優真さんが警察に捕まり
自宅に戻ってからの約二週間
あすみさんはこれまで以上の虐待を受けた
優真さんに拉致されるまでの約五年間
虐待は日常的に行われていたが
あすみさんは普通に学校に通い
身体の傷にも気づかれずに過ごすことはできていた
それがわずか二週間で
起き上がることもできないほどの痣や傷を負わされ
冷房機もないあの部屋に閉じ込められていた
もちろん学校に行くことはできず
かすみさんは精神的にショックで寝込んでいると偽り
家族以外、誰も近づけないようにしていたようだ
全身の切り傷が化膿して腫れ上がり
生臭く酷い腐臭が充満するあの部屋で
食事や水分も満足に与えられぬまま
あの現場に立ち会った誰もが
目を背けたくなるほどの酷い状態だった
あと一日、遅ければ命を落としていたかもしれない
あの日から約三週間
まだ起き上がることはできないが
あすみさんは確実に回復していて
一般病棟に移る日程も決まった
一般病棟では流動食などを接種する訓練や
身体を動かすためのリハビリを行い
少しずつ日常生活を取り戻して行くことになる
でもその時、優真さんはもうここにはいない
優真さんはずっと葛藤していた
できることならこのままずっとそばにいたい
そばでずっと守りたい
でもあすみさんはまだ未成年で
赤の他人である優真さんが一緒に暮らすことはできない
家族以外に頼れる親戚がいないあすみさんには
児童養護施設に行く以外の選択肢がなかった
優真さんにはこのままこの町に残ると言う選択肢もあった
あすみさんとは休日に会うこともできる
龍一さんの用意したあのマンションを出たとしても
アパートを自分で借りてそこから病院に通い看病を続ける
大学は辞めてしまったが
この町に留まりあすみさんのために……
その道を選ばなかったのは
一緒にいた三ヶ月間を思い出してしまうからだ
夜は常に一緒にいて
同じベッドで朝を迎えた
今後、優真さんがこの町に残っても叶うことのない望み
それならば
完全に離れてしまった方が辛くないと考えた
そんな優真さんの真意をまだ知らないあすみさんは
優真さんと離れたくない一心で
涙ながらに訴え続けていた
時刻は21時
バタバタと動く看護師さんの足音
心電図などの医療機器の音が響く
人の話し声はもうあまりしない
そんな中で優真さんは
静かに
そしてゆっくりとした優しい口調で
まだ伝えていなかった真意を話し始めた
あすみさんのことが嫌いになったわけではない
重荷に感じたこともない
できることなら一緒にいて
四六時中あすみさんの近くで……
でもそこには法律の大きな壁があり
それはどう頑張っても越えることができない
三村優真
三村優真
三村優真
三村優真
井川あすみ
優真さんが何度もあすみさんの頭を撫で
頬にそっと手を当てると
井川あすみ
あすみさんがそっと呟く
でも優真さんは首を横に振った
三村優真
井川あすみ
三村優真
三村優真
優真さんは溢れる気持ちをグッとこらえて
唇ではなく手の甲にキスをした
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