昌
よしの?

そう思っていると冷たい空気が流れた。見ると、窓から半分体を入れているよしのがいた。
昌
どこ行ってたの?

よしの
散歩ー

昌
やっぱり。
濡れてない、か!

よしの
濡れないね!それより最新情報があります!

昌
なに?

よしの
ゆかちゃんはこの近所に住んでいる!

昌
だから・・・?

よしの
もっといい情報があります!

昌
もういいよ・・・

よしの
ゆかちゃんは今、飛んできた傘で怪我をしました!

昌
人が怪我したのがいい情報?

よしの
助けに行きなさいよ

昌
は?

よしの
助けに行って、送って、家に乗り込む!

昌
だから顔も覚えてないから

よしの
むこうは覚えてるよ

昌
濡れるし夜勤前だしイヤだよ

よしの
大丈夫ですか!?
これだけ言えばオッケー

昌
人の話聞いてる?

よしの
すーぐそこだから!ベランダから見えるよ?

昌
え?

そう言われてベランダの窓を開けると、それらしき子が見えた。
足を怪我したのか、暴風雨の中でしゃがみこんでいる。
昌
もしかしてあの子?

よしの
そう!かわいそうに、他に人通りがないの。タクシーも来ないし

昌
・・・・

よしの
かわいそうに・・

昌
分かったよ!

よしの
カッパ着て行きなさいよー綺麗なタオルも持って

昌
はいはい

昌
大丈夫ですか?

ゆか
あ・・壊れた傘が飛んできて足首に刺さってしまって・・

昌
とりあえずこのタオルで押さえてください

ゆか
ありがとうございます・・あっ

ゆか
高山のバーで!あ、覚えてないですよね!

昌
あー・・すみません、酔ってた時ですよね

ゆか
そうです!!

昌
助けてくれたって真田さんから聞きました。ありがとうございました

ゆか
いえいえ!でも、覚えてないのに、よく私って分かりましたね

昌
さっきよし・・・いや、今の会話の感じでなんとなく

ゆか
そうですか!こんなところで会えるなんて偶然ですね!

昌
・・・とりあえず病院行きましょう

ゆか
大丈夫です、帰って消毒します

昌
じゃあタクシー呼びますよ

ゆか
タクシーだとかなり距離があるので

昌
え?遠いんですか?

ゆか
はい。山中線で12駅です

昌
・・遠いですね

よしの
うちすぐそこなんで、って連れ込みな!

昌
!!!

ゆか
夏なのに台風のせいでしょうか、急に寒いですね・・・

よしの
はやーく!

昌
あー、うちすぐそこなんで、どうぞ

ゆか
いいんですか・・?

昌
タクシーもなかなか来ないですし、家で呼んで待ちましょう

ゆか
ありがとうございます!

俺はしかたなく、歩きづらい彼女を支えるべく手を握って部屋に入れた。
よしの
やったね!

昌
・・・・

よしの
私がいると寒いから、散歩してくる!

昌
・・・・

よしのはそう言って彼女の横の窓をすり抜けて行った。
ゆか
あのー?

昌
はい?

ゆか
さっきどうしてタオル持ってたんですか?

昌
それはよしの・・いや、コンビニに行くのに濡れるから

ゆか
こんな天気の中コンビニに?

昌
なんか小腹がすいてしまって

ゆか
そうだったんですね、邪魔してしまってごめんなさい

昌
大丈夫です

ゆか
でも、通ったのが昌さんでよかったです!

昌
はあ

ゆか
変なこと言ってすみません!

昌
・・・コーヒーもう一杯入れてきますね

怪我したとはいえ、簡単に男の部屋に入るなんて、だらしない女だと思った。
ゆか
この写真、この人が亡くなられた奥

昌
勝手に触らないでください!

ゆか
・・・ごめんなさい・・・

昌
・・俺こそすみません

冷たい空気が流れた。どこに居るのかは分からないが、よしのは居る。
ゆか
あの、私、

ゆか
タクシー来たみたいです

昌
下まで送ります

ゆか
ありがとうございました

昌
いいえ

ゆか
あの・・高山のバーでまた会えますか?

昌
日曜以外ならたまに行きますよ

ゆか
そうですか・・・では、また。
今日はありがとうございました

昌
気をつけて

無事にタクシーを送り出すと、いつもよりも冷たい空気が流れた。
よしの
何あの態度

昌
なにが?

よしの
外ヅラいいくせに今日は冷たいんだね

昌
嘘ついたくせによく言うよ

よしの
それはごめん。でもきっかけを掴んでほしくて

昌
好きでもない女なんか家に入れたくない。大体、好きでもない男の部屋に入るなんてビッチだよ

よしの
好きでもない男の家に入るわけないじゃん?

昌
はぁ?

よしの
好きでもない飲んだくれを介抱するわけないじゃん?

昌
俺を好きだって言いたいの?

よしの
昌のことが男として気になってるから、バーで会えるか聞いたんだよ

昌
俺は!あの子が気にならない!
俺はよしの

よしの
言っちゃダメって約束!!!

昌
・・・・

よしの
私達も最初はそうだったよ?

昌
・・・・

よしの
私が一目惚れして、会えるか毎日聞いて、いつも待ってた。
酔った昌を誘ってエッチしちゃったね。
でも過去に女に騙されたから、昌は付き合うことをすごく怖かってた。
でもずっと待ってた私に、勇気を出して告白してくれた

昌
あれは、最初からよしのが気になってたんだよ

よしの
嘘をついてごめん。すぐに誰かと付き合えなんて言わない

昌
・・・じゃあ

よしの
フラれるか事故にあうか、死別するかなんて誰にもわからない。でも、出会う勇気も、出会うことの幸せもなくさないでほしいの

昌
じゃあなんでさっき部屋に来たの?

よしの
昌があの子に冷たいから何とかしようと

昌
嘘だ、嫉妬したんだろ?

よしの
違うよ!

昌
タクシーまで支えたことも、嫉妬したからあんなに冷気を出したんだろ!!

よしの
違う!冷気って何?私は何もしてない!

昌
出会いがどうのって、よしのは本当は俺を試して見張っていたいだけなんだよ

よしの
違う!私が死んだ時の言葉を思い出して!

昌
もういいよ、好きなだけ見張れよ!!

よしの
・・・・

今は、腕を掴むどころか、どこにいるかも分からない。