誰かのために笑うのは、きっと優しさだ。 でもそれを続けすぎると、自分の心が擦り減っていく。
悠祐
今日もみんな、ありがとう……
配信の最後の言葉を噛みしめるように言って、 悠祐はそっとマイクを外す。 静かな夜に、ぽつりと響く声があった。
易
君はいつも、人のことばかり考えてるね
悠祐
……来たんだ、易
暗がりの中、現れたもうひとりの“自分”。 穏やかな顔で、それでもまっすぐに見てくる 彼の瞳が痛かった。
易
“大丈夫だよ”って、何度も言うけどさ。本当は君が一番、助けてほしいんじゃないの?
悠祐
……それは違うよ。僕は……強いから
易
強い人間は、自分を犠牲にしない。それを“優しさ”って呼ぶのは、ちょっと違うと思う
その言葉に、胸の奥が揺れる。 本当は、ずっと気づいていた。 でも気づかないフリをしてきた。
悠祐
僕が優しくしなきゃ、誰かが壊れてしまいそうだったんだ
易
じゃあ君は? 君が壊れたら、誰が君を守るの?
悠祐
……
言葉に詰まったその沈黙を、易は静かに受け止めた。 怒りでも、悲しみでもなく、ただ――願いだった。
易
ねえ、悠祐、君の人生の主役は、“君”であっていいんだよ
悠祐
主役……
易
誰かの幸せを願う前に、まずは君自身を大切にしてあげて
その声は、優しく、あたたかく―― そして、初めて“自分のため”にかけられたものだった。
悠祐
……ありがとう、易。僕、少しずつ……自分のこと、見てみるよ
易
それでいい。それが、君の“選択”なんだから
静かな夜が明ける。 その胸には、確かな一歩が刻まれていた。
【第六話 了】