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あーもんど
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最初に出たのは東京ではなく大阪だった
思っていたより、直ぐに慣れた
いや、慣れたと言うより
結果を出せてしまった
入って数ヶ月で売上は上がり
気が付けばお店のナンバーワンになっていた
そして1年が経つ頃には
銀座のラウンジへ回された
嫌な仕事だった
男の人の隣に座って、話を聞いて、笑う
相手が面白くなくても笑うし
何度同じ話をされても初めて聞いたような顔をする
これでこれだけのお金が稼げるならいい
そう思う人がいるのもわかる
それを否定するつもりはない
ただ、
私の性にはあわなかった
それでも、辞めなかった
生きるためにはお金が必要だから
そして何より、お母さんが嬉しそうにしていた
お母さん
〇〇
お母さん
その言葉を聞く度に私は笑った
たぁ君とも上手くいってるらしかった
結婚したのか、しなかったのか
その辺は、もう深くは聞かなかった
私とたぁ君もそれなりの関係だった
近すぎず遠すぎず
お互いに必要以上の事を聞かない
そのぐらいがちょうど良かった
そうして二年が過ぎた
そして三年目
私は支配人になった
店を回しながら、自分もプレイヤーとして卓に着く
売上は常に1位だった
後輩からは慕われていた
『〇〇さんがいてくれて良かった』
そう言われることも増えた
昔の私が聞いたら
きっと笑っていたと思う
小説家になりたいなんて言っていた私は
もうどこにもいない
そう思っていた
たまにメールが届いた
〇〇
差出人は、内藤桃子
内容は似たようなものだった
『お元気ですか』
『またいつか、書きたくなったら連絡してください』
そして最後には必ず
『いつでも待っています』
もう3年も経っている
私はそのメールを見ながら小さく笑った
よく懲りないな
三年も連絡を返していないのに
それでも消さなかった
メールも
昔の原稿も
まだ残っていた
ただ、開くことはなかった
その日は
事務所で仕事をしていた
パソコンに向かっていると
どうもラウンジの方が騒がしい
笑い声
女の子たちの声
普段より明らかに大きい
〇〇は手を止めて、事務所を出た
〇〇
ラウンジを覗いた瞬間
その理由がわかった
人だかりの中心に、見覚えのある男がいた
〇〇
完全な偶然だった
ニュースで見た事がある
海外でプレーしているとか、なんとか
昔と変わらない、少しだけ人を食ったような笑い方
その及川徹が、こちらに気がついた
及川
及川
〇〇はぺこりと軽く会釈をする
〇〇
及川
そう言って及川は近づいてくる
及川
〇〇
及川
及川
〇〇
〇〇
周りの客まで、何事かとこちらを見ている
及川はそんな視線には目もくれず笑った
及川
及川
及川
〇〇
及川
及川
それから、及川くんが帰るまで
私たちは昔のことを話した
高校のこと
くだらない話に
今の話
忘れていたはずなのに、話していると
不思議なくらいに思い出せた
気づけば私も笑っていた
帰る時間になり
私は及川くんを車まで送った
及川
〇〇
〇〇
〇〇
及川が車に乗り込む
ドアが閉まる瞬間、ふとこちらを見た
及川
及川
〇〇
及川
及川
その名前を聞いた瞬間
ほんの少しだけ、胸の奥が揺れた
及川
〇〇
私は首を横に振った
及川
及川はそれ以上何も言わなかった
ただ、窓を閉める直前に
及川
及川
それだけ言って窓を閉めた
車が走り去っていく
私はその場に立ったまま
しばらく動けなかった
家に帰る
玄関の明かりをつけ、カバンを軽く投げた
広い部屋だった
大きな窓の向こうには
東京の町が広がっている
夜になれば、無数の光が見える
仕事もある
お金もある
欲しいものだって
昔よりずっと買える
何もかも手に入れたような生活だった
それなのに
どうしてだろう
心だけがずっと、満たされなかった
〇〇は息を吐いて、デスクに向かった
明日の仕事の前に
経費をまとめとかなければならない
しばらく作業をしていると
ファイルの山に目が止まった
〇〇
〇〇
そろそろ処分しないと
そう思って、古いファイルをまとめようとした瞬間
ざっと何冊かが床に落ちた
〇〇
ため息をつきながら、しゃがんで拾う
家の借用書
電気代
水道代
仕事とは関係のない書類まで入っていた
なんでこんな所に
そう思いながら、1枚ずつ仕分けていく
そして
ひとつのファイルに目が止まった
〇〇
見覚えがあった
ゆっくりと開く
そこに入っていたのは
あのころの原稿だった
入試直前まで書いていたもの
〇〇は椅子に座り直し、ページをめくった
〇〇
〇〇
思わず笑ってしまう
今なら、すぐに気づく
こんな文章を内藤さんに見せていたら
きっと赤ペンだらけだっただろう
ページをめくる
また1枚
その次も
未完成のところもある
書き直したあともある
それでも
これは自分の人生を賭けて書いたものだった
上手いとか下手とか
売れるとか売れないとか
そんなこととは別に
あのころの自分が私かにここにいる
〇〇は何度かページをめくった
そしてもう1枚
それは他のページとはまた違った
文章というより殴り書きに近い
端っこに小さく文字が残っている
ーーおかえり
〇〇
胸の奥が、少しだけ痛くなった
〇〇は紙をじっと見つめる
何を書こうとしていたのか
どうしてそこに、その言葉を書いたのか
もうはっきりとは思い出せない
ただ
捨てることだけはできなかった
〇〇は紙をファイルに戻した
しばらく迷ってからそのファイルを
デスクの一番下の引き出しにしまう
カシャンと音が鳴った
引き出しを閉める
そしてまた
何事も無かったかのように仕事へ戻った