漆翊の英雄

波乱の幕開けとはこの事である。

クラスの子供たちと違い、 少しだけ大人びているように 思えたフレアは、 質問攻めにしてくるというよりかは マシンガントークをかましてくるタイプだった。

ちなみに今は上体起こしの計測を していたのだが、 一秒間に一回ずつ全くペースを落とすことなく300回目を記録し終えて 息を全く切らしていない。

揺れる髪からほのかに 薔薇の花の香りがする。

耳打ちされた内容は 校則を破るには十分なる理由であった。

この街では校内一の 成績を誇るものに 一定以上の討伐ランクがあるとして 国からミドルネームが送られる。 王国親衛隊騎士及び英雄候補の 区別にもされているとか。

どこの世界でもミドルネームは 家族や恋人、親友枠にしか 呼ばせないのは常識だろう。

ここで凪はふと思った。 人間のことが、なんてあえて人間には 言わないだろうと。

そして沸き立つ一抹の不安。 もしや、正体がバレている…？ 身バレ→告げ口→退学…？

魔物を淘汰する世界で 身バレはまずい。 色々な思考がぐるぐると巡り出して、 それを否定する言葉を求めて 恐怖を押し殺し口を開く。

ﾋｭｯと喉から音が鳴った気がした。

押さえ込んだ最悪の想定が 現実と化していたのを 知った瞬間であった。

夜。寮の部屋で開かれる 緊急会議。 議題はスピアバディに 人外バレしてたことについて。

人間の狡猾さに何度も 騙されかけてきた経験がある凪は とにかく言いふらされやしないか 心配だった。

スージー＝ブロッサム＝コアントロー。 凪の師匠であり、王国親衛隊騎士。 彼女は慈愛に満ちた女性だった。

スージーの相棒武器であり 恋人であるコアントロー兄弟も とても愛情の深い人達だったと思う。

皮肉屋だが面倒見がよく 日々勉強を見てくれていた コアントローの兄、 ルシオ＝ヴィル＝コアントロー。

天真爛漫で 子供心ある柔軟な思考力を持った コアントローの弟、 シュトレ＝ヴェル＝コアントロー。

彼らは王宮で下働きをしていた 凪を引き取ることに 反対していたらしい。 それはスージーの身を案じての 事だったし、 それでも最終的には彼女の気持ちを考慮して 受け入れたのであって…

凪のフィアレトーラ支給の 総合連絡携帯端末から 着信の音が鳴った。

魔法式立体映像が元気に 動き回っていた。

果たして、凪は トゥリアン＝アラネア＝スピアの 好感を掴むことができるんだろうか？ 乞うご期待！

【登場人物紹介】

【ルシオ＝ヴィル＝コアントロー】 凪の育ての母親の恋人。 双刀鎌の片割れ。 父親というよりは兄のような存在。 皮肉屋だが確かにスージーを 愛しているし、凪の事も愛でていた。 弟のことは溺愛していて、目に入れても痛くないほど可愛がっている。

いずれ回想や本編で 出てくるかもしれない。

【シュトレ＝ヴェル＝コアントロー】 凪の師匠であり育ての母親である スージーの相棒武器 双刀鎌の片割れ。 天真爛漫で少し幼い。 凪とは実の姉弟のような 接し方をしてくれている。 スージーのことはどちらかというと 兄の嫁というより母親のように見ている。

いずれ回想や本編で 出てくるかもしれない。

【用語解説】

〈魂幹(こんかん)〉 魂の根幹(こんかん)。 魔力や呪力が出ている部分のことで、 魂に深く関わる部分。 魔族と人間ではそもそも着いているものが違ったりする。