テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
31
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
主
さとみ
莉犬
るぅと
ころん
ジェル
ななもり
春になったばかりの廊下はまだ少し冷えていた
俺が中学一年生だった頃
さとみ
自分でも驚くくらい小さな声だった
モブ1
目の前の男子が俺の教科書をひらひらと振る
モブ2
モブ1
モブ1
周りの笑い声が壁に反射して 何倍にもなって耳に刺さる
言い返したい
でも、喉が固まって声が出ない
眼鏡がずれて視界がぼやけた
悔しいのに何もできない自分が一番嫌だった
………
廊下の奥から落ち着いた声が飛んできた
全員が振り向く
そこに立っていたのは 見覚えのない制服の先輩だった
ネクタイの色が違う
二年生だとすぐに分かった
モブ1
………
軽く笑いながらその先輩
先輩はゆっくり近づいてくる
………
その一言だけで空気が変わった
モブ1
教科書が俺の胸に押し付けられるように返される
モブ1
いじめていた奴らはそのまま去っていった
廊下には俺と先輩だけが残る
………
初めて目が合った
俺はうまく喋れなくて何度も頷くだけだった
………
そう言って先輩は背を向ける
さとみ
思わず呼び止めていた
先輩が振り返る
さとみ
言い終わった瞬間、顔が熱くなる
先輩は一瞬だけ驚いた顔をして それから小さく笑った
………
俺はその背中から目を離せなかった
それからもいじめが完全に無くなることはなかった
でも、廊下の向こうに オレンジ色の髪が見えるだけで ほんの少しだけ怖くなくなった
季節が巡り俺が中学三年生になった頃
進路希望調査の紙が配られた
放課後に莉犬が俺の机に腰掛けながら聞いてきた
莉犬
さとみ
そう答えながらも 頭の中には一つの校舎が浮かんでいた
あの日廊下で助けてくれた先輩が進学した高校
莉犬
莉犬がニヤッと笑う
莉犬
俺は思わず顔をしかめた
さとみ
莉犬
そこへ後ろの席から声がする
るぅと
振り返るとるぅとが教科書を閉じて こちらを見ていた
さとみ
るぅと
るぅとは当然のように続ける
るぅと
莉犬がぱっと身を乗り出した
莉犬
るぅとは少し考えるようにしてから頷く
るぅと
その言葉に胸がどくんと大きく鳴った
中二だった先輩がもう高校生になっている
当たり前のことなのに 時間が急に現実として迫ってきた気がした
その日の帰り道
莉犬
莉犬が隣を歩きながら聞く
さとみ
莉犬
俺は少しだけ間を置いてから答えた
莉犬は嬉しそうに笑う
莉犬
さとみ
莉犬
思わず顔をしかめる
さとみ
莉犬
莉犬は真顔だった
莉犬
さとみ
後ろからくすっと笑う声
るぅと
るぅとが追いついてきていた
るぅと
さとみ
二人に挟まれて俺はため息をつく
でも、もしあの人と同じ学校に行くなら
このままでいいのか、という考えが ほんの少しだけ頭をよぎった
同じ頃
春になったばかりの高校の教室
新しい制服にまだ慣れない生徒たちの ざわめきが続いていた
ころん
前の席からころんが身を乗り出す
ななもり
ななもりが苦笑する
三人ともこの春から 高校一年生になったばかりだった
ジェルは椅子の背にもたれながら 気の抜けた声を出す
ジェル
ころん
ころんが笑う
ころん
ジェル
ジェルは窓の外を見た
ジェル
軽い言い方だったけれど
その選択が一年後
誰かの人生を変えることになるとは まだ知らなかった
夜
画面を見つめながら俺は布団に倒れ込んだ
まだ遠いはずの未来が 急に手の届く距離に来た気がした
あの日名前も知らなかった先輩と もう一度同じ場所に立つために