肌寒い秋の日。
俺は病院で、君と出会った。
彼方
初めまして
彼方
今日から同じ病室
になる、彼方です
になる、彼方です
花
初めまして!
花
私、花っていいます
黒くて短い髪の、女の子。
君は、名前にふさわしい、
花のように咲く綺麗な笑顔で 俺に笑いかけた。
同じ病室になって、花と 仲良くなった頃。
花
私ね、もうすぐ
死んじゃうんだ
死んじゃうんだ
花
生きられるのは、
秋の間までかなー
秋の間までかなー
彼方
!!…
君が、衝撃的なことを告げた。
花
ごめんごめん!
花
反応しづらいこと
言っちゃったね!
言っちゃったね!
君はまるで、秋の間にしか咲けない 彼岸花のようだった。
秋も、もうすぐ終わる。
俺は、体調が良くなって
退院することが決まった。
花
退院おめでとう
花
また、病室に
一人だなー
一人だなー
君は寂しそうにつぶやく。
彼方
………
彼方
これ、君にあげるよ
そう言って、後ろに隠していた、 真っ赤な彼岸花を
彼女に渡した。
花
これ、彼岸花?
花
彼岸花って、
死人花って別名も
あるんでしょ
死人花って別名も
あるんでしょ
花
私への当てつけー?
君は怒ったように唇を尖らせた。
本当は、全然怒っていない のだろうけど。
彼方
彼岸花の花言葉は、
彼方
思うはあなた一人
彼方
また会う日を楽しみに
病室の中を、一つの風が吹き抜けた。
花
…………
彼方
俺、花のことが
好きだよ
好きだよ
彼方
これからも、花だけ好き
花は、静かに俺の言葉を聞いていた。
彼方
きっと、手術が成功する
って願ってる
って願ってる
彼方
俺は、もう退院して
彼方
病院から居なくなるけど
彼方
またいつか、
彼方
元気になった花に
会えるって、信じてる
会えるって、信じてる
花
……うん
花
私、生きるよ
花
生きたい
花は、泣かなかった。
ただ、花のように咲く笑顔で 笑っていた。
あれから半年たった。
花には、会っていない。
しょうがないか。電話番号も、 何も知らなかったんだから。
でも、俺は絶対に会えるって 信じている。
彼方
あ、
彼方
彼岸花だ
道端に、季節外れの彼岸花が 咲いていた。
彼方
綺麗…
俺は道端にもかかわらず、 しゃがみこんでその花を見つめた。
??
うわぁ、綺麗…
同時に、
俺の隣に、女の子がしゃがみこんだ。
隣に顔を向けた。
2人、目を、見つめ合う。