司
どうだ、絵名。美味しいか!?
絵名
う、うん……
あれからというものの、天馬くんは毎日弁当を作るようになっていた。
絵名
(クオリティは高いし、美味しい。でも──)
今日は、一味違った。 人参があるのだ。
アスパラガスと人参を豚肉で巻いたもの。不味いわけではないと思う。しかし、苦手な食べ物である人参が入っているなんて……。
絵名
(どうしよう。いらない、なんて言えないし……)
司
どうかしたのか?
絵名
え、ええ、と……
優しく微笑みこちらを伺っている。 さて、どうしたものか。正直に苦手だ、というのが一番いいのだろうが……。
絵名
天馬くんは、嫌いな食べ物ってあるの?
司
オレ?オレはピーマンが嫌いだな。そういう絵名は何かあるのか?
絵名
私は……
司
っ──そ、そうか、!オレは失念していた……!
絵名
え、な、なに?
司
絵名に嫌いな食べ物を聞いていなかった。初歩的なことを忘れていた……
絵名
いやいやそれくらい大丈夫だよ
絵名
(現在進行系ピンチだけと)
絵名
(でも、ここで言い出さないと一生言いにくい状態になる?)
絵名
(でもお弁当を作ってもらってる立場なのに文句なんて言えないんじゃ…!)
絵名
(──ああもうっ!どうしよう!)
司
絵名……?
不安そうにこちらを覗き込むその視線から逃げたくなる。
司
大丈夫か?何か口に合わないものでもあったか?
絵名
うーん、そうじゃないんだけど
絵名
(人参が嫌い、なんて子供っぽいかな。でも天馬くんはピーマンが嫌いなのか)
絵名
(変わらない、か……。)
絵名
実は、人参が苦手で……
司
な、なんと!それは失礼した
絵名
こちらこそ、言ってなくてごめんね。
司
そうか、なら……オレが……
と、言いかけたところで止まった。
絵名
どうしたの?
司
うむ……。そう、オレが食べればいいんだな
絵名
いいの?ありがとう
司
ああ。じゃあ、オレの口に入れてくれ
絵名
えっ
絵名
(そこは自分で取ってくれないんだ)
口を開けて待つ天馬くん。 少し恥ずかしいが、相手は気にしてないしそういうものなんだろうか。
いや、よくよく考えたら子供の頃彰人にこうやって食べさせてたし。今は絶対やらないけど。
私は箸で人参のはいったおかずを取って、口元に運ぶ。
それを天馬くんは満足そうに食べて、もう一度口を開いた。
司
ほら、もう一つあっただろう?
絵名
う、うん
私はもう一個、口に運んだ。
どことなく幸せそうな顔をする彼に、言えることはなく。
絵名
(兄弟じゃなきゃ、ただの恋人同士みたいになるよな)
そんなふうに、頭の片隅で思った。
絵名
そういえば天馬くんは兄弟とかいるの?
司
ああ、妹が一人。
絵名
通りで……
だから、距離感がおかしいのだ。
絵名
あんまり妹とクラスメイトの距離感混ぜちゃ駄目だよ?
司
……勿論、それには気をつけているさ。
怪し気に笑うその表情の意図はうまく読み取れなかった。
それから、お弁当に人参がよく入るようになり、そのたびに天馬くんの口に運ぶようになったのだった……。
続き♡2000↑ (ゆっくり書きたいです。続きがあまり思い浮かんでないです。)