――魔塔の一室。
ウェンデッタは、従者ダニエルを従え 魔塔主イザックの元を訪れた。
イザック
聞かせてもらいましょうか
イザックの瞳が鋭く光る。
ウェンデッタ
――通称、ミカゲ事件。
1ヶ月ほど前、 魔塔の“致命的なミス”により 『ミカゲ・キガンジ』という貴族が 行方不明になった事件だ。
前世でも今世でも皇室は、 皇国五大貴族『キガンジ家』と共に 魔塔の責任を過剰に追及。
その影響で、魔塔は 存続の危機を迎えているのである。
ウェンデッタ
おそらく現皇帝は、元から
魔塔を敵視していたようね)
ウェンデッタ
巻き込まれたからって
ここまで追求するのは
異常だもの…)
ウェンデッタ
申しますと、私は
“ミカゲ様”の行方を
存じております
イザック
イザック
何処にッ?
ウェンデッタ
ひそかにほくそ笑む ウェンデッタ。
ウェンデッタ
お教えしたいの
ですが…
ウェンデッタ
ございますの
イザック
イザック
聞きましょう
ウェンデッタ
ウェンデッタ
いただけないかしら?
イザック
イザック
我々の現状を理解して
いるのですよね?
ウェンデッタ
ウェンデッタ
皇室に“弱み”を
握られた状態…
ウェンデッタ
イザック様は、
皇帝陛下から――
ウェンデッタ
でなければ“責任”を取れッ!」
ウェンデッタ
かけられているとか?
イザック
その通りです…!
イザックの声には、 やるせない怒りが満ちていた。
ウェンデッタ
そうでしょうね…)
ウェンデッタ
要は「責任を取って死ね!」
ってことだもの)
ウェンデッタ
ウェンデッタ
解決するのは
おすすめできませんわ
イザック
ですよ
イザック
魔塔の皆は
家族も同然…
イザック
私の命などくれてやる!
ウェンデッタ
だとしても?
イザック
ウェンデッタ
魔塔を目の仇にして
おられます
ウェンデッタ
イザック様が亡くなれば、
皇室の思う壺…
ウェンデッタ
魔塔は解体され、
ウェンデッタ
一部は皇室の子飼いとして
自由を奪われるだけ
でしょうね
前世の処刑で、彼女とその家族を 炎魔術で焼き払ったのも、 元は魔塔所属の魔術師であった。
イザック
ウェンデッタ
申したまでですわ
ウェンデッタ
“皇室”を裏の裏まで
知り尽くしておりますの
ウェンデッタ
ウェンデッタ
薄々お気づきなのでは?
イザック
言葉に詰まるイザック。
ウェンデッタは 畳みかけるように言葉を続ける。
ウェンデッタ
私と組み、ミカゲ事件を
解決するのが最善です
イザック
ありえないッ
イザック
皇太子の婚約者――
イザック
“天敵”です!
イザック
おられるのですか?
ウェンデッタ
及びませんわ
ウェンデッタ
殿下との婚約を解消する
つもりですもの!
イザック
顔色を変える イザック。
イザック
我々は戯言に付き合う
暇など――
ウェンデッタ
ウェンデッタ
イザック
イザック
皇太子との結婚は、
いわば“成功の約束”
イザック
利点などあるはずが――
ウェンデッタ
あるのよッ
ウェンデッタ
“また処刑される”なんて
御免ですわ!
イザック
ウェンデッタ
ウェンデッタ
皇太子によって
1度処刑された身で
ございますの
イザック
ですって?
突拍子もない発言に、 魔塔主は 困惑の表情を浮かべた。
ウェンデッタは 落ち着いた声で話を続ける。
ウェンデッタ
お話ししますわ!
ウェンデッタは 簡潔に説明した。
――自分は2度目の人生を送っており、 前世の記憶を持つこと。
――だから事件の背景と“ミカゲ”の行方とを 詳しく知っていること。
――前世のイザックは、 皇室の圧力に屈して処刑されたこと。
――弱体化した魔塔は解体され、 多くの魔術師が殺されたこと。
――そして前世のシラヌイ家は、 無実の罪で全員処刑されたこと。
――今世のウェンデッタは、 生き残るべく何でもやると決意したこと。
――まずは、皇太子との婚約を 円満に破棄したいこと。
ウェンデッタ
皇室と対等に渡り合う
のは困難…
ウェンデッタ
魔塔の皆様にご助力
いただきたいのです
イザック
山々ですが――
イザック
仮に御令嬢の話が
“事実”だとしましょう
イザック
シラヌイの一族など
生かすために、力を
貸さねばならぬのです?
ウェンデッタ
イザック
皇族同様、根本から
魔塔と相容れない存在だッ
ウェンデッタ
多くの魔術師が
殺されてしまいますッ
ウェンデッタ
互いの未来を守るためには
これしか策がありません!
ウェンデッタ
魔塔の持つ絶大な力を
合わせれば
ウェンデッタ
もちろん、皇室へも対抗
しやすくなりますわ
イザック
我々はあなたをそこまで
信用するわけにはッ――
ノクトル
テストすれば?
部屋の陰から、 音もなく現れたのは ノクトルだった。
ウェンデッタ
イザック
許可していませんが?
ノクトル
少しぐらい
大目に見てよ…
ノクトル
魔塔主の次期有力候補
なわけだし
ウェンデッタ
ウェンデッタ
ノクトル
関係ない
ノクトル
だから…
ノクトル
決められるのさ
イザック
長を務めているでしょう?
イザック
“もっと適任な方々”が
魔塔には大勢いますから
ウェンデッタ
凄いんですね
ウェンデッタ
凄腕揃いのはず…)
ウェンデッタ
相当な魔術の使い手
のようね)
イザック
それましたが、
“テスト”とは?
ノクトル
ノクトル
信頼できるかどうか
テストしてみれば?
イザック
イザック
皇太子の婚約者と
手を組むなどッーー
ノクトル
追い込まれてるんだよ
ノクトル
選んでらんないよね?
イザック
ノクトル
イザックが心配する
のもわかる…
ノクトル
信用できるか」って
と言いつつ、ウェンデッタへ じっと視線を向けるノクトル。
ウェンデッタ
ノクトル
テストするんだよ
ノクトル
本当に、魔塔と共存する
つもりなのか――
ノクトル
ただ僕らを利用し、
裏切るのか――
ノクトル
ためにさ…!
イザック
沈黙の後、 魔塔主は口を開いた。
イザック
イザック
私が決める――
イザック
いかがでしょうか?
ウェンデッタ
受けて立とう
じゃない!
ウェンデッタ
何をすれば認めて
もらえるのかしら?
イザック
シンプルですよ…
イザック
この魔塔まで――
イザック
お連れください
ウェンデッタ
ダニエル
顔を見合わせる 令嬢と執事。
イザック
イザック
大きな口を叩いておいて、
今さら『不可能』と
おっしゃるので?
イザック
ミカゲの行方を
御存じなのでしょう?
ウェンデッタ
ウェンデッタ
連れてくるとなると…
訳が違うというか――
イザック
辞退なさるので?
ウェンデッタ
でしょッ
イザック
テストの詳細
ですが――
ノクトル
彼女を見届ける
ってのはどう?
ノクトル
だけじゃなく、
その過程も重要だしね
ウェンデッタ
イザック
一理ありますね…
ノクトルに任せます
ウェンデッタ
ウェンデッタ
見てなさいよッ!
ウェンデッタ
言わせないぐらい、
きっちり証明して
やるんだから!!
イザック
イザック
その御覚悟のほど、
拝見させて
いただきましょう
話がまとまった頃。
ノクトル
ウェンデッタとダニエルは、 ノクトルの転移魔術で 屋敷に戻った。
――ウェンデッタの自室。
部屋についたところで、 令嬢が口を開く。
ウェンデッタ
ウェンデッタ
ありがとうございます
ウェンデッタ
もっと手こずるのでは?
とも思っておりましたの
ノクトル
僕も困るし…
ノクトル
一致した…ってことで
ウェンデッタ
魔塔の魔術師だし、
当事者の1人だものね…)
ウェンデッタ
感謝いたしますわ
ノクトル
ノクトル
お礼に1つ
“お願い”きいてよ
ウェンデッタ
ですか…?
ノクトル
“ノクス”って呼んで
ウェンデッタ
ノクトル
敬語も禁止ね
ノクトル
しゃべってほしいな
ウェンデッタ
ウェンデッタが口ごもる。
ダニエル
失礼だろうがッ⁉
かばうように前に出る ダニエル。
ノクトル
ダニエル
ダニエル
なんだぞッ!
ノクトル
破棄予定なんでしょ?
ウェンデッタ
そうね…
ノクトル
ノクトル
いいよね?
ウェンデッタ
意味深に笑うノクトルの言葉に、 顔を赤くするウェンデッタ。
ダニエル
呆気にとられるダニエル。
ウェンデッタ
何言って――
ノクトル
ノクトルは笑顔で、 焦るウェンデッタの 手をとると――
――そのまま 軽くキス。
ウェンデッタ
真っ赤な顔でへたりこむ ウェンデッタ。
ダニエル
ノクトル
おやすみっ★
掴みかかろうとするダニエルを ひらっと華麗に避けると、
ノクトルは 転移魔術で消えたのだった。






