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ブクマ&マイリスト失礼します!!🙇🏻
もうほんっっっとに好きです(´TωT`)
号泣よね。
暗く
重苦しい空気が積もった階段
登りきりそうな兄を
呼び止める
𝐽.
積もったはずの重さは
上にいる彼の方が重く見えた
聞こえてるはずの彼は
振り返らずに
足を止める
𝐽.
裏返った声
上手く言葉を送れなくて
思わず
あの頃の言葉を蒸し返す
言いたいことが
伝えたいことが
数え切れない程あるのに
それが言葉にならない
はやく
はやく言葉にしないと
兄は
この人は
逃げてしまう
ああどうしよう
どうすれば
ねぇ、母さん
俺は
なんて言えば
彼を傷つけずに
救えますか
𝐽.
同じことを繰り返す俺を
振り返って
彼は
少しだけ笑った
その笑顔も
どきり、とするほど
悲しい顔なのを 分かっているのだろうか
𝐽.
目を逸らして
黙ってしまった俺を置いて
彼は部屋へと行ってしまう
″ 兄ちゃんのこと、よろしくね ″
病室で
去り際に兄に囁かれた言葉
𝐽.
なんで俺に出来ると思ったんだ
そういうのは 兄ちゃんの方が得意でしょ
なんて言えば
彼の目の奥の苦しみは消えてくれるの
なんて言えば
その責任感を吐き出してくれるの
なんて聞けば
わざと、ころ兄ちゃんが 自分に怒りをぶつけるよう
わかりやすい作り笑顔を 貼り付けたのか
答えてくれるの
彼の何を知ったら
悪役になろうとする理由を 理解できるの
分からないことだらけの自問自答に
目が回りそうになりながら
言葉を積もらせる
𝐽.
彼は
演じ切れていない
悪役も
完璧な兄も
泣かない自分も
だって
どれも本当のなーくんじゃないから
綻びが生まれるのは当たり前だ
問題は
彼の信念
いわば、頑固さにある
どうすればいい、なんて
物語のように取り扱い説明書があれば わかるんだろうけど
この世界に
そんなものはないから
″ 見えない壁もぶつかってみなさい どうせ、死んだりなんか しないんだから″
冗談めかした母の声
蘇ることは幸いか否か
深呼吸をして
兄と母の言葉を反芻しながら
上へと登る
心に芯を入れて
自分の服をぎゅっ、と掴む
大丈夫
壊れさせたりなんかしない
もう後悔しないように
自分を証明するために
ノックをせずに
堂々と入った部屋は
常に保たれていたはずの 温度よりも低くて
床は氷みたいに冷たい
足の指が
雪を踏んだかのような感覚になる
肝心の彼は
まるで俺が来るのが 分かっていたかのように
ドアに背を向けて
椅子に座っていた
大丈夫
ここで逃げちゃいけない
思いを固めて
そっと言葉にのせる
𝐽.
傷つけず
救えるように
𝐽.
自分の
1番素直な気持ちを
彼の肩は少しだけ跳ねた
𝐽.
𝑁.
決して大きくはないが
低くて
存在感を示す声
𝑁.
𝑁.
ねぇ
ダメだよ
𝐽.
俺は
なーくんからしたら弟で
いつまでも子供で
なら
子供のようなわがままも
聞いてくれるよね
𝑁.
𝐽.
𝐽.
俺は
何度も許したはずだよ
𝑁.
𝑁.
𝐽.
父さんが荒れた時に
俺たちの盾になるために
たくさん傷ついたこと
寂しくても
辛くても
苦しくても
俺たちの誰一人にも言わなかったこと
その痛みを
誰にもぶつけず
自傷行為に似た行動で
自分をどうにか保っていたこと
あの時
俺は気づけなかった
だから
𝑁.
𝐽.
𝐽.
今度こそは
諦めたように
椅子がくるりと回転して
彼の顔がこちらに向く
𝑁.
ほら
やっぱり
𝐽.
𝑁.
なんのことか理解出来ず
頭をフル回転させている彼に
ゆっくり
確かめるように近づく
彼の目の周りにある
赤い点たち
最初は寒さでかじかんだのかと 思っていたが
どうやらそうではないらしい
手を伸ばして
そっと
彼の頬に触れる
やはり
内出血のようだ
″ 皮下出血 ″
泣き叫んだことを
笑顔で隠さなければならないほど
俺たちは
俺は
彼を追い詰めたのか
目の周りをなぞると
彼も気がついたのか
慌てて俺の手を振り払う
𝐽.
𝑁.
目をぎゅっと閉じて
拒むように叫ぶ
𝐽.
できるだけ
少し怒りを含めて
静かに言い放つ
𝑁.
𝑁.
掠れた声で
拒否する兄
𝐽.
𝐽.
𝑁.
𝐽.
怒っているとも
無感情にも聞こえるこの声
𝑁.
あまり反抗的な態度を とったことがないからか
戸惑ったように目を泳がせる
重心をかけた左足が痛い
もう少し
𝐽.
𝑁.
𝐽.
おおよその予想はついている
このことに関して
知る権利はあるはずだ
𝑁.
𝐽.
𝑁.
𝐽.
𝑁.
𝐽.
𝐽.
𝐽.
そんなわけがない
𝑁.
𝐽.
あとひと押し
口にするのを迷って
数秒、間を置く
𝐽.
𝐽.
𝑁.
大きな音をたてて
立ち上がる
恐怖を抱く程の気迫
自分の兄ながら
この気迫には勝てないと実感する
でも今は
逃げちゃいけない
この恐怖と 比べ物にならないくらいの恐怖を
彼は耐えてきたはず
𝐽.
𝐽.
𝐽.
𝑁.
怒鳴りながら
こちらに詰め寄ってくる
𝐽.
𝑁.
𝑁.
𝑁.
ベッドの方に後ずさる
𝐽.
𝑁.
𝑁.
ふくらはぎがベッドにぶつかる
𝐽.
怖くて強ばった口を
どうにか動かす
𝐽.
𝐽.
𝑁.
胸ぐらを掴まれる
𝑁.
バランスを崩して
左足をベッドに強打する
その時
ベッドの隣に置いてあった鞄から
神々しい
高い音が響いた
𝑁.
𝑁.
𝑁.
胸元が
優しく
解放される
𝐽.
ダメなんだよ
それ以上は
𝑁.
右手で目を隠して
机にぶつかるまで後ずさる兄
𝑁.
𝐽.
言い訳すらもしないのが
苦しくて
ごめんなんて言わないで
だって
怒るように
俺が仕向けたんだから
𝐽.
𝐽.
少しは
俺のせいにしてよ
𝑁.
彼の唇から
鮮やかな赤が零れる
顎を伝うのも
服に色がつくのも
床を染めるのもお構いなしに
彼は
歯に力を入れ続けている
𝐽.
それ以上
抱えないで
𝐽.
唇に滲んだ血を
親指で優しく拭う
𝐽.
彼の心が
取り返しがつかなくなる前に
𝑁.
𝑁.
𝑁.
自分を嘲笑うかのように
彼は口角を上げる
𝐽.
𝐽.
もう
𝐽.
守らなくていいから
𝐽.
俺の言葉が
彼を壊した
操り人形の糸が切れたように
彼は
その場に崩れ落ちた
彼の傍に
小さな雨が降る
同じように
彼の前に膝をついて
頬についた水滴を拭う
𝐽.
𝐽.
彼から落ちた雨は
唇の血を攫って
赤い色水となって床に落ちる
まるで彼の心から溢れた血のように
痛みを堪えるかのような
隠すような
静かな嗚咽
𝐽.
こんなに痛かったのか
こんなに苦しかったのか
こんなに追い詰められていたのか
弟たちの前で泣くことがなかった兄が
こんなに、
感情が止まらなくて
彼の肩を
安心させるように
強く、抱き寄せる
潤んだ瞳じゃ
彼の涙の数も分からない
抱き締めた体は
あまりにも華奢で
今まで
どれだけ 彼を強いと思っていたのか
𝑁.
浅い呼吸に挟まれた
短くて
とても簡単な言葉
その言葉からさえも
彼の重い痛みが伝わってくる
𝐽.
そうだよ、とも
そうじゃないよ、とも言えなかった
どちらの言葉も
あまりにも無責任すぎる
縋るように
彼の右手が
俺の左胸辺りの服を握りしめる
まだ熱を帯びている
右頬を
俺の心臓辺りに当てる
指先が凍りそうな
寒い寒い部屋で
時計の音と
時々聞こえる しゃっくりの音だけに囲まれて
世界から置いていかれたように
ただ
ふたり
気持ちの向くままに
2人分の
傷を刻む
𝑡𝑜 𝑏𝑒 𝑐𝑜𝑛𝑡𝑖𝑛𝑢𝑒𝑑...