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あいつは……

一体、何者なんだ

いきなり出てきたかと思えば いきなり跡形もなく消えた

この新城邸がカラクリ屋敷のような造りにでもなっているのかと疑って、クローゼットの中を隈なく調べた

しかし そこに細工らしきものは一つもない

結論から言えば 文字通り、あの男は消失した

幾分と混乱した

頭の中がぐるぐると回り 考えをまとめることは出来なかった

このことを 新城さんや執事の新居という男に伝えようか迷ったが、到底信じてもらえる話ではないだろう

……そう

疲れているのかもしれない

いずれにしろ 今は休むのが賢明だと思った

暫くは ベッドの上で逡巡していたが

いつの間にか、眠ってしまっていた

……

声がする

声がする……が

何だこれは

声と声が拮抗している

ある声は 「殺せ」と言っている

一方で、もう一つの声は 「殺すな」と言う

どちらに従えばいい?

酷く迷う

迷う……が

もう既に、1つの声に従っていた

なら、もう決めなくていい

指示に従おう

何だか

すごく楽だ

まるで 自分のなかから何かが抜け落ちているような

夢遊感

もう少し

もう少し、眠っていようか

声は聞こえなくなった

加賀春樹

……。

加賀春樹

うん……?

加賀春樹

朝か……。

あまり眠っていないような気がする

目覚めが悪いのだ

重い体を起こして 部屋のカーテンを開けてみる

加賀春樹

うおっ。

加賀春樹

すごい雨だな。昨日の夜から降ってたのか?

外は豪雨だった

森の樹々は大きく揺れ 雨粒が窓に強く叩きつけている

麓に降りることは厳しいだろう

加賀春樹

まあいいか。

加賀春樹

ここで、暫くは毎日を送ることになるんだし。

そう独り言を呟くと 余計に憂鬱な気持ちになる

それは雨のせいでもあるだろう

あまり気乗りしなかったが 身支度をして廊下に出た

廊下に出たと同時に 腕時計を見る

時刻は午前8時を指していた

視線を上げると新居の部屋がある

彼は執事だから朝食の準備や掃除などの雑務を抱えていることだろう

とっくに起きて 仕事をしている筈だ

 他の人たちはどうだろうか

そう言えば 金田夫妻はどの部屋なのだろうか

同じ客人なのだから このフロア内には居るはずだが

そんなことを考えていたとき

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

上階から悲鳴が聞こえた

加賀春樹

な、何だ!?

加賀春樹

いま、確かに悲鳴が……!

「だ、誰か、誰か来てっ!!」

加賀春樹

何があったんだ!!

加賀春樹

とにかく、急ごう!!

僕は走り出した

これが、崩壊の始まりとも知らずに

新城賢太郎

……。

新城賢太郎

これは、殺人だな。

金田直斗

で、でこに刺さってるからな。

金田涼子

死んでる……わよね。

金田直斗

確実に死んでるだろう……な。

新城貴恵

うっ。うぅ。

新城貴恵

どうして……こんなことに?

新居宗介

……くそっ。

新居宗介

何が起こっているんだ……。

新城秋穂

わ、私あの子達を見てくるわ。

新城秋穂

こ、ここに、いたくない…。

新城賢太郎

ああ。分かった。無理はしないほうがいい。母さんももう見るな。自分の部屋で休んでいたほうがいいよ。

新城貴恵

え、えぇ。わかった……わ。

そう言った瞬間

新城貴恵はよろめいて倒れた

新城賢太郎

母さん!!

新城秋穂

きゃっ!!

新居宗介

貴恵様!!

金田直斗

ちょっ、大丈夫かよ!?

金田涼子

貴恵さん!!

新居宗介

賢太郎さん。貴恵様は私がお連れします。今この場は、貴方にお任せします。

新城賢太郎

分かったよ。それじゃあ、頼む。

 「それでは」と言い残し 新居は貴恵を連れて消えていった

「わ、私も子供達を見てくるわ」

新城秋穂も逃げるように この場を立ち去っていった

騒々しさはものの一瞬で消えてしまう

こうして少し落ち着いたところで 僕は部屋を観察した

それによると どうやら昨日の話は本当らしい

豪奢な装飾やインテリアが目立つ

この屋敷の主の部屋にあたるだろう

本棚には厳格な雰囲気を保とうと 専門書や資料が収められている

しかし そのどれもが埃を被ってしまっている

この椅子に座っている男の性格をよく表しているのだろう

そう

そこには "椅子に座ったまま" 額をナイフで貫かれた新城聡太郎が居た

驚愕の表情で 口を半開きにしたまま死んでいた

これは明らかに 人が人を殺した痕跡である

誰もが予想だにしていなかった

まさか、人が殺されるなんて……

「加賀くん」

しかし 常にこの男は冷静だった

自分の父親が殺されているというのに

僕はゆっくりと、声の発信者を見た

新城賢太郎

加賀くん。どう思う?

加賀春樹

新城さん……。

加賀春樹

……いや、これは確実に殺人ですよ。

新城賢太郎

そうじゃないよ。

新城賢太郎

この状況で、どうやって外と連絡を取ればいいだろうということを聞いてるんだ。

加賀春樹

この状況……?

そうだ

外は豪雨で 人家の見える麓まで下りるには、車でも数時間はかかる距離である

それに 道中で土砂崩れが起こっていても不思議ではない

外に出るのはあまりに危険だ

「そもそも、電話はどうしたんです」

「直接行かなくても、電話から連絡をすることだってできますよ」

貴恵の悲鳴が屋敷中に響き渡り その口から聡太郎の死を告げられたとき

僕は前述したことを言った

しかし

 「電話線が全て切られているんだ」

新城賢太郎から返ってきた言葉に 僕は絶望したのを覚えている

つまり

新城邸は陸の孤島と化したのだ

 僕は 新城賢太郎の質問に応えあぐねた

なす術がない

新城賢太郎

……。

新城賢太郎

あのナイフはね、僕のものだ。

金田涼子

……は?

加賀春樹

え、そ、そうなんですか。

新城賢太郎

僕はキャンプが趣味でね、ナイフもその道具の中の一つだよ。

新城賢太郎

あのナイフの柄に、イニシャルで「K.S」と刻印されているのが見えるかい?

加賀春樹

ちょっと待ってくださいね。

慌ててそのナイフを見る

確かに「K.S」と柄に書かれている これは、新城賢太郎のもので間違いないのだろう

しかし だとすれば、このナイフの入手経路はこの男の部屋に入るほかはないのではないか

そうなると 犯人は新城賢太郎か新城秋穂……

「それは違うよ」

鋭い声がする

新城賢太郎

加賀くん、随分と早計な推理をしているんじゃないかな。

加賀春樹

な、何でわかるんです。

新城賢太郎

君は表情に出やすいからね。特に分かりやすいんだよ。

加賀春樹

すみません……。

金田直斗

で、でもよ。

金田直斗

賢太郎、それは一体どういうことなんだよ? 実際、このナイフはお前の部屋にあるんだろう。

金田直斗

だったら、犯人も限られてしまうんじゃないか。

新城賢太郎

説明しようか。確かに、君の考えた通りこのナイフは僕の部屋にある。しかしね、手に入れようと思えば誰でも手に入れられるものだよ。

金田直斗

それはどういうことだ?

新城賢太郎

僕と秋穂の部屋は基本的に鍵をかけていない。その理由として、娘たちは子供部屋に居るが、何かあればすぐに駆けつけられるようにということだ。

新城賢太郎

あの子たちはまだ幼い。二人とも親に執着しない性格ではあるが、放っておくのは幾分と不安になる。

新城賢太郎

それに僕も仕事がある。頻繁に部屋と書斎を往復するし、事務的なこともさっさと片付けたいから、新居との連絡を円滑にしたい。

新城賢太郎

以上の理由から、僕と秋穂の部屋は鍵をかけておらず、実質上は誰でも入ることができ、当然そこに置いてあったキャンプ用のナイフも盗むことはできたろうと考えられる。

加賀春樹

……分かりました。

加賀春樹

分かりましたけど、それは防犯上良くないんじゃないですか。実際に、こんなことが起こってしまってますし……。

新城賢太郎

"ここ"だからできたんだよ。

加賀春樹

ああ……。

この屋敷は山の奥にある

屋敷内に居るのも 全員が見知った顔の者たち

ならば 特別に警戒する必要はないのか

得心がいったところで また、新たな疑問が湧いた

加賀春樹

新城さん。では、聡太郎さんの部屋はどうなんですか?

加賀春樹

鍵は、掛かっていたんですか?

新城賢太郎

日中や夜も基本的に開けている。しかし、寝る時だけは閉めていたはずだ。

加賀春樹

これ、素人目ですが死後硬直していますし数時間は経過しています。

加賀春樹

数時間といえば、今は8時30分あたりですよね。殺された時刻を考えると、大体午前2、3時頃になります。これは密室ということなりませんか。

新城賢太郎

しかし、それに関してはあまり関係がないかもしれないね。

加賀春樹

え?

金田直斗

つまり、どういうことだ?

新城賢太郎

父は寝る時間がまちまちで、早くに寝る時もあれば、深夜まで起きていることもあるんだ。

新城賢太郎

犯人が父を殺そうとした時、父の部屋は開いていた可能性がある。というよりかは、そのほうが確かだろうね。

加賀春樹

そう、ですか。

新城賢太郎

それより、気にかかることがある。

金田涼子

気にかかること……?

新城賢太郎

父の部屋は鍵が開いているが入ることは難しいんだよ。

加賀春樹

言っている意味が、良くわからないんですがどういうことです?

新城賢太郎

父は無断で部屋に入ることを嫌った。それに何か用を述べるにしろ、父は必要以上に距離を空けて話すように言っていたんだよ。

加賀春樹

……なぜ?

新城賢太郎

警戒していたんだ。

金田涼子

賢太郎さん、部屋に入るのは家族や執事の方くらいでしょう?

金田涼子

部外者の私から見ても、それは変な状況だと思うのだけれど。

新城賢太郎

"財宝"がその理由だよ。

金田涼子

……なるほどね。

金田直斗

財宝って、聡太郎さんが1000億円以上の価値を持つって言っていた、あの事なのか?

加賀春樹

でも、それは金庫か何かで保管しているはずでしょう? それに、身内しかいないこの場でそんな強硬手段を取れば、すぐに事態が知れ渡ります。

加賀春樹

そこまでする必要がないです。

新城賢太郎

だから必要以上に、なんだよ。

新城賢太郎

父はあの財宝を手に入れた途端に人が変わってしまった。病的なほどに他者を疑うようになった。

新城賢太郎

そんな父の部屋に侵入し、なおかつ額にナイフを刺すなんて、僕からしてみれば無理な話なんだ。

加賀春樹

……逃げる聡太郎さんを力尽くで殺してから、あの椅子まで運んだ……なんてことはないですか?

金田涼子

……怖いこと言うわね。

新城賢太郎

加賀くん、そんなことををする必要は何だろうね?

加賀春樹

うーん。

新城賢太郎

それに、あのナイフを見てごらん。柄が中途半端に刺さっているせいなのか、父の服が血で真っ赤に染まるほど出血が酷い状態だ。

新城賢太郎

そんな状態で運ぼうと思えば床は血みどろになってしまい、犯人の衣服にも付着する可能性がある。面倒や労力を被りながらわざわざそんなことをする必要なんてないんじゃないかな。

加賀春樹

……いや、もう反論もないです。

新城賢太郎

座ったまま、父は殺された。

新城賢太郎

鍵の問題や表情から察するに、眠っていたわけでもない。

新城賢太郎

……家族にすら難しい犯行。

新城賢太郎

誰がどうやって殺した?

推理は加速する

僕は新城賢太郎に圧倒されている

ここまで論理的に考えられるか?

自身の

父親が殺された直後なのに……

少し怖くなった

新居宗介

賢太郎さん。

そこへ 新居が秋穂に肩を貸してやって来た

秋穂の顔を見ると かなり憔悴しているようだった

新居宗介

あの、貴恵さんは部屋までお連れしたのですが、事も知らずに、綾香ちゃんや綾乃ちゃんはいつものように書斎で読書をしていました。あの二人は大丈夫そうなのですが……。

「秋穂さんが」 と言って、心配そうにその顔を見た

新城秋穂

ごめんなさい。あの子たちの顔を見ると私とても現実のこととは思えなくて……。

新城秋穂

つらくて、どうしたらいいのか分からなくなって……。

新城賢太郎

秋穂、食堂に行こう。そこで、水でも飲んで落ち着こう、な。

新城秋穂

えぇ……。

新城賢太郎

話しもしよう。この後のことについて……ね。

「それじゃあ行くよ」と言って 賢太郎は秋穂を伴って食堂へ向かった

金田直斗

……不味い事態になったな。

金田涼子

ええ。

金田涼子

私達も、行きましょう。

金田直斗

……そう、だな。

「加賀さん、失礼します」

金田夫妻はそう言って、どこかへ行ってしまう

僕は残された者を見る

新居宗介

大変なことになりましたね……。

新居は聡太郎の遺体にシーツをかけ それから黙り込んでしまった

これから、何をしようか

いや、決まったのかもしれない

なぜなら

僕は……

僕は、見逃さなかった

最後、新城賢太郎が部屋を出るとき

ほんの一瞬

笑みをこぼしていたことを

マーダーゲームZERO

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