少なくとも、この食堂には一度訪れているということを。
縁
ブレーメンの音楽隊。

縁
中嶋さん、私達と合流した際、解放軍のことをそう呼びました。

縁
これは――なぜですか?

中嶋
それは、ほら――こいつらのラバーマスクを見て下さいよ。

中嶋
様々な動物達が――。

縁
そうではなくて。

縁
なぜ、私達と合流した際に、知っていたのですか?

縁
解放軍が動物の被り物をしているということを。

縁
一度も食堂に足を踏み入れたことがないのであれば、解放軍がどんな格好をしていたかなんて知っているはずがありません。

縁
まして、それをブレーメンの音楽隊だなんて比喩することは不可能なんです。

縁
つまり、あの段階で解放軍のことをブレーメンの音楽隊だと連想できるのは、実際に動物の被り物をしていることを知っていた人間のみ。

縁
中嶋さん、あなたはどこでそれを知ったのですか?

中嶋
……色々と頭を絞ったんですけどねぇ。まさか、山本さんにここまで追い詰められることになるとは思いませんでした。

中嶋
本当は坂田とやり合いたかったのに。

坂田
俺とやり合うなんざ百年早ぇよ。

中嶋
ですよねぇ。

中嶋
ずっと0.5係が羨ましかったです。坂田の才能を目の当たりすることができる。もはや、芸術とも言えるセンスを、目の前で見ることができますからね。

中嶋
でも、俺はただの刑務官。同じ空間に坂田がいても、触れることができない。何を考えているのか知ることもできない。これがどれだけ歯痒いことか分かります?

倉科
中嶋、本当にお前がやったのか?

倉科
どうして?

中嶋
坂田と直接やり合いたかった――ってのもありますよ。殺人蜂に悪食。あいつらはどこか中途半端だった。事件の顛末を知るたびに、自分だったらどうするか妄想してました。

中嶋
そんな最中、不満を抱いた職員達が、ここでクーデターを起こすなんて話を聞きました。

中嶋
これを利用すれば、坂田と直接やり合える――そう考えた俺は、真っ先に手を挙げたんですよ。

中嶋
反乱を起こそうとする哀れな馬鹿どものリーダーをやるってね。

倉科
中嶋……お前、なんてことを!

中嶋
倉科さん、手錠かけてくださいよ。

中嶋
まぁ、国も事態を大ごとにしたくないから、このことは真っ先に隠蔽するでしょうけどね!

尾崎
くっ、まさか最初からそのつもりで――。

中嶋
機密の場所で起きた、大規模なテロ事件。

中嶋
どうやって国は収束させるんでしょうねぇ!

中嶋
あっはっはっはっはっ!

次の瞬間、坂田の繰り出した拳が中嶋を吹き飛ばしていた。
坂田
うるせぇ。狂人ぶるんじゃねぇよ、気持ち悪ぃ。

中嶋の計画は、事態が事態なだけに国がもみ消しに走ると考えた結果のもの。
仮に立件されたらされたで、中嶋は洗いざらいを喋るつもりなのだ。
そもそも、中嶋がレジスタンスリーダーであるとする根拠は、状況証拠しかないのだから。
中嶋
やった、あの坂田に殴られた!

中嶋
もう絶対に顔洗わない。洗わないんだ!

それを手引きした人間は、おそらく口封じの意味で不起訴となるだろう。
縁
なんなの、これ――。

その現実を突きつけられた縁は、ただただ漠然と呟くことしかできなかったのであった。