テラーノベル
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あーもんど
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コメント
1件
めーっちゃおもしろかったです🩷続き待ってます💖️
春は、色々なことが始まる
新しい学校
新しいクラス
新しい人間関係
テレビをつければ、新しいアニメが始まっているし
街には新しい服が並ぶ
何かが終わったあとには
決まって何かが始まる
そういう季節だった
宮城の春は、東京ほど騒がしくない
朝の空気はまだ少し冷たくて
道の端には冬の名残みたいな枯葉がある
私は自転車をゆっくり漕いでいた
学校は向かういつもの道
住宅街を抜けると、畑が広がる
その向こうには山があって
風が吹くと土の匂いがする
私はこの道が嫌いじゃなかった
でも、お母さんはきっと嫌いだ
こんな田舎
きっと東京みたいな場所にいたいんだと思う
高いビルがあって
夜になっても明るくて
歩いている人もオシャレで
誰かに見つけて貰えるような
そんな街
お母さんにはそういう場所の方が似合っている
私とは違う
そんなことを考えながら
自転車のハンドルにかけた鞄を少し持ち上げた
スマホが振動した
銀行からの通知
毎月決まった日に届く
私は信号のない道の端に自転車を止め
画面を開いた
入金
いつもの金額
お母さんからだった
しばらく画面を見つめる
金額を確認して、それから通知を閉じた
お母さんが今どこにいるのかも分からない
今、誰といるのかも
いつ帰ってくるのかも
でも
お金はちゃんと振り込まれている
それだけで、少し安心する
大丈夫
まだ、繋がっている
そう思うことにして
私はスマホをポケットにしまった
自転車にまたがる
春の風が少しだけ冷たかった
私はペダルを踏んで、学校へ向かった
教室に入れば私は普通だった
『おはよう』と声を掛けられれば
返事をする
席に座って、友達と昨日見たテレビの話をする
新しく始まったアニメの話
クラスの誰かの恋愛の話
テストが面倒だとか
今日の体育が嫌だとか
くだらない話をして
笑う
別に友達がいない訳では無い
ずっと一人でいる訳でもない
私は、普通の女子高生だった
少なくとも学校では
そして、その日の昼休み
進路相談のために
私は先生に呼ばれた
空き教室にある小さな机
先生は進路希望調査票を眺めながら
何度かペンを動かしていた
先生
先生が1度言葉を止める
先生
先生
少しだけ聞きづらそうな声だった
私は先生の顔を見る
〇〇
嘘では無い
話している
たまにだけど
先生
〇〇
〇〇
先生
先生
〇〇
〇〇
〇〇
先生が少し眉を寄せた
先生
〇〇
〇〇
〇〇は少し笑った
先生もそれ以上強くは聞かなかった
先生
先生
先生
先生
先生
〇〇
先生
先生
〇〇
〇〇は頷いた
進路調査票の端に書かれた名前を見る
矢崎〇〇
その下は空欄のままだった
先生は知らない
私が本当は大学に行きたいわけでも無いことを
適当に大学に行って
そのさきをどうするかなんて
まだ何も考えていないことを
そして
小説家になりたいなんてことを
家ではもう、口にしていないことも
放課後
教室に残っていた生徒たちも
少しずつ帰り始め
校舎が静かになっていく
私は図書館の端っこに座っていた
机の上には何枚もの原稿用紙
ペンを握ったまま
書きかけの文章を読み返す
今回は
いつもより上手くかけている気がした
言葉がすんなり出てくる
登場人物の気持ちも
自分でも驚くくらい自然にかけた
もしかしたら
今回は、通るかもしれない
出版社に送った原稿が、もし選ばれたら
もし本当に
小説家への一歩を踏み出せたら
ーーーお母さん、褒めてくれるかな
そんなことを考えてしまった
『すごいじゃん』って言ってくれるかもしれない
『おめでとう』って笑ってくれるかもしれない
それから
私のことを少しでも気にかけてくれて
もしかしたら帰ってきてくれるかもしれない
そんな淡い期待が、胸の奥に浮かんだ
自分でも馬鹿みたいだと思う
でも、子供というものは
多分そういうものだった
何度離れていかれても
何度裏切られても
少しだけ期待してしまう
私はまた原稿に目を落とした
その時
『うわー、疲れた』という男子の声が
廊下から聞こえた
続いて何人かの笑い声
図書室のドアが開く
及川
及川
男子たちが何人か入ってきた
見覚えのある顔もいる
どうやら部活の帰りらしい
私は小さく息を吐いた
こういう騒がしいのは苦手だった
原稿をまとめて、鞄に入れようとする
その時だった
1枚だけ
机の端に置いていた原稿用紙が、床に落ちた
私は気づかなかった
鞄をもって
図書室を出ようとする
その後ろを男子が通った
ーービリッ
小さな音がした
岩泉一
足元を見る
白い紙が1枚
真ん中から大きく裂けていた
その紙を踏んでいた男子が
慌てて足を退ける
岩泉一
顔をあげる
短い髪
少し汗の残った制服
困ったような顔
岩泉一
岩泉一
岩泉一
それが私が初めて彼を
ちゃんと見た瞬間だった
私は何も言わず、床に落ちた紙を拾い上げる
破れたところを指でなぞる
書き終えたばかりの、1番大事なページだった
それでも
〇〇
それだけ言った
怒る気にもらなれなかった
どうせ
どうせ、駄作だったし
そう自分に言い聞かせて
私は破れた原稿を鞄にしまった
そしてそのまま図書室を出た
背中の向こうで
彼がまだ何かを言おうとしている気配がした
でも、振り返らなかった