TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

爪削村怨殺事件

一覧ページ

「爪削村怨殺事件」のメインビジュアル

爪削村怨殺事件

4 - 爪削村怨殺事件4

♥

1,680

2020年05月20日

シェアするシェアする
報告する

翌日 通学路

ヨシサト

ヨシサト

お帰りなさい

チサト

……あなた

チサト

まだ村にいたんですか

セーラー服を視界の端に認め

務めて柔らかい表情で声をかける

それに対して、返ってきたのは隠すつもりもない嫌悪感だ

苦々しいと表現した方がいいだろうか

僕との関わりを面倒がっているというよりも

僕自身のことを嫌っている

ヨシサト

……いやぁ

ヨシサト

こう見えて、空気は読む人間なんで

ヨシサト

今は帰るわけにいかないでしょ

チサト

私刑にあうかもですよ

ヨシサト

それはどうだろうな

ヨシサト

ミカさんの身内は、僕の身内でもある

ヨシサト

ただでさえ注目を集めてるあの家で

ヨシサト

これ以上の混乱を起こすのは

ヨシサト

村での地位に影響しかねない

チサト

……色々考えてるんですね

ヨシサト

そりゃあ少しはね

チサト

わざわざ私に会いに来たのも

チサト

考えた結果ですか?

ヨシサト

――うん

ヨシサト

どうしても聞いておきたくてね

心臓が小さく跳ね回り、喉が渇き、手の平が濡れる

震えそうな喉を必死に落ち着けながら、僕は唾を飲み込んだ

年下の女の子と話しているだけなのに

こんなにも緊張したことがあっただろうか

風が、耳元で鳴った

ヨシサト

なんで、ミカさんを殺したんだい

突風が通りすぎる

彼女の髪がぶわりと巻き上げられ

温度のないその視線が、僕をうんざりと見ていた

チサト

……聞いてどうするんです

チサト

もう見当はついてるんでしょう

あぁ、そんな気はしていた

この子は、殺人の事実を隠すつもりすらないのだ

ヨシサト

推論でしかないよ

チサト

ならその推論を聞かせてください

ヨシサト

……参ったな

ヨシサト

察するに君は、以前から

ヨシサト

ミカさんの所業を知っていたんだろう

ヨシサト

君はよそでいじめに遭ってここに来た

ヨシサト

きっと中岡さんのご家族は

ヨシサト

君に娘さんの姿を重ねたはずだ

ヨシサト

おじの家には関わらないようにと

ヨシサト

そう教えられたんじゃないかな

ヨシサト

もちろん君もそのつもりだった

ヨシサト

なによりミカさんは東京に嫁いでいるし

ヨシサト

接点自体なかっただろうね

ヨシサト

ところが、彼女が出産準備で帰省してきた

ヨシサト

正直、興味はあったんじゃないか?

ヨシサト

いじめで人を死に追い込んだ人間

ヨシサト

そんな人が、どんな人なのか

チサト

……そうですね

チサト

いじめで人を殺して、大人になった人

チサト

反省してくれていればいいと思いました

チサト

そうすれば、いつか私をいじめたアイツらも

チサト

反省し、心から私に謝るかもしれないと

チサト

そう、期待したから

ヨシサト

だから君は、中岡さんの霊になりすました

ヨシサト

生前の中岡さんの写真かなにかを見て

ヨシサト

髪型なんかを真似ただけでよかったはずだ

ヨシサト

街灯がほとんどないこの村じゃ

ヨシサト

夜にそんな姿を見たら、すぐに噂が走る

ヨシサト

ミカさんが帰ってきたから、霊が出たと

ヨシサト

おじさんの家の壁に悪行を刻めば完璧だ

チサト

……ふふ

チサト

まるで見てきたように言うんですね

ヨシサト

恥ずかしいな

ヨシサト

さっきも言ったけど、全部推論だよ

チサト

それで、続きは?

ヨシサト

あー……

ヨシサト

だけど君は、その目で見てしまった

ヨシサト

ミカさんが反省するどころか、激昂するのを

ヨシサト

彼女が中岡さんのお墓を倒し

ヨシサト

罵倒するのを見てパニックになったのは

ヨシサト

君だよね?

チサト

……

チサト

そうです

肯定の直前、彼女の唇から吐き出されたのは

苛立ちと憎しみからくるような、震えたため息だった

チサト

――同じ人間がすることだなんて信じられなかった

チサト

あの人に罪の意識なんて微塵もなくて

チサト

あの人にとって中岡さんは過去の遺物で

チサト

あの人の人生に、中岡さんは傷にすらなってなくて

チサト

その全ての事実が、私の中で

チサト

あんな人はいないほうがいいと声を上げていた

チサト

……だけど一度は期待したんです

ヨシサト

期待?

チサト

せめて初対面の人間の前でくらい

チサト

いじめを悪いことだと認めてくれるかなって

言い終わったあと、彼女は

馬鹿馬鹿しそうに、吐き捨てるように笑った

チサト

ハッ、ハハッ!!

チサト

あんな女に良心を期待するなんて馬鹿みたい!

チサト

あの女、私になんて言ったと思います!?

チサト

偶然挨拶したように装った私に!!

 

あぁ、あなた

父さんたちから聞いたわよ

いじめに負けて逃げてきたんだって?

確かにボロ雑巾みたいにしたくなる顔してるものね

 

チサト

――気がついたら、私

チサト

あの人に馬乗りになって

チサト

包丁でめちゃくちゃにしていました

ヨシサト

……

言葉もなかった

確かに、ミカさんなら言いそうだという思いもある

親戚内ですら発揮されていた毒舌だ

こんなことを思ってはないけないと分かっているけれど

あぁ、仕方ないと、思ってしまう

ヨシサト

彼女のお腹が無傷だったのは

ヨシサト

君が座っていたからかい?

それにしては妙だ

彼女の傷は頭の先から足先まで

ずっと座ったままだったとは思えない

チサト

いいえ

チサト

お腹は一番めちゃくちゃにしてやりたかった

チサト

あの人の子どもならきっと

チサト

楽しんでいじめをする人間になる

チサト

そう思ったから

ヨシサト

なら、なぜ

チサト

ナイフを振り下ろせなかった

チサト

まるで誰かが私の腕を掴んでるみたいに

……一種のヒステリー状態だろうか

殺意が強すぎて、逆に腕が動かなかった?

少しむずかしいかもしれないが、有り得なくはない

ヨシサト

凶器は?

チサト

山のどこかに捨てました

チサト

もう場所も覚えてません

ヨシサト

……その時の、服は

チサト

一緒に捨てましたよ

ヨシサト

僕ていどが犯人を突き止められるくらい

ヨシサト

君は素直に動きすぎた

ヨシサト

警察だってもう動いてる

ヨシサト

きっと、君はもうすぐ……

チサト

捕まったっていいんです

チサト

――いいえ

チサト

捕まって、ようやく

チサト

私の目的が達せられるんです

ヨシサト

……目的?

チサト

ご存じでしょ?

チサト

最近の殺人事件に関する取材って

チサト

加害者より、被害者のことを報道するんです

チサト

殺された理由はなんだったのか

チサト

なにが理由で加害者は殺意を抱いたのか

チサト

自分はきっとこんな目に遭うことはない

チサト

そう安心したいがために

チサト

誰もが被害者の粗探しをするんです

チサト

いじめの原因はお前にもある、なんて

チサト

まるで学校の先生みたいに!!

チサト

――でも、あの人についてはそれで正解

チサト

注目を浴びると思いますよ

チサト

あの人の地位、境遇、これまでの過去

チサト

あの人に同情する人なんて

チサト

いったいどれくらいいるでしょうね?

ヨシサト

そんなことして、何になるんだ

チサト

何にもならないですよ

チサト

でも定期的に下克上を起こさないと

チサト

あの連中は忘れるでしょう?

ヨシサト

あの連中?

チサト

いじめの加害者たち

チサト

相手も同じ人間なんだと

チサト

殺意を抱いたら、実際に殺せるのだと

チサト

そしてこの事件の加害者が私だと分かれば

チサト

私をいじめたアイツらもきっと

チサト

私を夢に見るほど、恐れてくれる

チサト

あなたの推理……いえ

チサト

推論、でしたか

チサト

一つだけ覚えのないことがありましたけど

チサト

そんなことはもういいです

チサト

言いふらすなり、どうぞご自由に

チサト

私はむしろ、早く

チサト

あの連中に、いつ自分が標的にされるか

チサト

そのストレスを与えたくて仕方ない……!!

血走った目を見開き、山向こうを見つめた彼女は

もはや僕のことなど眼中にすらなく

僕はひどく虚しい思いでおじの家に帰り

そっと、帰宅のための荷造りをはじめた

その夜、彼女の家には何台もの車が訪れ

泣き叫ぶご両親を残し、連行されていった

ヨシサト

……

自宅に帰り、すでに数日が経ったが

霧の中にいるような気分が抜けないまま

授業も手につかず、自主休講を続けている

ニュースは彼女の予想通り、あの事件で賑わっている

ムラ社会、いじめ、地元権力者の娘、犯人の境遇

どれをとってもセンセーショナルだからか

毎日朝から晩まで飽きることなく

コメンテーターたちがしたり顔で議論を交わしていた

ヨシサト

それは、いいんだ

ヨシサト

だけど彼女が言っていたこと

 

「一つだけ覚えのないことがありましたけど」

 

その言葉を思い返し、さっき目にしたばかりの

ネットニュースのコメント欄に視線を戻す

ナナシ

この村、今凄いことになってるらしい

ナナシ

ほとんどの家に、毎日落書きがされていくんだって

ナナシ

ひどいイタズラ!

ナナシ

村の人は関係ないじゃん

ナナシ

違うんだよ

ナナシ

村八分が起きてたって話、文中にもあったろ

ナナシ

それの内容が書かれてるんだって

ナナシ

その家の人間がいつ、どんな仕打ちをしたか

ナナシ

毎日一つずつ書かれていくんだって

ナナシ

いくら住人が少ない集落って言っても

ナナシ

そういうところって家と家の距離が遠いし

ナナシ

毎晩全部の家にそんなことできるなんて

ナナシ

よっぽどたくさんの人間がいないと――

それ以降は読む気にならず、スマートフォンを放り投げる

そうだ、たくさんの人間がいれば可能だ

だけどそれを知っている人間は誰だ?

どうやってそんな人数を集めた?

村人たちがお互いに告発している?馬鹿な!

ヨシサト

――いや

ヨシサト

今、僕が考えている事のほうが

ヨシサト

よっぽど馬鹿なことだ

滞在中、何度か言葉を交わした女中さん

帰宅の日、挨拶しようと探し回ったが見つからなかった

それどころかあの人の容姿を伝えると

いろいろな人が顔を青くして、同じように言ったのだ

なぜあなたが中岡の娘のことを知ってるんですか、と

この作品はいかがでしたか?

1,680

コメント

19

ユーザー

うおおおお意外な結末!!!

ユーザー
ユーザー

すいません、どなたか解説お願いします

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚