」「進路」
まだ本気で話すには早い言葉たちが 空気の端にうっすら浮いていた
放課後の美術室
なつは窓際で白いキャンバスを前に立っている
すち
俺が聞くとなつは少し考えてから答えた
暇72
すち
暇72
理由は言わない
なつは昔からそうだった
自分の中で整理がつくまで誰にも見せない
それを俺は“いつものこと”だと思っていた
別の体育館では
こさめはラケットを振りながら、
雨乃こさめ
後輩
後輩が首を傾げる
こさめは気にせずまたボケたことを言う
本人は自覚していない
空気を軽くしているつもりもない
ただそうしないと“終わり”を考えてしまうから
秋
バスケ部、水泳部、卓球部、軽音学部
次々と「最後」がやってくる
いるまの最後の試合の日
みことは誰よりも真剣な顔をしていた
勝っても負けてもそれで一区切り
ちゃんと終わる関係
一方、体育館では
バスケ部が練習していた
バスケ部の練習は 夏に入ってから一気に厳しくなった
いるまはコートの中央で声を張っている
見た目は怖いけど
でも指示は的確で後輩からの信頼も厚い
いるま
試合後ベンチに戻るとみことが水を差し出した
みこと
いるま
みこと
みことは笑う
天然ででも誰よりも人の変化に敏感だ
いるまは一瞬だけ視線を逸らして
いるま
と小さく言った
その二人を見て
“ちゃんとした終わり”が もう近づいていることを感じた
音楽室ではらんがギターを抱えていた
文化祭用の曲
何度も同じフレーズを弾く
雨乃こさめ
こさめが後ろから言う
LAN
雨乃こさめ
LAN
不満そうな顔のらんにこさめは小さく笑った
普段はあざとくてふざけてばかりなのに
音楽のことになると妙に鋭い
雨乃こさめ
LAN
雨乃こさめ
その一言でらんは音を止めた
何も言わないけど図星だった
文化祭準備期間
学校全体が騒がしい中美術室だけは静かだった
なつはようやくキャンバスに色を置き始める
夏の空
校庭
少しだけ夕方
すち
俺が聞くとなつは首を振った
暇72
その言葉に胸がざわつく
文化祭当日
美術部の展示室
なつの作品の前でみことが立ち止まった
みこと
いるま
いるまも頷く
みこと
本人は照れたように笑う
暇72
みこと
みことの一言になつは何も言い返せなかった
片付け後
夕方の校舎
らんはギターケースを抱えこさめが隣を歩く
雨乃こさめ
LAN
LAN
らんは黙ったままこさめの手を少し強く握った
その帰り道
なつがぽつりと言った
暇72
すち
暇72
なつは笑う
でもその笑顔は少しだけ疲れていた
すち
そう言ったのは
自分に言い聞かせるためだったかもしれない
幼馴染と同じ部活で同じ時間を過ごしている
でも同じ“速さ”じゃない
夏と秋の間で俺はようやく気づき始めていた
――このまま何も言わなければ
俺となつは“ずっと近いまま” 別の場所に行ってしまう