9年前
嫌になるほど蒸し暑く、夕焼けの赤い6月の日だった
タタタタタタタタ……
春川 修司
はぁ…はぁ…はぁ…っ!
春川 修司
(なんなんだよ、このLIMEは…!)
姉さん
帰って来ないで
姉さん
逃げて
姉さん
警察に
春川 修司
はぁ…はぁ……っ!
春川 修司
(父さん!母さん!姉さん…!)
春川 修司
はぁっ……げほっ、ごほっ…!
ウー…ウー…ウー…
春川 修司
(サイレンの音…!)
春川 修司
っ……!はあっ…はあ…!
春川 修司
(一体、何が起きてるんだよ…!)
疑問と不安を振り払うように、僕は走った
そして、見えてきた家は――――
春川 修司
――――――
春川 修司
なんだよ、これ……
春川 修司
……父さん、母さん…?
春川 修司
姉さん……
警察官
あ、君!勝手に中に入っちゃ――
カチャ
春川 修司
……ただいまー…
春川 修司
ごめん、電車が遅れちゃって…
春川 修司
走って帰って来たから、先に風呂に――――
捜査員
君、何でここに入って!?
捜査員
いや、それよりも――!
春川 修司
……なんですか、それ
春川 修司
そんなミイラみたいな人形、家で見たことなんて…
春川 修司
それも、3つも……
捜査員
”家”…?
捜査員
ということは、君が…!
警察官
すみません!野次馬が一人…
捜査員
…いや、この子は……
捜査員
…”春川修司”くんだね?
春川 修司
……はい
春川 修司
あの、これは一体……
捜査員
……
警察官
…っ……!
春川 修司
(あの人形が持ってるもの……)
春川 修司
(あれって、まさか…)
姉さん
『修司、見てこれ!』
春川 修司
『…姉さん、今度は何を買ったの?』
姉さん
『スマホ!最新機種!』
姉さん
『すごいんだよ、これ!』
姉さん
『画素が今までの機種の――』
春川 修司
(なんで、あの人形が)
春川 修司
(姉さんのスマホを、持ってるんだ…?)
捜査員
……すまない…!
捜査員
通報を受けたのに、間に合わなかった……!
捜査員
『助けて』と、言われたのに…!
春川 修司
あ、あああああ……
春川 修司
(推測は、確信へ変わる)
春川 修司
あああああああ……
母さん
『修司、大学合格おめでとう!』
母さん
『”人を助ける医者になる”…夢への第一歩だね』
母さん
『その優しさを持ったまま、立派な医者を目指しなさい』
春川 修司
あああああ……
春川 修司
(母さん……!)
父さん
『お前は家族の誇りだよ、修司』
父さん
『人を助ける医者…素晴らしい夢で、目標だ』
父さん
『その調子で、頑張りなさい』
春川 修司
ああああああああっ……
春川 修司
(父さん…!)
姉さん
『国公立の医学部に現役合格とか、凄いよ修司!』
姉さん
『”みんなを助けるお医者さん”だっけ?』
姉さん
『修司なら、本当になれると思う!』
春川 修司
っ………!
春川 修司
(姉さん……!姉さん…!)
姉さん
『これは、いざとなったら修司に助けてもらおうかな?』
春川 修司
『…気が早いよ、姉さん』
春川 修司
『勉強しなきゃならないのは、これからなんだから』
姉さん
『はいはい』
姉さん
『修司は本当に真面目だねぇ…』
春川 修司
あ、……ああああ……
春川 修司
うあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!
春川 修司
(脳の奥で、何かが崩れる音がした)