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10の物語❸-正輝-

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10の物語❸-正輝-

1 - 10の物語❸-正輝-

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2018年04月02日

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俺はやっとの事で家に辿り着くと、もう死にそうになっていた

体も、心も

そんな俺を見て気を遣ったのか、母親は「おかえり」とだけ手短に言うと、それ以上何かを俺に問いただしたりはしなかった

奈緒の事が、大好きだった

どうしようもないくらいに

奈緒の死に顔が、今も脳裏を離れない

あの時、僕は奈緒と手を繋いでいたのに

何もできなかった

ただただ、後悔の念に押しつぶされそうだった

そんな時、“現実”とは空気を読まないもので、家のチャイムが高らかに鳴った

母親が出てくれるだろうと、俺は鳴り止まないチャイムを聞いていたが

母親が出る気配は一向にしなかった

どうやら、僕に気を遣って家を空けてようだ

どんだけ気を遣ってんだ、全く

僕は嫌々ドアを開けると、そこには見慣れた人物とそうでない人物にが立っていた

春人

あ、正輝くん

春人

よかったよ、いてくれて

春人

会いたかったんだ

なんだ、春人くん

会いたかった、なんて、少し気持ちが悪いぞ

僕は、そんな気持ちを押し殺しながら言った

正輝

あ、あぁ

正輝

そーなんだ

正輝

あれ、兄ちゃんは?

正輝

今日は一緒じゃないの?

春人くんは兄ちゃんと同じ部活の人で、大分2人は仲が良い

春人くんが来る時は、必ず兄ちゃんも一緒にいた

春人

え...、正輝くん

春人

知らないの?

春人

光輝のこと

正輝

え?

正輝

あ、そういえば、今日は部活の後輩と買い物に行くって言ってたかも

正輝

だからなの?

春人

正輝くん、光輝はね

春人

さっき...、奈緒ちゃんと一緒に死んじゃったんだよ

春人

スクランブル交差点で

正輝

...は

正輝

何言ってんの、春人くん

正輝

大丈夫?

春人

正輝くん、ニュース見てないの?

春人

ほら

そう言って、春人くんはスマホを僕に見せた

スマホには確かに奈緒と兄ちゃんの名前が書いてあり、同時に死んだとも書かれてあった

信じられなかった

正輝

...は、ぁ...嘘だ

正輝

嘘だ嘘だ

正輝

なんで、なんで兄ちゃんまで...

僕は膝から崩れ落ちると、涙が大量に流れてきた

どうして、僕の大切な人が同時に死ななきゃならはいんだ

どうなっているんだ、この世界は

正輝

...だからか

正輝

だから、お母さんは家を出たんだ

正輝

兄ちゃんのいる病院へ行くために

正輝

僕のことを心配して声はかけなかったんだ

正輝

お母さんも十分辛いはずなのに

もう無理だ

正輝

死にたい、死にたいよ...

正輝

く、ぅあ...

春人

...正輝くん

春人

死のう、僕たちで

春人

そして、彼らを助け出そう

春人

また全員で生きるために

春人くんの言葉は、僕の心に深く突き刺さった

そして、抜けることはなかった

春人くんと、明人という少年は、僕に全てを語ってくれた

『カゲロウデイズ』のこと

みんなを助け出す方法に

もう2人子供たちを集める必要があるということ

選ばれし5人の中に、僕が入っていたこと

...この世界は、最低だ

神様は味方してくれないし、奈緒にも会えない

だったら、こんな世界変えてやる

僕らの手で

正輝

もちろん、やるよ

ここから、長い長い夏の日は始まった

つづく

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