人間にとって1番気持ちの良い温度
施設中に香る紙の香り
俺はこの場所が大好きだ
荷物を椅子に乗せると
静かな館内に
木と木がぶつかり合う音が響く
さっきとは別世界みたいな感覚に
少しふわふわしながら
探している本のコーナーへ向かう
レポートの資料のついでに
物語の本でも借りようと
前、ジェルくんに おすすめされた作者の本を探す
𝑁.
小さく声を上げて
本棚に近寄る
面白そうな題名のものを
3つほど選んで
内容に少しだけ目を通す
一通り目を通し
ちょっとくらくらするような
頭を上げて
本棚を眺める
ふと
視界の端の端で
なにかが動いた
そちらを見ると
1番ここに来ることが なさそうな弟がいた
本を抱えて
彼の方へと向かう
耳にイヤホンをして
すごい速さで
数式を紙に記していく
しばらく
すぐ後ろから見ていても
余程集中しているのか
気づく気配は全くない
ノートの隣にあった問題集を
あっという間に見開き10ページほど 終わらせてから
集中力が切れたのか
それとも、気が済んだのか
手に持っていたペンを机に置く
くすり、と笑うと
ようやく気づいたようで
𝑆.
図書館では出しては いけない大きさの声をあげるから
慌てて口に人差し指を当てる
𝑁.
𝑆.
𝑁.
𝑆.
𝑁.
𝑆.
𝑁.
𝑆.
𝑆.
𝑁.
𝑁.
𝑆.
弟は
嫌なことがあったり
考えたくない時に
気が紛れるんだろう
すごい集中力で
数学を勉強する
𝑆.
𝑁.
無理に聞き出そうとは思わない
俺はただ
言いたい時に言える環境を整えるだけ
よしよし、と
頭を撫でる
𝑆.
そう言いつつも
猫みたいに
気持ちよさそうに 目を細めているのは
見逃さない
𝑁.
𝑆.
いつの間にか
外から
5時のチャイムが聞こえてくる
𝑁.
𝑆.
ノートや問題集を 鞄に入れるのを見守りながら
窓から外を眺める
𝑁.
𝑁.
窓には
線状の模様がつき始めた
𝑆.
荷物をまとめ終わったのか
いつの間にか後ろに立っている彼
𝑆.
𝑁.
𝑆.
𝑁.
𝑆.
𝑁.
ボソボソと二人で話しながら
出口へと歩く
時間にしては暗い街
雨のせいでもあるだろうけど
いよいよ冬が迫ってるなぁ
なんて考えながら
普段使わない黒い傘を開く
運良く
傘は2本借りることができた
2人とも傘を差すと
自然と
傘同士がぶつからないように
距離ができる
2人の沈黙に
雨が傘を叩く音が響く
𝑆.
最初に口を開いたのは
彼の方だった
𝑁.
𝑆.
口を開きかけて
黙り込む
なんとはなしに
目線を
明るく光った建物たちに向ける
傘で遮りきれない雨が
徐々に
服に模様をつけてくる
𝑆.
同じくらいの大きさの影が
暗い道路を
さらに暗くする
𝑆.
𝑆.
あくまで
悲しみも
寂しさも
憂いさえも
含まない
無機質な声
彼は単純に疑問を抱いているのか
はたまた
俺に答えを求めているのか
𝑁.
𝑁.
ありきたりな答え
こんな答えを
彼は望んでいないだろう
でも
もし
彼の質問が
答えを求めているが故ならば
残念ながら
俺が答えを与えることはできない
その答えは
自分で見つけないと
意味がないから
𝑆.
彼の声が
少しくぐもって聞こえたのは
雨のせいだろう
ああ
こんな時に
なんで雨が降っているんだ
傘を差してたら
抱きしめることができない
君の手を握ることすら
できないや
貼りついた静寂と
喉を刺すような寒さのせいで
別世界にきたみたいに思う
...いや
これは
別世界とか
そんな、綺麗な名前のものじゃない
ただ
世間に
世界に
時間に
そして、
悲しさに
置いていかれている気がするだけだ
馬鹿みたい
自分すら分からないなんて
いつからか
自分は
自分じゃない誰かになった
𝑁.
𝑆.
𝑁.
正しさも
想いも
自分さえも
答えが返ってこない言葉を
脳内で反芻する
もしも
昔から変わらない想いが あるかと聞かれたら
きっと俺は
たった一つの想いしか 挙げられない
このまま
いくら歩いても
駅に着かずに
いつの間にか
この雨に溶けてたら
なんてね
𝑆.
𝑆.
彼の声を遮るかのように
人が少ない道の後ろから
響き渡った悲鳴
驚いて辺りを見渡すも
雨と
不透明な傘のせいで
視界が悪く
遠くが見えない
𝑆.
弟の大きな声に
後ろを向くと
追いつかない脳と
妖しく銀色に光るもの
数秒のうちに理解した
迫った状況とは裏腹に
さっきの悲鳴はこれのせいか
なんて
自分でも驚く程、呑気に頭は回る
同時に
あと数秒で
感じるであろう
激痛を覚悟した
耳に響いたのは
悲鳴でも雨の音でもなく
傘が地面にぶつかる音だった
𝑡𝑜 𝑏𝑒 𝑐𝑜𝑛𝑡𝑖𝑛𝑢𝑒𝑑...
コメント
63件
ほんとに好きなんです、お願いですから、物語を書かなくなってもこのお話を残してください、
ぶくしつ!
ブクマ&マイリスト失礼します!!🙇🏻♀️