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江藤ルミエール
195
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#ミステリー
鬼霧宗作
61
コメント
1件
うわ……読後、しばらく言葉が出なかったよ。雷良、ああ見えてすごく小心者で、でも最後まで強がってたんだね。「速い」を引いたときの焦り、カップの動きが見えない絶望、そして「いい子になりますから」って泣き叫ぶ声…心臓がぎゅっとなった。何より、システムが「通過者」を一瞬で「死亡者」に訂正する冷たさが怖い。そしてその記憶が周りから薄れていく設定も、ただ♡♡♡だけじゃないこのゲームの不気味さを際立たせてる。菜々美だけは覚えているってところに、何か伏線を感じるなあ。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
宝亀雷良
宝亀雷良
雷良は強気な声を張り上げ、テーブルへ進んだ。
けれど、足取りは乱れていた。
膝が笑っている。
肩が強張っている。
派手なメイクの下で、顔色が悪い。
宝亀雷良
宝亀雷良は、学院でも異質な“不良少女”として知られていた。
不遜な態度。
乱暴な言葉遣い。
濃いメイク。
短いスカート。
誰にも舐められたくない。
弱いと思われたくない。
そうやって、いつも自分を大きく見せていた。
小学校までは、水泳を習うだけの普通の少女だった。
けれど中学校で、たまたま好きになって付き合った相手が悪かった。
少しずつ、雷良は“不良少女”という役を、身体に貼りつけていった。
本当は小心者だった。
それを隠そうとするほど、態度だけが荒くなる。
今も同じだった。
一寸先にあるのは、死かもしれない。
それでも、強がるしかなかった。
宝亀雷良
宝亀雷良
雷良はロボットの前に立つ。
銀色の巨体。
異様に長い両腕。
胸部のモニター。
その冷たい姿を見上げ、雷良の喉が鳴った。
【SYSTEM】
“速い”。
“普通”。
“遅い”。
3つの文字が、胸部モニターで点滅する。
宝亀雷良
雷良は目を瞑った。
見ていたら、押せない。
迷ったら、押せない。
見ないままボタンを押した。
カチッ。
指先に、硬い感触が残る。
恐る恐る目を開いた。
表示されたのは――
“速い”。
宝亀雷良
胸の奥で、何かが崩れた。
必死に隠していた小心さが、表に滲み出してくる。
ロボットの右腕が動いた。
銀色の指がピンポン玉を摘み、中央のカップに入れて伏せる。
次の瞬間、3つのカップが凄まじい速さで動き始めた。
右。
左。
中央。
また右。
銀色の残像が、雷良の視界を暴れる。
宝亀雷良
宝亀雷良
10秒が経過した。
カップの動きが、ぴたりと止まる。
【SYSTEM】
声が響いた瞬間、雷良の緊張は頂点に達した。
宝亀雷良
宝亀雷良
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
カウントが、雷良をさらに焦らせる。
宝亀雷良
喉が乾く。
視界が滲む。
指先が震える。
どれを選んでも、死ぬ気がした。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
宝亀雷良
雷良は吹っ切れたように叫び、全身を震わせながら、自分から見て右のカップを指さした。
ロボットの右腕が、そのカップをゆっくり持ち上げる。
宝亀雷良
宝亀雷良
強気で傲慢な雷良の姿は、もうどこにもなかった。
そこにいたのは、涙を浮かべ、両拳を胸の前で握りしめ、震えながら見つめる少女だけだった。
カップが持ち上がる。
その下には――
何もなかった。
宝亀雷良
一瞬、声を失った。
白い天板。
何もない場所。
それを見つめたまま、顔がゆっくり歪んでいく。
宝亀雷良
雷良が泣き叫ぶ中、冷淡な声が響いた。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
宝亀雷良
月桂冠の白い球体が、激しく点滅した。
白。
白。
白。
その光が、雷良の涙を照らす。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
宝亀雷良
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
宝亀雷良
宝亀雷良
ピーッ。
誰もが、雷良の頭部から赤いものが噴き出す瞬間を想像した。
しかし――
カチッ。
月桂冠が外れ、床に転がった。
生徒たちの間に、困惑の沈黙が落ちた。
けれど、その時――
菜々美には、一瞬だけ、機械音の奥に低い男の声が混じったように聞こえた。
――記録を継続してください。
だが、周囲の誰も反応しなかった。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
宝亀雷良
その声を聞いても、雷良は動かなかった。
白目を剥き、直立不動で立ち尽くしている。
全身が硬直し、開いた唇から、途切れ途切れに呼吸が漏れていた。
足元に、ぽたり、と音がした。
恐怖に耐えきれず、床に小さな水たまりが広がっていく。
誰も笑わなかった。
笑えるはずがなかった。
宝亀雷良
それが、最後の声だった。
雷良の身体がゆっくり後ろへ傾く。
どさり。
そのまま仰向けに倒れた。
鈍い音が、白い部屋に響く。
雷良は動かない。
胸も上下していない。
菜々美は息を呑んだ。
月桂冠は外れている。
血も流れていない。
脳を破壊されたわけではない。
それなのに、雷良は動かなかった。
恐怖そのものに、命を握り潰されたように見えた。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
その訂正は、あまりにも冷たかった。
通過者とみなすと言った声が、何の感情もなく、彼女を死亡者に分類し直す。
憐れみはない。
驚きもない。
ただ、結果だけが処理されていく。
白い壁の中央が、音もなく開いた。
人型の白い光の塊が2体、雷良のもとへ進む。
動かないことを確かめると、1体が両脇を。
もう1体が両脚を掴んだ。
雷良の身体が、物のように持ち上げられる。
派手なメイク。
乱れた髪。
開いたままの目と口。
最後まで強がろうとした少女の顔には、もう何の表情も残っていなかった。
白い光の人影たちは、雷良を抱えたまま壁の向こうへ消えていく。
壁が閉じる。
そこには、もう誰もいない。
【SYSTEM】
その言葉が響いた瞬間、部屋の空気が変わった。
誰かが崩れ落ちた。
誰かが泣きながら顔を覆った。
誰かが胸に手を当て、何度も息を吸った。
少なくとも、最初に生まれたのは悲しみではない。
助かった。
その安堵だった。
自分はまだ死んでいない。
月桂冠を着けたままの者もいる。
けれど、第1試練は終わった。
その事実が、生徒たちの身体から一気に力を奪っていく。
菜々美も、足元から力が抜けそうになった。
けれど、倒れなかった。
倒れたら、何かを忘れてしまう気がした。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
白い部屋の壁に、3人の名前が表示された。
名前は、そこにある。
読める。
見える。
たしかに表示されている。
それなのに――
生徒の誰か
生徒の誰か
生徒の誰か
言葉が、曖昧に溶けていく。
死んだことは覚えている。
怖かったことも覚えている。
悲鳴も、血も、倒れた身体も、見たはずだった。
けれど、その子たちの顔や声だけが、白い光の中で輪郭を失っていく。
生島菜々美
菜々美は小さく呟いた。
凪津美が、最後に「助かったはずなのに」と泣いていたこと。
玖玖瑠が、「ウサコちゃあん」と叫んだこと。
雷良が、「いい子になりますから」と震えていたこと。
菜々美は覚えている。
顔も。
声も。
最後の表情も。
助けを求める目も。
全部、覚えている。
新倉穂乃花
穂乃花が不安そうに菜々美を見る。
新倉穂乃花
新倉穂乃花
新倉穂乃花
新倉穂乃花
菜々美は、何も言えなかった。
自分の中では、まだ生々しい。
凪津美の涙。
玖玖瑠の赤い眼鏡。
雷良の震えた声。
けれど、周囲の生徒たちの中では、その輪郭が少しずつ削られている。
まるで、存在そのものが白い部屋に吸い込まれていくように。
【SYSTEM】
その冷たい表示を見つめながら、菜々美は思った。
このゲームは、ただ人を殺すだけではない。
死んだ後も、何かを奪っていく。
名前より深い場所にあるものを。
顔より確かなはずのものを。
誰かがここにいたという感覚そのものを。
白い部屋は、3人分だけ広くなったように見えた。
第1試練終了――
生徒ナンバー29・花屋敷凪津美 脱落。 生徒ナンバー34・武藤玖玖瑠 脱落。 生徒ナンバー30・宝亀雷良 脱落。
残り36名