桜
これはこれは楠木守衛長。

桜
どうしましたー?

桜
眉間に皺寄ってますけど。

近づいて来た男に対して、あえて挑発するような口を叩く桜。
楠木
賑やかなのは結構だが、ここにいるのは貴様達だけではない。

楠木
特に完全な部外者が混じっているからな、注意をしておかないと思ってな。

流羽
守衛長、お言葉ですが、こちらのお二人は許可を得て、ここで食事をしております。

流羽
なお、私達だけに注意するのはおかしいです。

流羽
他にも同様に、歓談を楽しむ声は上がっておりますし、私達だけが特別大きな音を立てていたわけでもありません。

流羽
その辺り、注意するのは結構ですが、公平にお願いできますか?

楠木
ふん、何を偉そうに――。

そして、縁と尾崎のことを睨みつけると、楠木はどこかへ行ってしまった。
????
いやぁ、災難でしたねぇ。

????
あれに絡まれるとか。

楠木と入れ替わりになる形で、背の高いヒョロリとした男がやって来た。
桜
お、おしるこじゃないか。

????
善財ですけど、おしるこじゃありませんよ。

桜がおしるこ――と呼んだ男は、刑務官の善財翔樹(ぜんざいしょうき)という。
むしろ、これだけの数がいながら、他に顔見知りはいないというか――。
中嶋は前から知っているから、純粋にそれ以上の付き合いだと思っているし。
善財
楠木平(くすのきたいら)守衛長。その成績、実績共に優秀だが、ちょっとした問題を起こして以来、このアンダープリズンに配属となった。

善財
あの人、仕事はできるけど、性格があれだからね――。

善財
昭和なら通用したかもしれないけど、令和にあの態度は通用しませんよ。

善財
あの人、余所者に対して厳しいというか、0.5係も立派なアンダープリズンの要員なんですけどね。

善財
あの人を適当にかわせるのは中嶋さんくらいじゃないですかね?

縁
そういえば、中嶋さんは――。

流羽
確か、特出で昼過ぎまで戻らないはずですね。

尾崎
特出って、特別外出ってやつっすよね?

流羽
基本的に、ここの職員は泊まり込みですが、どうしても外に出ないと用事を足せないことがありますから。

桜
女子は特に大変だよねー。

桜
美容室とか、エステとかあるわけじゃないし。

尾崎
改めてアンダープリズンで働くとなると大変っすねぇ。

尾崎
自分らは、蛍の光が流れたら家に帰れますが。

桜
まぁ、これだけの人数を、いちいち許可したり、認可するとなると大変だからね。

流羽
まぁ、ここに勤める者として、仕方がないと思うしかないです。

流羽
ちなみにチョンマゲさん。残念ながら、アンダープリズンで採用されているのは【蛍の光】ではありません。

流羽
ここで流れるのは【別れのワルツ】という曲名であり【蛍の光】じゃないのですよ。

尾崎
え、でも【蛍の光】っすよ。

流羽
原曲が同じなんです。

流羽
皆さんがご存知の【蛍の光】は四拍子ですが【別れのワルツ】は、ワルツということだけあって三拍子なんです。

流羽
嘘だと思うなら、メロディーが流れた時に数えてみては?

流羽
四拍子ではなく三拍子ですから。

縁
あ、確かにスーパーの閉店時で流れるやつも、たまにリズムが変なやつありますよね。

流羽
それはおそらく【別れのワルツ】が採用されているからです。

流羽
日本人に馴染みがあるのは【蛍の光】のほうですので、リズムがおかしく聞こえるのでしょう。

善財
本庄さんは博識ですねぇ。

急に食堂の外が騒がしくなり、銃声らしきものが響いた。
縁
――え、銃声?

人の悲鳴が聞こえ、そしていくつもの足音が食堂内に入って来た。
そして、食堂内に入って来たのは――迷彩服に身を包み、馬やライオン、うさぎ、猫、犬などの動物の被り物をした集団だった。