伍代
(さてさて、ここからどうやって絞り込みをかけてくるかな?)
伍代
(どうせなら、こっちから仕掛けてトドメを刺してやりたいところだが……)
伍代
(ちょっと揺さぶりをかけてみるか)
命をかけた心理戦なんて、生きているうちでそうそう遭遇できるものではない。
呪われた絵本だかなんだか知らないが、楽しめる内に楽しんでおかないと。
伍代
なぁ、まさか本当に人魚姫が当たりだったりしないよなぁ?
七星
さぁ……どうだろな。
伍代
そうかよ。
伍代
じゃあ、質問をどうぞ。
伍代
(あからさまに動くと怪しまれそうだ。もう少し様子を見るか)
七星
では……その登場人物は女性である。イエスかノーか。
伍代
(なるほど、ここで曖昧な質問をすることで、こちらの反応を見るつもりか)
伍代
(水平思考ゲームというものは、基本的にイエスかノーかで答えられる質問をしなければならない。ただ、今回はその質問と回答が無効になるだけで、質問自体は表向きで通ったように見える)
伍代
(ここで俺が少しでも考え込むような仕草を見せれば、それは回答に困るような登場人物をセットしている証拠になるわけだ)
伍代
(例えば村人や子どもなど、複数人いる可能性もあって、その性別がはっきりと明示されていない人物を対象として選んでいるのであれば、俺はどう答えるべきか悩むと踏んだか)
伍代
(なんせ、質問と回答自体は無効になるんだから、自分にとって有利になるように回答するのがセオリーとなる)
伍代
(そこまで見越しての質問なんだろうけど、残念。俺はそんな目の前にぶら下げられた餌に飛びつくような馬鹿じゃない)
伍代
イエスだ。
伍代はほぼ即答。迷ったり悩んだりする素振りは一切見せなかった。
伍代
(ここで即答したってことから、曖昧な登場人物はセットされていないと考えるだろう。まぁ、実際に俺がセットしているのは……子どもなんだけどな)
七星
随分と即答だったな。
伍代
あぁ、あんたに負ける気がしねぇからよ。
伍代
ってか、あんたで大丈夫なのか?
伍代
そこの一宮ってやつのほうが良かったんじゃないの?
伍代
あんたより強いんだろ?
七星
た、たまたま一度敗れただけで、実力はおそらく五分五分だ。
四ツ谷
あんまり姐さんを舐めないほうがいいよ。
四ツ谷
ちょっと高飛車なところはあるけど、頭の回転は速いからな。
一宮
お前には分からないだろうな。
一宮
背中を預けられる仲間がいる時の心強さを。
伍代
あっはっはっは!
伍代
仲良しごっこが捗(はかど)るねぇ!
伍代
お前ら分かってんのか?
伍代
この絵本は呪われた絵本で、お前らだって殺し合おうと思えばいくらでも殺し合えるんだぜ?
伍代
仲間、仲間、仲間、仲間――反吐が出る。
伍代
そのお仲間に寝首かかれないようにしろよ。
七星
そんなこと言われなくとも知っている。
四ツ谷
でも、あんたにゃ分からないだろうな。
七星
世の中には、そう言った自己的な都合を排除してでも、他人と接しようとする大馬鹿者がいるってことをな。
四ツ谷
まぁ、こいつが大馬鹿者だったからこそ、俺達は負けたわけだけどな。
一宮
大馬鹿者ってのが余計なんだよな……。
伍代
そうですか、仲が良くて結構なことで。
伍代
それじゃあ、こっちから質問させてもらうぜ。
伍代
(悪いが、もう少し絞り込ませてもらう。これでもう――決まればいいが)
伍代
その登場人物は長女から四女のいずれかである。イエスかノーか。
伍代
(どうして俺がこんな問いかけをしたのか)
伍代
(それは、あんたの狡猾な仕掛けを回避した上で、セットした人物を特定するためだ)
伍代
(つまり、あんたの策はもう見破られてるってわけだ)
七星
答えは……ノーだ。
伍代
(きたっ!)
伍代
(これで確定したじゃねぁか!)
伍代は小さくため息をつくと、七星のほうを見据える。
伍代
残念だったなぁ。俺にはもう分かったぜ……。
伍代
あんたがどの登場人物をセットしたのかなぁ!
七星の思惑を読み取ったかのごとく、すでに勝利を確信した伍代。
伍代
答えさせてもらうぜ。あんたのセットした登場人物は……。