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井口社長
「井口スポーツシューズ」社長の井口が、一足の運動靴を息子の俊彦に見せた。
俊彦は手に取って適当に弄ってから、
井口俊彦
井口社長
井口社長が不満げに言うと、俊彦はうんざりしたようにため息を吐いた。
井口俊彦
井口俊彦
井口社長
井口社長
井口社長
井口俊彦
井口社長
井口社長
井口社長
井口俊彦
俊彦が眉間に皺を寄せると、彼の横で座っていた販売部長の塚田が軽く咳払いした。
塚田忠雄
井口俊彦
俊彦はどちらかというと実直な性格の塚田販売部長を慕っていた。
仕事の用件で井口家に呼ばれた際も俊彦から声を掛けるほどだった。
常に慕っているはずの塚田に対して思わず切り口上な態度を示すほど、
今の俊彦は父親の身勝手な要求に腹を立てていた。
塚田忠雄
塚田忠雄
塚田忠雄
塚田忠雄
塚田忠雄
塚田忠雄
塚田忠雄
塚田忠雄
井口俊彦
塚田の真剣な眼差しを受け、俊彦はあっさり拒否出来なくなった。
井口社長
井口社長
相変わらず父親の横柄な態度は鼻に付いたが、数秒考えた末、
井口俊彦
井口社長
井口俊彦
井口俊彦
井口社長
井口俊彦
井口俊彦
井口俊彦
井口俊彦
井口社長
井口社長
井口社長
俊彦が真顔で頷いた。
正直、俊彦は試着するつもりなどサラサラなかった。
足の踏み場もないほど三和土全体を覆う大量の靴を処分しろと言えば、
必ず父親は反対して、自分を頼らなくなるだろうと計算したのだ。
俊彦の要求を聞き入れたときの井口社長の険しい表情から想像しても、
絶対に拒否するだろうと彼は睨んでいた。
井口俊彦
しかし、意外にも井口社長は俊彦の要求を素直に従ったのだ。
ある日、会社から帰宅した俊彦は家に入ると、思わず「えっ」と声が漏れた。
三和土に廃棄物のごとく散乱していた大量の靴が、
全てではないが以前よりか数が減っているのだ。
何点か残った靴でも、綺麗に整頓されており不快感がない。
俊彦が気になって父親に聞いてみると、
井口社長
井口社長
と、少しばかり不満そうな響きで井口社長は言った。
井口俊彦
井口社長
俊彦は納得した。
俊彦は朝と夜、外をランニングするたびに後悔していた。
自分の要求に従った以上、父親の命令に逆らうわけにはいかなかった。
俊彦は命令通り、新製品の運動靴を試着し、履き心地を確かめるため、
毎日、朝と夜にランニングをし、近所を一回りした。
出勤日だろうと休日だろうと構わず毎日ランニングするよう、
井口社長は以前同様、威圧的な態度で息子に指示した。
出勤前は鬱になるわ、退勤後は余計に疲れるわで、俊彦はうんざりしていた。
井口俊彦
額に汗を流しながら荒い息遣いをする俊彦は走りながらそう思った。
午後十一時過ぎ、俊彦が公園のベンチで休んでいると、スマホが震えた。
すぐには出ず、一呼吸置いてから耳に当てた。
井口社長
井口俊彦
井口社長
井口俊彦
井口社長
井口俊彦
井口社長
井口社長
井口社長
井口俊彦
井口社長
井口社長
「母さんは?」と聞きかけて俊彦は口を閉じた。
実家暮らしの俊彦は両親と同じ屋根の下で暮らしている。
母親は昨日から、古い友人と海外旅行中だった。
それすらも一瞬忘れるほど疲れているんだと、俊彦は自分を労わった。
井口社長が一方的に電話を切った。
俊彦は大きく息を吐くと、ベンチにもたれたまま両手を広げ夜空を仰いだ。
井口俊彦
井口俊彦
ランニングは二時間の約束だった。
まだ一時間少ししか経過していないが、俊彦は尻を上げると、
構わず自宅に向かってゆっくりと歩き出した。
家が目前に迫った頃、俊彦は急な尿意に襲われた。
俊彦は急いでドアを開けて入ったが、うっかり三和土の靴にけつまずいた。
忌々しそうに唸りながら靴を乱暴に蹴散らし、俊彦はトイレへと駆け込んだ。
トイレから出て、玄関の方を見ると靴が悲惨な状態になっていた。
井口俊彦
俊彦は筋肉痛の両脚をさすってからリビングのドアを開けた。
コーヒーを淹れ、ソファにドサッと身を委ねる。
相変わらず額から溢れ出る汗を肩に掛けていたタオルで拭く。
五分ほど休んでから、俊彦は玄関へ向かった。
井口俊彦
井口俊彦
試着した靴はおろか、父親がプライベート用だと残した一部の靴までも、
まるでせっかちな子どもが脱ぎ捨てたような状態で転がっている。
俊彦はしゃがんで、一足ずつ丁寧に並べ直した。
妙に薄汚い靴もあり、何故こんなものまでと俊彦は訝しんだが、すぐ思い直した。
元々、父親の靴に対する愛情は異常だったから、
これぐらい年期が入った物でも恐らく大切なのだろうと思ったからだ。
それにしては少し汚すぎるのが引っかかった。
愛情が深いだけに、決して少しの汚れも残さないのが父親の拘りだった。
俊彦はため息を吐くと、その一足を持ってリビングへ戻った。
軽い親孝行のつもりだった。
ティッシュを三枚掴み取り、水に浸して汚れた部分を拭う。
汚れは簡単に取れたが、俊彦は面白そうに他の場所も拭いた。
そんな作業をしている最中、またスマホが鳴った。
俊彦は作業を一旦中断し、電話に出た。
井口社長
俊彦をリビングの掛け時計を見上げた。
いつの間にか午前零時を優に過ぎていた。
井口俊彦
井口社長
井口社長
命令口調は相変わらずだが、俊彦は適当に返事をし電話を切ろうとした。
が、再びスマホを耳に押し当てた。
井口俊彦
俊彦の唐突な質問に困惑しているのか、しばし沈黙が流れた。
井口社長
井口俊彦
井口社長
井口社長
井口俊彦
井口俊彦
井口俊彦
井口俊彦
井口社長
井口社長
井口社長
井口俊彦
井口俊彦
井口社長
井口俊彦
井口俊彦
井口俊彦
井口社長
井口社長
井口俊彦
いきなりバカ呼ばわりされ俊彦はムッとした。
井口社長
井口社長
井口社長
井口社長
井口社長
井口社長
井口俊彦
井口社長
井口社長
井口俊彦
井口俊彦
井口社長
井口俊彦
井口社長
井口社長
井口社長がしゃべり続けるが、俊彦は電話を切った。
俊彦はゆっくりと部屋を見回した。
不吉な予感がし、心臓の鼓動がどんどん早くなる。
ゆっくり、震える手で持っている靴に視線を落とす。
父親がいう限り、これは自分の靴ではないという。
激しい鼓動を必死に無視し、俊彦は冷静に帰宅時を振り返った。
突然の尿意、目前に迫る家、ドアを開いて中へ。
井口俊彦
井口俊彦
俊彦は大量の靴にけつまずいた瞬間も必死に思い出した。
父親が残した大量の靴、試着した靴、それに紛れた得体の知れない汚れた靴。
謎の靴は踵が玄関のドアの方を向いて置かれていたはずだ。
靴のことには徹底的にうるさい父親が許すはずのない向きだ。
井口俊彦
俊彦はなにかを確信すると、持っていた靴を放り投げた。
靴が床を転がっている間、俊彦は夢中で玄関に駆け出し家から飛び出した。
三十分後、俊彦が交番の巡査を連れて家に戻ると、
家中のありとあらゆる物が散乱し、酷く荒らされていた。
俊彦が咄嗟に投げ棄てた靴は何処にも見当たらなかった。
2021.01.31 作