密室×ゲーム

おれは思わず 男を諌めた

おれは立ち上がって

男の足を見た

鉄釘が深く足にくいこみ 創傷の具合がひどくなっている

床面に鮮やかな血液が 小さな水溜まりのように

広がっている

男の手は封筒に達し

それを自らのほうに引き寄せると

男はすぐ壁に戻った

そそくさと中から 1枚の便箋を取り出す

スーツの男も 四つん這いになる

おれの声が 空間にこだました

見ると いつの間にか

スーツの男は 封筒を手にしていた

そう言うと 彼は中身の便箋を取り出し

自慢げにぴらぴらと 便箋をゆすってみせた

おれは奥歯を 強くかみしめ

ゆっくりとかがみこんだ

足と手と体幹を 可能な限り伸ばす

封筒に手を伸ばす

あと数ミリ届かない

もう少し爪が長ければ

おれは痛みに耐えられず 慌てて壁に戻った

スーツの男は せせら笑うかのように

高らかに言ってのけた

その時おれは

選択肢から除外されていた

ある方法を 思いついた

おれは Tシャツを脱ぎ

上半身をさらけ出した

おれはふたたび四つん這いになると シャツをしっかり右手に握り

手紙のほうに振り落とした

シャツの端が 封筒に届き

シャツを引くと 封筒が一気に引き寄せられた

手元に封筒を手繰り寄せ

おれは悠々と それを手にすることができた

おれは冗談めかした そのセリフを無視して

封筒をひらき 中から便箋を取り出す

田澤トーマ様

あなたがここから出るために

必要な要件を述べます

そのためにはあなたが犯した罪の

重大性を

自ら理解する必要があります

ここから脱出するには

ひとり 生き残らなくてはならない

つまり ここにいる3人のうち

生き残ったものが

この部屋から解放されるのです

脱出するための ヒントがあります

それは

あなたがいままで やってきたことを

事細かに思い出すこと

そうすることで

自ずと道がひらけるはずです

繰り返しますが あなたは

最初の罪を犯した ｢罪人｣です

決して許されることのない罪を

背負っているのです

ですが

あなたのほかにいるふたりも

同じように罪を背負っています

あなたが生き残り ここから出た時

あなたは罪の重さを 思い知るとともに

命の尊さを 全身で感じることに なるでしょう

ゲームはすでに はじまっています――

―――

おれが小さくひとりごちたのを スーツの男が拾った

おれはふと

向かい側の男に 目をやった

彼は手紙を手にしたまま

ぶるぶると身体を震わせていた