佐藤
最近ちょっと、気になることがあって…。

霊能力 田坂
気になること?

佐藤
ええ。

佐藤
私、今一人暮らししてるんですが、夜にイタズラされるんです。

霊能力 田坂
イタズラ…。それはどんな?

佐藤
インターホンが鳴らされるんですよ。

佐藤
でも、インターホンに出て外に呼びかけるんですけど、何の反応もなくて。

佐藤
それが何日間か続いたもんだから、先日思い切って、インターホンが鳴らされたと同時にドアを開けてみたんです。

佐藤
勿論ドアにチェーンをかけてですけど…そうしたら…

霊能力 田坂
そうしたら?

佐藤
誰も居なかったんです…。

霊能力 田坂
所謂ピンポンダッシュというやつでは?

霊能力 田坂
ピンポン鳴らして、すぐに走って逃げる。

霊能力 田坂
近所の悪ガキの仕業とか?

佐藤
…それはあり得ないと思うんです。

霊能力 田坂
ほう。どうしてですか?

佐藤
私の家は3階建てのアパートで、私は三階に住んでいます。

佐藤
階段は一つしかなくて、私はその階段に一番遠い所に居るんです。所謂角部屋。

佐藤
インターホンが鳴らされて、私がドアを開けるまで、2秒もかかってないと思います。

佐藤
ずっとドアの前に待ち伏せしてたので。

佐藤
だからピンポンと同時に逃げたとしても、とても逃げ切れる時間じゃない。でもドアを開けたら、

霊能力 田坂
人影なかった。

佐藤
…はい。

佐藤
こんなこと、知り合ったばかりの田坂さんに言うことじゃないんですけど…。

霊能力 田坂
…成る程。

霊能力 田坂
佐藤さん、先日このバーで貴方に初めに話しかけたことは覚えてますか?

佐藤
……。

霊能力 田坂
貴方には、悪い霊が憑いている

佐藤
…はい。

霊能力 田坂
私はね。この前自己紹介した通り、巷では名の知れた霊能力者です。

霊能力 田坂
佐藤さん、こんな事言うもんじゃないですが貴方は相当まずい状態にある。

佐藤
…。

霊能力 田坂
トンタトンタってご存知ですか?

佐藤
トンタトンタ?

霊能力 田坂
ある霊の総称です。

霊能力 田坂
トンタトンタは別名殺人鬼の霊と言います。

佐藤
殺人鬼…!

霊能力 田坂
貴方にはそのトンタトンタが憑いているのです。

霊能力 田坂
言いにくい事ですが、直ぐに対処しなければ…、

霊能力 田坂
命が、危険です。

佐藤
そんな…!ど、どうすれば…!!

霊能力 田坂
対処法があります。

佐藤
……。

隣人
こんにちは。

佐藤
こんにちは。

隣人
ん?大丈夫ですか?顔が青ざめてますよ。

佐藤
え!そ、そうですか?

隣人
ええ。何か思いつめた顔をしている…。

佐藤
…。

隣人
…もしかして家に何か異変でも起きましたか?

佐藤
え?

隣人
いや、実は前に住んでた人もそんなこと言ってたんですよ。

隣人
イタズラがひどいとか。この家には霊がいるとか。

佐藤
…呪い。

隣人
私は霊なんか信じていない口でね。どうせ寝ぼけて夢でも見てたんですよ。

隣人
ほら、そんな実在するかわからないものより、実在する人間の方が怖いでしょ?

隣人
最近なんてほら、連続殺人とか起きてるでしょ?

隣人
あっちの事件の方が数倍怖い。

佐藤
…殺人鬼。トンタトンタ。

隣人
え、何か言いました?

佐藤
いえ、何でも。

佐藤
じゃ私急いでるので、失礼します。

佐藤
……。

佐藤
トンタトンタを欺くには、まず塩を少量飲む。

佐藤
そして、敢えて鍵を開け、眠る。

トンタトンタから逃れるには、敢えてトンタトンタを家に入れることが重要だ。
霊は人間の生気を感じる。塩を飲む行為はその生気を隠すことができる。
塩を飲んだ状態で、トンタトンタを家に入れる。トンタトンタは家中を探すが獲物は見つからない。
その時家中を物色されるかも知れないが決してそれを見てはいけない。あくまで寝て過ごし、やり過ごさなければならない。
その時トンタトンタは腹いせに何か貴方のものを冥界へと持ち帰ってしまうかもしれない。
貴方がまだ生きていることをトンタトンタに知られてはいけないからだ。
佐藤
…これでよし。

佐藤
…1時か。そろそろトンタトンタが来る時間。

川澄刑事
ふー。

佐々木巡査
あ、川澄刑事。

川澄刑事
おー。佐々木か。

佐々木巡査
この時間まで残業でしたか?大変ですね。

川澄刑事
…お前もな。今、窃盗事件追ってるんだっけ?

佐々木巡査
ええ。遅くまでの捜査の甲斐あって、大きな手がかりを得ましたよ。

川澄刑事
なに?!

佐々木巡査
この窃盗グループは手を変え品を変え、大きな被害を出してるんですが、現在の盗みの手口が分かったんですよ。

川澄刑事
ほう。それはどんな?

佐々木巡査
くれぐれも内密にお願いしますよ。

佐々木巡査
川澄さん、トンタトンタってご存知ですか?

川澄刑事
いや、聞いたことないな。

佐々木巡査
殺人鬼の霊の都市伝説です。窃盗犯が広めたね…

佐々木巡査
ある時、毎晩のようにインターホンが鳴らされる。ただのイタズラかなと思う。

佐々木巡査
でも不思議なことに、インターホンが鳴らされてすぐにドアを開けても人影がない。

佐々木巡査
何故か?それはトンタトンタという霊の仕業だから。トンタトンタは貴方を殺そうとしている。

川澄刑事
…。

佐々木巡査
逃れるにはどうすれば良いか?

佐々木巡査
塩を少量飲み、敢えて家の鍵を開けとくんです。塩を飲むことで、トンタトンタに見つからなくなり、諦めて冥界に帰るとかなんとか。

川澄刑事
なんだそりゃ笑

佐々木巡査
まあ、確かに馬鹿げた話です。

佐々木巡査
でもこれが実際自分の身に起きると案外信じてしまうらしいんですよ。

川澄刑事
それで被害者は自分から、窃盗犯を家に招き入れてしまう訳だ。

佐々木巡査
その通りです。

川澄刑事
人影は?インターホンが鳴らされてすぐドアを開けても誰も居ないんだろ?それはどう説明する?

佐々木巡査
そこがこの盗みの巧妙な所です。

佐々木巡査
この窃盗は複数で行われるんです。

川澄刑事
複数。

佐々木巡査
ええ。一人はインターホンを鳴らす役割。そしてもう一人は、

佐々木巡査
その家の隣のドアを開けとくんです。

川澄刑事
え?

佐々木巡査
被害者に狙う人物。その隣の部屋を借りるんですよ。

佐々木巡査
一人がインターホンを鳴らす。一人がその隣の家のドアを開けて待っとく。インターホンを鳴らすと同時に隣の家にすぐに駆け込む。

佐々木巡査
そうすればあら不思議、そこには人影はいない。

川澄刑事
成る程。

佐々木巡査
この盗みの肝はトンタトンタという霊の存在。そしてそれに伴う嘘の対処法を伝えることにあるのですが、

佐々木巡査
隣人がその話をしたら直ぐに疑われてしまいますからね。

佐々木巡査
でもそれが全く関わりのない人物だったらどうでしょう。

佐々木巡査
もし疑われたとしても先程のように、直ぐにドアを開けても人影はない。幽霊の仕業と信じてしまう訳ですよ。

佐々木巡査
まさか、噂を伝える男と隣人がグルなんて夢にも思わないですからね。

霊能力 田坂
…ふん。馬鹿な女だ。

霊能力 田坂
全く面白いように皆引っかかるな。さてゆっくりと仕事させてもらうか。

田坂は家に無事侵入し、物色し始めた。財布、宝石、バック、金目になるものをある程度バックに入れた後、ある物を見つけた。
霊能力 田坂
ん?

霊能力 田坂
…え?これは…?

佐々木巡査
ところで、川澄刑事はどうですか?

佐々木巡査
今、連続殺人事件を追ってるんですよね。

川澄刑事
ああ。

川澄刑事
だけど、残念ながらこっちは全然だ。手がかりが少なすぎる。

川澄刑事
動機も犯人像も何も分からない。

川澄刑事
分かるとしたら、凶器だな。

佐々木巡査
凶器?

川澄刑事
現場には凶器は残ってない。だが、被害者はいずれも心の臓を一突きされている。

川澄刑事
同じ、ナイフで刺されてるようだ。

霊能力 田坂
…ナイフ?血が!

佐藤
たーさーかさん。良かったー、幽霊じゃなくて(^^)

霊能力 田坂
!!!

隣人
田坂の奴遅いな。

隣人
隣の、佐藤かおり。大学生に関わらず、相当溜め込んでいたか笑

隣人
やっとか。
