10の物語⑦-裕香-

ある日、空は突然に裂けた

真っ黒い口は私に語りかける

状況がよくわからず、混乱した頭をどうにか整理する

そう言って、力弱く笑う

走っていた

蹴つまずき、道路に身を投げる

膝からは、血が滲んでいた

私は、死という存在からただ逃げていた

嫌だ、死にたくない

死ぬということは、何度体験しようと繰り返そうと、慣れることのできない存在

ただの恐怖の塊なのだ

この世界、『カゲロウデイズ』は、簡単にソレを繰り返す

...後悔していた

死んだことを、あの日、自殺したことを

死後の世界は、天国なんて甘ったるいものではなかった

生前の方が、死後の世界より天国というに相応しいとは、知らなかった

辛い、苦しい、痛い

前を見ると、遠くの方から一台のタクシーがこちらへ走ってくるのが分かる

恐怖を覚え、急いでその場から立ち去ろうとした

...しかし、足に力は入らなかった

足を擦りむいただけではなく、捻ってしまったようだった

怖くて、目を瞑った

僅かな、この世界への抵抗だった

轟音がすぐ目の前まで迫った時

急に、周りの音が消えた

いつまでたってもこない、体の衝撃に恐る恐る目を開ける

世界は、真っ白だった

何もない、何も聞こえない

あまりの光景に、一瞬意識が遠のきそうになる

驚きと絶望で声が震える

涙が出てくる

春人は、泣きながら笑っていた

そう言うと、春人は優しくはにかんだ

小さい時から変わらない、彼の優しい笑顔

私は、精一杯に笑った

長い長い夏の日は、もうすぐ終わる

つづく