テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ruruha
1,666
#中学校
#創作
ゆずき
57
#不気味
もな
118
第二話:狩人たちの森
能力者と無能力者の共存を理念に掲げる神学校
その目と鼻の先にある小学校の裏手には、薄暗い広葉樹の森が広がっていた。
だが今、その森の入口は、幾重にも張られた黄色い規制線と、慌ただしく行き交う
警察官たちによって異様な緊迫感に包まれていた。
夏の湿った空気が肌にまとわりつき 雨を含んだ湿気混じりの風が木々を揺らす。
どこか遠くで、カラスが甲高い不吉な悲鳴をあげていた。
謎のオッサン
規制線の手前で、四十代後半とは思えないほど 若々しい顔立ちの男が、困り果てたように頭をかきむしっていた。
白シャツの上に羽織った水色の薄手スポーツウェアに、黒のスーツズボン。
およそ捜査員らしからぬ締まりのない格好だが、その背格好にはどこか修羅場を潜り抜けてきた者特有の脱力した凄みが漂っている。
若手警察
若手警官が困惑した顔で突っぱねると、男は
謎のオッサン
と大袈裟に両手を上げた。
謎のオッサン
泣きつくような声に応じ、背後の不穏な暗がりから 一人の女性が足音もなく歩み出た。
二十代前半。切れ長の鋭い瞳に、夏場だというのに 首元までボタンを留めた長袖のシャツ。
彼女が踏み出した瞬間、周囲のピリついた空気が さらに一段、冷却されたような錯覚を覚える。
桜
幻夜
女性 桜 緑(さくら・みどり)は、呆れ果てたように深くため息をつくと 懐から一枚の警察手帳を取り出し、無言で若手警官の目の前に突きつけた。
若手警察
幻夜
手帳を受け取った男 齋藤幻夜(さいとう・げんや)は、照れくさそうに頭をかく。
警官は手帳に刻まれた金文字の刻印を目にし、緊張で背筋を直立させた。
――中央治安統括局・超常犯罪対策局。
化け物が引き起こす凶悪事件を専門に処理する、国家最高峰の暴力機関。
幻夜
幻夜
幻夜
幻夜が気楽な調子で自己紹介を終えると すぐさま表情の温度を削ぎ落とした。
幻夜
その問いに警官が口を開こうとした
その瞬間だった。
――ギュャァァァァォッ!!
森の深層から、鼓膜を裂くような異形の大咆哮が響き渡った。
地を這うように猛烈な濃霧が溢れ出し、大木が根元から軋み声を上げる。
濡れた土の匂いは一瞬で吹き飛び 鼻を突く強烈な鉄錆と腐肉の臭気が漂ってきた。
若手警察
若手警察B
パニックに陥る現場の警官たちを一瞥し、幻夜は短く指示を出した。
幻夜
言うや否や、二人同時に黄色い規制線を跳び越える。
一歩足を踏み入れた瞬間、土の感触が変わった。
森のあらゆる環境音が消失し、静寂だけが世界を支配する。
桜が懐から取り出した真鍮製の羅針盤
アーティファクト《探し人の地図帳》が、淡い青光を放っていた。
光は波紋となって地表を駆け巡り、森全体を覆う 不可視のドーム状結界を形成する。
幻夜
桜
桜
幻夜
深い霧の奥、異形がゆっくりと巨体を持ち上げた。
全身を覆う黒い粘液が湿った音を立てて糸を引き、胸部に開いた巨大な裂け目
牙の生え揃った『口』が、ぢゅるり、と舌で地面を舐め回す。
幻夜
幻夜が苦笑いをもらす横で、桜は一度も異形から視線を逸らさなかった。
その薄い唇が、すっと可憐に弧を描く。
桜
幻夜
桜
幻夜
返事の代わりに、桜は両の拳を固く握りしめた。
ゴキッ、と重厚な骨鳴りが森に響く。
――ドォンッ!!
その音を合図にするかのように、異形が爆発的な踏み込みで肉薄してきた。
巨体からは想像もつかない神速。一直線に桜の頸椎を穿たんと爪が迫る。
桜が愉悦に瞳を細めた。
桜
迎撃の右拳。
ズガァァン!!
激突の衝撃波だけで周囲の黒土が数メートルもめくれ上がり、巨木が次々とへし折れた。
桜の華奢な体が十メートル近く後ろへ弾かれ、靴底が地面を削って溝を作る。
だが、彼女の足は止まらない。 滑りながらも、次の瞬間には前傾姿勢で地を蹴っていた。
桜
幻夜
幻夜は呆れつつも、腰のホルダーから小瓶を 取り出すと、歯で栓を噛み千切った。
幻夜
桜
幻夜
小瓶の薬液を抜き身の刀身へ流し込むと 鋼が青白く凶暴な燐光を放ち始める。
異形が再び襲いかかる。幻夜はその懐へ滑り込み、一閃。
ジュッ!!
焼き切れる肉の臭いが爆ぜる。
異形の右腕が肩口から綺麗に斬り飛ばされた
――はずだった。
ズズズ……!
斬り落とされた傷口から黒い肉芽が蛇のように蠢き 一瞬で腕が元通りに再構築されていく。
幻夜
桜
異形は再生した腕を不気味に見つめると
突如、自分の小指をバリリッと噛み千切った。
ぶちり、という嫌な音とともに 千切った小指を弾丸以上の速度で桜の顔面へ投擲する。
パンッ!!
桜が即座に叩き落とした瞬間、指が破裂し 黒い毒性の霧が爆発的に広がった。
桜
幻夜
幻夜が別の薬瓶を地面へ叩きつける。
ボンッ! と噴き上がった白煙が毒霧と反応し 一瞬にして青白く眩い炎となって爆発した。
炎に包まれながらも、異形は怯まない。
むしろ焼かれる感覚を愉しむように 焦げた掌をゆっくりと桜へ向け、人差し指をくい送る。
――来い。
桜
幻夜
桜
ドンッ!!
桜が跳んだ。地面がクレーター状に陥没する。
異形も同時に消える。
空中での激破。
ドドドガガガガッ!!
拳と爪、肘と牙が交錯するたび、音響爆弾のような爆音が森を揺らした。
一撃ごとに大気が歪み、衝撃の余波で樹木が粉砕されていく。
不意に、異形が攻撃の手を止めた。
桜の渾身の突きが、異形の胴体を空しく貫く。
桜
異形は自ら肉体を垂直に引き裂いた。
四散する黒い肉片。それらが地面に落ちた瞬間
蠢き始めた。
人間の幼い左手の形をした肉片が何十本も生え揃い、蜘蛛のようにワラワラと桜の足元へ群がり跳ねかかる。
桜
幻夜
足首に噛みつき、太ももを駆け上がり、腕にまとわりつく無数の手。
桜は鬱陶しそうに眉をひそめると、凶悪な笑みを浮かべて右拳を真下の地面へ叩きつけた。
ドゴォォォン!!
指向性の衝撃波が地表を津波のように伝播する。
桜の体に群がっていた無数の手が、骨も残さずまとめて吹き飛んだ。
その一瞬の隙を逃さず、本体の異形が真後ろの死角へと潜り込む。
幻夜
桜
振り返りもせず、桜は背後へ向けて 鋭い後方肘打ち(バックエルボー)を放つ。
ゴッ!! という重い音とともに、異形の顎の牙が粉々に砕け散った。
異形は一歩退くと見せかけ、ドロリと地面の影へと溶け込む。
桜
幻夜
幻夜が刀を地面に突き立て、薬液を土壌へと叩き込む。
数秒後、異形が潜む直上の地面が激しい化学反応を起こして爆発した。
ドォン!!
土煙とともに空中へ打ち上げられる異形。無防備な滞空時間。
幻夜
桜
桜が深く膝を折り、大地を深く削り込む。
一歩。二歩。三歩。
音速を超えた跳躍。拳に全身の質量と破壊力を収束させ、空中の異形へと肉薄する。
異形もまた、爛々と輝く目で牙を剥き出しにし、迎撃の爪を繰り出す。
正面激突。
ズガァァァァァァンッッ!!!!
森全体が、まるで巨大な地震に見舞われたかのように激しく揺動した。
一発、二発、三発
空中で放たれる音速の連撃。
異形の腕が叩き折られ、肉が削げ、それでも異形は笑うように牙を鳴らす。
最後に、桜は空中でありえない軸移動を行い、腰を限界まで捻り絞った。
桜
ドォォォォンッ!!
空気を圧縮した直裂波が、異形の体内を内側から破裂させた。
黒い血と肉片が、まるで豪雨のように森全体へと降り注ぐ。
……静寂。
ザーッと、遅れて本降りの雨が降り始めた。
舞い散る肉片と濡れた木々の合間で 幻夜が肩で息を吐きながら刀を鞘へと納める。
幻夜
胸ポケットから煙草を取り出し、ライターに火をつけようとした瞬間。
桜
幻夜
黒い血を拭いながら歩み寄ってきた桜が、底冷えするような視線を向けた。
桜
桜
幻夜
桜
幻夜は苦笑いしながら煙草を仕舞い、雨を見上げた。
無数の肉片となって散った異形。
だが、その残骸からは依然として この街を覆う連鎖『神隠し』の不気味な残響が漂っていた。
幻夜
灰色の雨の中、二人の影が静かに森をあとにした。
残されたのは、降りしきる雨と、消えない濃密な血の匂いだけだった。
コメント
1件
いやもう、めっちゃ熱かったです…!🔥 冒頭の幻夜さんのだらしない感じと、戦闘になった時のキレッキレの動きのギャップがたまらなかったですw 桜さんの「当たりですね」の笑顔、戦闘狂っぽくて最高にかっこよかった…🥀💕 28分で♡♡♡きるって台詞も痺れました。でも結局異形の残響が残ってて、まだ“神隠し”は終わってない感じがゾッとしますね…続きが気になります!