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江藤ルミエール
195
111
#ミステリー
鬼霧宗作
61
#ネタバレ注意
コメント
1件
うわあ、めっちゃ怖い空気だけど、めちゃくちゃ面白かった……! システムのルール説明が無機質なのも不気味さを引き立ててて良かった。特に、同じ教室にいても「番号」で生徒たちが分断されていくところがゾッとした。詩鶴ちゃんが「01」で震えるシーンと、凪津美が最後の番号で安堵しつつ“汚れた期待”を抱く対比が生々しくて、読んでて心臓がぎゅっとなった。菜々美が「26」という中途半端な番号に嫌悪を覚えるのも、すごくリアル。続き、めっちゃ気になる!
【SYSTEM】
【SYSTEM】
その声が落ちた瞬間、生徒たちは一斉に右腕を持ち上げた。
誰も命令に逆らわなかった。
逆らえなかった。
手首に固定された携帯端末には、2桁の数字が表示されていた。
10の位と1の位。
2つの数字が、目で追えない速さで入れ替わる。
00。
27。
13。
32。
無意味な数字の羅列が、彼女たちの運命を勝手にかき混ぜていく。
菜々美は息を止めた。
画面の中で数字が回る。
自分の鼓動まで、誰かに操作されている気がした。
10秒ほどして、数字のシャッフルが止まった。
生島菜々美
生島菜々美
隣で、穂乃花も画面を見つめていた。
新倉穂乃花
その数字が良いのか悪いのか、まだわからない。
わからないこと自体が、すでに不気味だった。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
ロボットが立つ位置とは反対側。
白い壁の中央が、音もなく横へ滑った。
そこから現れたのは、人の形をした白い光の塊だった。
4体。
顔はない。
目も、口も、表情もない。
けれど、たしかにこちらを見ているように思えた。
光の人影たちは、両手に何かを抱えていた。
生徒たちの前へ進み、1人ずつ同じものを手渡していく。
菜々美の手にも、それが置かれた。
冷たい。
金属のようで、金属ではない。
冠だった。
月桂冠。
ただし、祝福や栄誉を象徴するそれとは、あまりにも遠い。
見たことのない合金で作られた輪。
中央には、直径1センチほどの白い球体が埋め込まれていた。
本来は光るものかもしれない。
しかし今は、死んだ目のように白く濁っている。
【SYSTEM】
誰も動かなかった。
数秒の沈黙。
けれど、逆らえば何が起こるのかわからない。
その想像の方が、命令に従う恐怖より大きかった。
菜々美は震える手で、月桂冠を頭に乗せた。
ぎちり、と嫌な音がした。
生島菜々美
月桂冠が、頭を締めつけた。
まるで生き物のように。
内側から形を変え、頭蓋骨にぴたりと食い込む。
菜々美は反射的に両手で外そうとした。
しかし、びくともしない。
爪が金属の表面を滑るだけだった。
新倉穂乃花
穂乃花の声も、掠れていた。
少し離れた場所で、生徒ナンバー30・宝亀雷良が舌打ちをした。
頭に張りついた月桂冠を両手で乱暴に掴み、苛立ったように顔を歪めている。
宝亀雷良
その強がりは、恐怖を隠すには少し薄かった。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
ロボットの前には、3つのカップと1つのピンポン玉。
子どもの遊びのような道具だった。
だが、その遊びの景品は命ではない。
命そのものが、参加費だった。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
沈黙が落ちた。
ルールは、単純すぎるほど単純だった。
だからこそ残酷だった。
誰かが小さく息を呑んだ。
次に声を上げたのは、生徒ナンバー29・花屋敷凪津美だった。
肩にかかるショートカットに、細身の身体。
学外のジャズダンスサークルに所属し、エリア大会への出場経験もある、活発な印象の少女だった。
けれど今、その声にいつもの明るさはなかった。
花屋敷凪津美
その質問を笑う者はいなかった。
否定もできなかった。
【SYSTEM】
その一言には、感情がなかった。
褒めているようで、何も褒めていない。
ただ、処理すべき入力に答えているだけの声だった。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
菜々美は、自分の頭に触れた。
冷たい輪。
外れない輪。
【SYSTEM】
誰かが悲鳴を上げた。
誰かがしゃがみ込んだ。
誰かが口元を押さえた。
菜々美は声を出せなかった。
脳が破壊される。
その言葉が、頭の中で何度も反響していた。
死ぬ、ではない。
殺される、でもない。
脳を破壊される。
人間を、人間として認識するための場所を壊される。
そうなった時、自分はまだ自分なのだろうか。
それとも、ただ名前のついた肉に戻るだけなのだろうか。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
その瞬間、空気が変わった。
39人の恐怖が、1つの塊ではなくなった。
番号の早い者。
番号の遅い者。
死に近い者。
死から遠い者。
同じ教室にいたはずの同級生たちが、見えない線で切り分けられていく。
菜々美は自分の数字をもう一度見た。
26。
前でもない。
後ろでもない。
安全とは言えない。
けれど、最初でもない。
そう思った自分に、嫌悪が走った。
蚊の鳴くような声がした。
生徒ナンバー22・手塚詩鶴だった。
三つ編みに、細いベージュ縁の眼鏡。
品行方正という言葉を人の形にしたような、地味で真面目な少女。
世斐羅女子学院3年生の間では、“眼鏡っ娘4人組”の1人として知られていた。
詩鶴の両目には、薄らと涙が浮かんでいた。
手塚詩鶴
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
01。
最初という意味だろう。
第1の試練。
最初の挑戦者。
最も情報が少なく、最も心の準備ができず、最も失敗しやすい位置。
詩鶴は両手で携帯端末を包み込み、自分の番号を隠そうとした。
けれど、隠しても数字は変わらない。
手塚詩鶴
声は震え、途中で途切れた。
その言葉は誰かではなく、自分の人生に向けた抗議のようだった。
真面目に生きてきた。
校則を守ってきた。
目立たないようにしてきた。
誰かを傷つけないようにしてきた。
それなのに――
ここでは、何の意味も持たない。
“01”という数字だけが、彼女の価値を決めていた。
新倉穂乃花
穂乃花が一歩踏み出した。
声を明るくしようとしていた。
けれど、その明るさの下で必死に震えを押し殺しているのが、菜々美にはわかった。
新倉穂乃花
新倉穂乃花
新倉穂乃花
最後の一言だけが、少し弱かった。
大丈夫。
その言葉は、この場ではあまりにも軽い。
穂乃花自身も、気づいているようだった。
詩鶴は穂乃花を見た。
感謝したい。
縋りたい。
でも、どちらもできない。
手塚詩鶴
穂乃花は答えられなかった。
菜々美も、答えられなかった。
【SYSTEM】は沈黙している。
その沈黙こそが、答えだった。
一方で――
同じ空間で、まったく違う感情を抱く者もいた。
生徒ナンバー29・花屋敷凪津美。
彼女は携帯端末を見つめながら、唇の端が上がりそうになるのを必死に抑えていた。
画面の数字は――
39。
39人中、最後。
花屋敷凪津美
彼女は声を出さなかった。
泣きそうな顔を作り、視線だけを下げる。
けれど胸の内では、熱い安堵が広がっていた。
花屋敷凪津美
花屋敷凪津美
その思考に、凪津美は自分でも少し引いた。
目の前では、詩鶴が震えている。
周囲の生徒たちは泣いている。
誰かが死ぬかもしれない。
いや、死ぬ。
3人は必ず。
それでも、自分ではないと思った瞬間、人の心はこんなにも軽くなる。
花屋敷凪津美
凪津美は、誰にも見られないように小さく息を吐いた。
その吐息には、安堵が混じっていた。
そして、ほんの少しだけ――
誰かが自分の代わりに死ぬことへの、汚れた期待も混じっていた。