青
ベッドから重い体を起こし、 独り言を呟く。
青
部屋のドアを開けると、ドタドタと 足音が聞こえてきた。
桃にい...
なんでそんな走ってんだろ...
青
そう声をかけると、桃にいは驚いた 表情で「青...」と呟いた。
桃
そう叫ぶ桃にいは息を切らしている。
青
何を慌てているのか全くわからず、 詳しく聞こうとすると、
桃
桃
と言って階段を降りて行った。
青
桃にいの勢いに負け、よくわからないまま「うん」と言ってしまった。
どういうこと...?
青
そう呟くと、「青にい」という声が 聞こえてくる。
声がした方を振り向くと、黄くんが 不思議そうな顔をして立っていた。
黄
黄
青
黄
青
黄
青
黄
教えてもらえなかったのが 不服なのか、少し不機嫌になりながら 橙くんを起こしに行く黄くん。
ごめんね...まだ僕も全然 わかんないんだ...。
と心の中で呟きつつ、階段を降りた。
...赤ちゃんに何かあったのかな。
おそらく紫にいが作ってくれたご飯を レンジで温めながら、ふと考える。
黄
黄
青
黄
黄
黄
青
青
黄
黄
青
僕よりもしっかりしている彼。
いつも黄くんに怒られて、その度に どっちが兄なのだろうかと考える。
橙
青
橙
青
青
橙
青
橙
青
橙
黄
青
橙
黄
青
黄
橙
黄
黄
橙
橙
黄
黄
橙
黄
橙
黄
橙
黄
黄
青
食器を持って、立ち上がる。
青
赤ちゃん...大丈夫かな...
食器洗ったら、久しぶりに赤ちゃんの 部屋にでも行ってみよう。
青
そう決めた僕は、急いで 食器洗いを始めた。
青
食器を洗い終え、休憩のため ソファーに腰掛けると、下2人が 喧嘩をしている声が聞こえ、 耳を澄ます。
黄
黄
黄
黄
橙
橙
黄
黄
橙
橙
橙くんがあまりに可哀想な 責められ方をされているので、 助けに行くことにした。
黄
青
青
黄
青
青
青
黄
青
黄
黄
黄
黄
黄
橙
黄
橙
橙
橙
橙
黄
黄
黄
橙
黄
青
青
橙
黄
橙
青
紫にいっていつも大変なんだなあ...と 思いつつ、その場を後にした。
青
久しぶりに入る赤ちゃんの部屋。
少し緊張しながら、 ゆっくりと扉を開く。
青
赤ちゃんの部屋って... こんなに何もなかったっけ...
ベッドと勉強机だけが置かれた 質素な部屋は少し不気味にも思えた。
青
よく見ると、机の上に一冊、乱雑に ノートが置かれていた。
見て良いものなのか迷いつつ、 ノートを手に取ると、強く折り目の ついた部分が勝手に開いた。
20○△年6月23日
やってしまった。
勢いで、言ってしまった。
「俺は女じゃない。男だ」って。
もっと考えて発言するべきだった。
みんな混乱してたし、 認めたくなさそうだったな。
俺の人生は一体どうなるんだろう。
日記...?
赤ちゃん...そんなことしてたんだ...
確かに、 「俺は女じゃない。男だ」って突然 言われたのは覚えてる。
急すぎて受け入れられないというか、 何を言い出したのかわからなかった。
その日はずっとその言葉が頭から 離れなくて、眠れなかった。
何度考えても、赤ちゃんは女の子で あるという事実を自分の中で 変えられなくて、
でもその思いを簡単に 否定はしたくなくて、
「赤ちゃんは男の子の体じゃないよ」
なんて、語彙力に欠ける僕はそんな 言葉しかかけることができなかった。
あの時、どうするべきだったのか 正直今もわからない。
今さら受け入れると言っても 自己勝手すぎる気がして、なかなか 行動に移すことができないでいる。
青
ぼーっとそんなことを考えていると、 ノートを落としてしまった。
落とした衝撃で開かれたページは、 さっき見たところとは少し違った。
誰も認めてくれない世界で、 生きる理由を失いました。
最初から間違えた体で生まれ、 間違えた環境で育ったんです。
普通に生きたかった。
兄ちゃんたちみたいに、クラスの 男子みたいに、堂々と男として 生きてみたかった。
だけど、それは俺の 夢で終わるみたいです。
普通に生きられなくてごめんなさい。
わかってた。
自分が女性の体であることなんて。
わかってた。
自分が男ではないことなんて。
でも。
でも...
男でありたかった。
認めてほしかった。
受け入れてほしかった。
ただ、それだけだった。
それだけ...
普通の女の子じゃなくてごめんね。
大好きでした。
この世界で俺を認めてくれる人 なんて、最初からいなかったんだ。
じゃあ、俺が別の世界に 行けば良いんだ。
…来世では、男として 生きられますように。
さよなら。
本当にいなくなったわけ...ないよね...
まだ...生きてるよね...
誰も認めてくれなかったって...
もしこれで死んじゃってたとしたら...
青
そんな...
橙
橙
青
気づかないうちに、僕の目から 涙が溢れていた。
青
目をサッとこすり、笑ってみせる。
青
橙
橙
青
青
橙
青
青
青
橙
青
青
橙
僕は戸惑う橙くんを置いて、 赤くんの部屋を飛び出した。
桃にいが出て行ったのは朝...
そして今は夜...
戻ってこないはずがない。
きっと、何かあったんだ。
青
冬の冷たい夜風が顔に当たる。
どこにいるかもわからない彼らを、 僕は走って探した。
赤くんが行きそうな場所...
青
...海岸だ。
きっとあの海岸にいるはず...!
僕は方向転換し、足を止めることなく 走り続けた。
青
走り続けてやっと辿り着いたそこは 真っ暗で、ただ波の音が響いていた。
青
少し歩いていると、見覚えのある ピンク色の髪が見えてくる。
青
さらに近づくと、海を虚な目で眺める 桃にいがいた。
青
桃
青
青
よく見ると、桃にいの横に 紫にいと赤くんが横たわっている。
青
青
そう呼んでも、彼らから返答はない。
まさか...
青
桃
青
桃
桃
桃
桃
泣き崩れる桃にい。
そんな姿を見るのは、初めてだった。
青
青
桃
青
青
桃
青
青
青
桃
青
手を振って帰るように促す。
桃
青
桃
青
青
そう小さく返すと、桃にいは 「...そっか」と言って、家に向かって 歩き出した。
青
冷たくなった彼らに触れる。
青
青
そんな独り言を呟いたところで、 彼からの返事はない。
青
謝っても帰ってこない君に、僕は 何をしてあげられるのだろう。
青
いつも頼りきりだった彼にも、 僕の声は届かない。
青
青
青
青
青
青
たとえ親がいなくとも
楽しい人生になるって信じてた。
六人で、幸せを掴んでいくんだって。
それなのに...
...僕たちは、自分たちの手で その幸せを壊した。
わかってる。
今さら後悔しても遅いことなんて。
わかってる。
あの日々が戻らないことなんて。
それでも...
あの時の純粋な心に、
昨日までの楽しい日々に、
明るい未来への道に...
青
お願い。
赤くん...紫にい...
ただして。
コメント
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続きがとても楽しみです!