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”夢幻(むげん)の魔女”

そう呼ばれる人物がいた。

絶望の淵にいる人の前に

突然ふらりと現れ、

対価を支払えば

あらゆる願いを叶えてくれる。

根も葉もない噂話だという者も多いが、

実際会ったという者も

少なからず存在する。

そして、

会ったことがある者は

口を揃えてこう言う。

『魔女の微笑みを信じるな』

と……。

クラウスが住んでいた辺境の村トールタウは小さな村で、

ここに住んでいる人はみんな顔見知りでした。

何も無いつまらない村だと言って、

大人になると出て行く人も多くいましたが、

みんなで仲良く細々と生活をしていました。

そう、

彼の父親が、

ソレを勝手に持ち出すまでは……。

ソレは、

古い本、

のように見えました。

薄汚れた細い布で

グルグル巻きにされていましたが、

長い間放置されていたせいでしょうか

触れただけでその布は

ボロボロと朽ち果てて

解け落ちて、

真っ黒な表紙が露わになったのです。

村人

誰だ!?

村人

誰が本を持ち出した!?

村人

ツェルネんとこの旦那だ!

村人

なんであの本を持ち出したんだ?

村人

知るか!探せ!

村人

探して本を回収しろ!!

村人

あれは…

村人

あれには…

村人

居たぞ!

村人

ヨアン・ツェルネだ!!

村人

捕まえろ!!

村人

急げ!!

村人

どこに行った!?

村人

あっちだ!

村人

嘘吐け!オレはあっちから来たがいなかったぞ

村人

この嘘吐きが!!

村人

ぎゃぁ!!

村人

な、何しやがる!

村人

うるせぇ!この嘘吐きが!

村人

てめぇも魔女の手先なんだろ!?

村人

ふざけんな!そういうお前こそ!!

村人

ぐあっ!!

村人

やめ、やめてよ!!

村人

喧嘩しなぎゃっ!!!

村人

きゃぁぁぁぁぁああ!!

村人

どうして!?

村人

どうしてウチの子を!?

村人

邪魔なんだよ

村人

ガキの面倒一つ見れない女が!

村人

はぁ!?

村人

このクソジジイ!!よくもそんなこと!!!

きっかけは些細なこと。

まるでほころびがほどけるように、

人は人を安易に殺めてしまいます。

子供の頭の鉈でかち割り、

女性の腹を包丁で切り裂き、

男の足を斧で断ち切り、

口煩い老婆の首を絞めて、

ボケた老爺を井戸に沈めて、

這いずって逃げる者には火を付けて、

犯人が逃げ込んだ建物にも火を付けて、

気がつけば、

村のあちらこちらに死体が転がり、

火の手が上がっていました。

しかし、

彼らはそんなこと気にする素振りも見せず、

暴言や奇声を発しながら、

視界に入った人に凶器を振り下ろし続けました。

ああ、

なんと、

滑稽で

愉快な光景でしょう。

もう、

誰も

最初の目的など

覚えているはずもなく、

狂った人々は

殺戮の限りを尽くすだけ。

そして、

殺すべき相手がいなくなれば、

己の首を切り落とすだけ、

楽しそうに

笑いながら。

泣きながら。

クラウス・ツェルネ

ゲホッ!ゲホッ!

クラウス・ツェルネ

父さん!母さん!

クラウス・ツェルネ

テレーゼ!!

クラウス・ツェルネ

ゲホッ…

クラウス・ツェルネ

…はぁ…はぁ…

クラウス・ツェルネ

と、父さん!?

ゆっくりと炎が押し寄せる家の中、

父親が倒れているのを見つけました。

ヨアン・ツェルネ(父)

……クラウス、か?

クラウス・ツェルネ

父さん!?大丈夫!?

クラウス・ツェルネ

すぐ助けるから

ヨアン・ツェルネ(父)

いや

ヨアン・ツェルネ(父)

父さんは

ヨアン・ツェルネ(父)

もう

ヨアン・ツェルネ(父)

ダメだ

父親はすでに両足を失っていました。

クラウス・ツェルネ

そ、そんなこと

ヨアン・ツェルネ(父)

いいか

ヨアン・ツェルネ(父)

クラウス……

ヨアン・ツェルネ(父)

母さんとテレーゼを

ヨアン・ツェルネ(父)

探すんだ

クラウス・ツェルネ

……

ヨアン・ツェルネ(父)

二人は

ヨアン・ツェルネ(父)

ヘイミ叔母さんの家に…

ヨアン・ツェルネ(父)

うぐっ

クラウス・ツェルネ

父さん!!

クラウス・ツェルネ

しっかり!!

ヨアン・ツェルネ(父)

クラウス

ヨアン・ツェルネ(父)

二人を見つけて

ヨアン・ツェルネ(父)

そして

───バキバキッ!

ヨアン・ツェルネ(父)

危ない!!

クラウス・ツェルネ

うわっ!

押し飛ばされた瞬間、

屋根が崩れ落ちてきました。

クラウス・ツェルネ

父さん!!!

目の前には燃え盛る瓦礫しか

見えません。

クラウス・ツェルネ

父さん……

クラウス・ツェルネ

父さん!!

クラウス・ツェルネ

うぅ……

クラウス・ツェルネ

………

クラウス・ツェルネ

泣いてる場合じゃない

クラウス・ツェルネ

母さんと

クラウス・ツェルネ

テレーゼを見つけなきゃ

燃え盛る家から何とか抜け出し、

クラウスが目にしたのは、

変わり果てた村の姿でした。

クラウス・ツェルネ

う、ぐっ…

クラウス・ツェルネ

ひ、酷い……

クラウス・ツェルネ

でも、今は……

目と鼻の先にある

ヘイミ叔母さんの家に向かわなければいけません。

クラウス・ツェルネ

(あ、あれは……)

クラウス・ツェルネ

(リステアおばさん…)

クラウス・ツェルネ

(こっちはレイリーナ…)

道端の転がる死体は、

誰も彼も見たことのある顔ばかり。

でも、

母親と妹の姿はありません。

クラウス・ツェルネ

(い、急がなきゃ)

クラウス・ツェルネ

(みんな、みんなどうして……)

クラウス・ツェルネ

(どうしてこんなことを…)

村人

いひゃぞ!!

村人

いひた人間だひゃぁ!!

クラウス・ツェルネ

う、うわっ!!

村人

うひゃひゃひゃひゃ!!!

手をばたつかせながら

這い寄ってくるその男の頭には、

斧が突き刺さっていました。

クラウス・ツェルネ

うわあぁぁぁあああ!!

走って

飛び込んだのは

ヘイミ叔母さんの家。

でも、

クラウス・ツェルネ

!!!

廊下の壁も床も

血で真っ赤に染まり、

そこには

何かの肉塊が

転がっていました。

クラウス・ツェルネ

あ、あ、あ、ああああああ!!!

逃げ出そうと

振り返ると

村人

うひゃひゃひゃひゃ!!

クラウス・ツェルネ

ぎゃぁぁ!!!

バタンッ!

扉を閉じて、

目の前の廊下を駆け抜けます。

柔らかい肉塊を踏んで、

背筋がゾワリとしました。

そして、

その奥の部屋で、

ヘイミ叔母さんと

母親のルイーゼを見つけましたが、

その異常な光景を

クラウスは理解できませんでした。

二人の体が

天井からぶら下がっていたのです。

パックリと切り裂かれた首からは

もう血は零れ落ちてきません。

虚ろな瞳は

ここではないどこかを見つめていました。

クラウス・ツェルネ

…お…お母…さん?

もう、

叫ぶ気力もありませんでした。

テレーゼ・ツェルネ(妹)

……兄…ちゃん?

クラウス・ツェルネ

!?

クラウス・ツェルネ

テレーゼ!?

クラウス・ツェルネ

テレーゼなのか!?

テレーゼ・ツェルネ(妹)

兄ちゃん!!

物陰に隠れていた妹が飛び出してきて

クラウスに抱き着きます。

感動の瞬間です。

この地獄のような状況で、

妹は奇跡的に無傷でした。

今のところは。

クラウス・ツェルネ

よかった

クラウス・ツェルネ

無事だったんだな

テレーゼ・ツェルネ(妹)

うん

テレーゼ・ツェルネ(妹)

お、お母さんは…

クラウス・ツェルネ

……

テレーゼ・ツェルネ(妹)

お父さんは?

クラウス・ツェルネ

……

テレーゼ・ツェルネ(妹)

……うぅっ

クラウス・ツェルネ

でも、兄ちゃんはいる

クラウス・ツェルネ

急いでここを出よう

テレーゼ・ツェルネ(妹)

出て…

テレーゼ・ツェルネ(妹)

どこに行くの?

クラウス・ツェルネ

……

その質問に

クラウスは答えられませんでした。

クラウス・ツェルネ

でも、ここに居たら

バンッ!!

ヘルゲ

見つけたぞぉぉぉ!!

ヘルゲ

ツェルネ家の奴ぅぅぅぅ!!!

扉をぶち破って現れたのは、

ヘルゲという

ヘイミ叔母さんの息子でした。

クラウス・ツェルネ

ヘ、ヘルゲ…さん

ヘルゲ

お、お前ぇの

ヘルゲ

親父さんのせぇでぇ

ヘルゲ

こ、この村ぁは

ヘルゲ

お、おかしくなったんだよぉぉおお!!!

テレーゼ・ツェルネ(妹)

きゃぁぁ!!

ヘルゲ

うぎょはぁぁぁぁ!!!

奇声を上げて

包丁を振り回すヘルゲ。

逃げ惑う幼い兄妹。

ヘルゲ

死ねぇぇぇぇえええ!!

テレーゼ・ツェルネ(妹)

きゃっ!

クラウス・ツェルネ

テレーゼ!!

不運にも転んでしまったテレーゼ。

ヘルゲの凶器が容赦なく襲い掛かります。

ザクッ!

テレーゼ・ツェルネ(妹)

痛い!!!

ヘルゲ

げひゃひゃひゃひゃ!!!

ヘルゲ

死ねぇぇぇ!!!

テレーゼに馬乗りになるヘルゲ。

クラウス・ツェルネ

やめ!やめろ!!!

クラウスは近くにあった物を掴み、

思い切り振り抜きました。

ヘルゲ

あへ?

それは実に呆気なく、

ヘルゲの腹部を切り裂きました。

ヘルゲ

い、いひゃいぃぃぃぃいい!!

溢れ出す血。

泣き叫ぶヘルゲ。

その間に妹を助け出そうとして、

その足が掴まれてしまいました。

テレーゼ・ツェルネ(妹)

あぐっ

ヘルゲ

に、逃がさないぞぉぉぉ

ヘルゲ

ツェルネ家はぁぁぁ

ヘルゲ

やっぱ、やっぱりぃぃ穢れた血の

魔女

あら、賑やかね

ヘルゲ

へ?

突然現れた艶やかな女性が

ヘルゲの頭に触れた瞬間、

パンッ

と風船のように綺麗に爆ぜてしまいました。

クラウス・ツェルネ

あ、あ、あんたは……

魔女

ねぇ…

魔女

妹さん、大丈夫?

クラウス・ツェルネ

え?

魔女

苦しそうね

細く長い指で妹を指差し、

女性はニヤリと笑みを浮かべました。

クラウス・ツェルネ

あ、テレーゼ!!

クラウス・ツェルネ

テレーゼ!!

クラウス・ツェルネ

しっかり!!

テレーゼ・ツェルネ(妹)

兄…ちゃん

テレーゼ・ツェルネ(妹)

寒い…よ…

クラウス・ツェルネ

テレーゼ!!

クラウス・ツェルネ

誰か…助け…

女性と

目が合いました。

魔女

助けてほしい?

しゃがみ込み、

頬杖をつく女性。

クラウス・ツェルネ

助けられる…の?

魔女

ええ

魔女

私はとても優秀な魔女だもの

クラウス・ツェルネ

魔女……

魔女

でも、

魔女

一つ

魔女

私のお願いを聞いてくれるかしら?

クラウス・ツェルネ

……僕に

クラウス・ツェルネ

できること、ですか?

魔女

もちろん!

魔女は表情を明るくして頷きました。

クラウス・ツェルネ

じゃあ…

クラウス・ツェルネ

じゃあ!

クラウス・ツェルネ

妹を助けてください!

魔女

お安い御用よ

魔女が立ち上がり、

指をパチンッと鳴らすと、

妹は半透明の球体に包まれ

ふわりと浮き上がりました。

魔女

治るまで時間がかかるから

魔女

その間に願いを叶えて貰おうかしら?

クラウス・ツェルネ

……

魔女

あら、そんなに緊張しなくても大丈夫

魔女

貴方のお父さんが見つけた

魔女

あの本を持って来て欲しいの

クラウス・ツェルネ

……あの、本?

魔女

そう

魔女

真っ黒な表紙の

クラウス・ツェルネ

でも、あの本は

クラウス・ツェルネ

家にあって…

魔女

燃えてはいないわ

クラウス・ツェルネ

え?

魔女

誰かが持ち出しちゃったの

魔女

それを見つけてくれるかしら?

クラウス・ツェルネ

……

魔女

まぁさすがに

魔女

手ぶらで行かせるのもねぇ

魔女

あっ、動物は何が好き?

クラウス・ツェルネ

動物?

魔女

犬とか猫とか

魔女

狼とか鳥とか

魔女

色々いるじゃない?

魔女

クラウスは何が好き?

クラウス・ツェルネ

えっと……

クラウス・ツェルネ

犬、かな

魔女

わかったわ

また魔女がパチンッと

指を鳴らすと

魔女の影から一匹の真っ黒な犬が姿を現しました。

魔女

この子と一緒に行くといいわ

魔女

本の匂いを辿って

魔女

貴方を導いてくれるはずだから

クラウス・ツェルネ

え…

困惑するクラウスに犬は近付き、

その顔をペロペロと愛嬌よく舐めます。

クラウス・ツェルネ

あ、うわっ

クラウス・ツェルネ

やめろよぉ

言いながらもクラウスは

どこか嬉しそうな顔をしました。

魔女

じゃ、明日の日の出までにお願いね

魔女

日の出までに本を持って来てくれなかったら

魔女

貴方の妹はこのまま死んで貰うわ

クラウス・ツェルネ

え……

魔女

約束が果たされなければ当然でしょ?

魔女

ほら

魔女

大切な妹が死んでしまう前に

魔女

早く本を見つけてきて頂戴

クラウス・ツェルネ

う、うん…

クラウスは小さく頷いて、

部屋を出て行きました。

クラウス・ツェルネ

酷い……

村の外は相変わらず

凄惨な景色が広がっています。

クラウス・ツェルネ

(臭いが……)

辺りに漂うのは

人の焼ける臭い。

クラウス・ツェルネ

おえっ……

胃の中身を吐き出しても、

ちっとも楽になりませんでした。

黒い犬がやってきて、

袖を引っ張ります。

クラウス・ツェルネ

うぅ…

クラウス・ツェルネ

わかったよ

クラウス・ツェルネ

…行くって

見上げれば、

夜がゆっくりと空を覆い始めていました。

クラウス・ツェルネ

……そうだ

クラウス・ツェルネ

行かなきゃ…

遠くから人の笑い声が聞こえます。

悲鳴も聞こえたような気がしました。

クラウス・ツェルネ

(どうして……)

クラウス・ツェルネ

(みんなこんなことに……)

出来るだけ道端に転がっている死体を見ないように、

クラウスは歩みを進めます。

黒い犬に導かれ、

辿り着いたのは

墓地でした。

クラウス・ツェルネ

ここに本が?

”わんっ”

犬が小さく吠えます。

クラウス・ツェルネ

……ここ

犬の側まで行くと、

そこには

地下へと続く階段がありました。

クラウス・ツェルネ

地下なんてあったんだ…

その階段を犬が足取り軽やかに降りていくので、

クラウスもその後に続きます。

クラウス・ツェルネ

この下に本があるの…かな…

村長

うわっ!

村長

なんだこの犬は!?

村長

だ、誰か!!

下から人の声が聞こえてきました。

クラウス・ツェルネ

!!

クラウスが慌てて階段を降りきると、

そこには小さな部屋があり、

黒い犬が男性の足に噛み付いていました。

クラウス・ツェルネ

そ、村長!

村長

!!

村長

お、お前は!

村長

クラウス!!そうか!

村長

お前の犬か!!

村長はそう吐き捨てるようにして言うと、

手にした鉈を振り下ろし、

犬の頭を切り落としました。

クラウス・ツェルネ

あ……

頭部を失った犬は、

その形を留めることが出来ず

消えて無くなってしまいました。

村長

……よく生きてたもんだ…

クラウス・ツェルネ

…村…長?

村長

何が目的だ?

村長

ああ、いや聞かずともわかっている

村長

本だな?

村長

本を探してるんだろ?

クラウス・ツェルネ

そ、そうなん…です

クラウス・ツェルネ

本を、本を貸して下さい!

クラウス・ツェルネ

妹を助け

その言葉を言い切る前に

村長はクラウスの頬を思い切り殴り飛ばしました。

クラウス・ツェルネ

うあっ…

村長

…チッ

村長

お前を殴っても意味は無いのに…

クラウス・ツェルネ

お願いします

クラウス・ツェルネ

妹を

クラウス・ツェルネ

妹を助けたいんです

村長

……

村長は目を閉じて、

それから大きく一度深呼吸をしました。

村長

いいか、よく聞け

目を開け、ゆっくりと言葉を発しました。

村長

あの本には

村長

”夢幻の魔女”の魂が封印されていたんだ

クラウス・ツェルネ

むげんの魔女?

村長

今から二百年前

村長

突然、国王陛下の前に現れ

村長

国の窮地を救ったことから

村長

一時は英雄だと

村長

救世主だと崇められた魔女だ

クラウス・ツェルネ

……

それは

いつかどこかで

聞いたことのある

御伽噺と似た内容でした。

村長

奴は絶望の淵にいる人の前に突然ふらりと現れ

村長

対価を支払えば

村長

あらゆる願いを叶えると言うんだ

クラウス・ツェルネ

!!

村長

多くの人が奴に対価を支払い

村長

願いを叶えてもらった

村長

ある者は不治の病を治してもらい

村長

ある者は失った腕を蘇らせてもらい

村長

またある者は

村長

死んだ恋人を蘇らせてもらった

村長

そういう噂が後を断たなかった

クラウス・ツェルネ

凄い…

クラウス・ツェルネ

凄い魔女なんですね

村長

そう思うか?

クラウス・ツェルネ

え…

村長

恐ろしいと思わないか

村長

そんなことが出来るなんて

村長

普通じゃない

村長

魔術に関わっている人間ならば皆

村長

そう思うはずだ

村長

だが、そう思っていても

村長

力の無い人々は奴に縋り、願った

村長

助けを乞うた

村長

……奴の本当の狙いも知らずに

クラウス・ツェルネ

本当の、狙い?

村長

知識ある者は

村長

死ぬことを極度に恐れる

村長

それは

村長

今まで自分が積み上げてきた

村長

全ての知識と技術を失うからだ

村長

”夢幻の魔女”も同じだ

村長

奴も全てを失うのを恐れ

村長

人々の願いを叶える対価として

村長

寿命を貰い

村長

永遠に近い命を得ようとしたのだ

クラウス・ツェルネ

……

クラウス・ツェルネ

でも、どうして封印されたの?

村長

この世界にはいくつものルールがある

クラウス・ツェルネ

…ルール?

村長

朝が来て夜が来るのが当然のように

村長

水が高いところから

村長

低いところに流れ落ちるように

村長

人が生まれて死ぬというのも

村長

この世界にとって当然のルールなんだ

村長

そのルールを魔術で捻じ曲げ続けるということは

村長

思わぬ変調をきたすらしい

クラウス・ツェルネ

へんちょう?

村長

例えば

村長

奴の周りにいる人間が狂い始め

村長

互いに殺し合いをするようになる

村長

とかな

村長

それゆえ、封印されたんだ

クラウス・ツェルネ

え、じゃあ……

村長

そう

村長

ここの村人たちが狂い

村長

殺し合いを始めたのは

村長

魔女の封印が解かれたからだ

クラウス・ツェルネ

そ、そんな!

クラウス・ツェルネ

で、でも

クラウス・ツェルネ

僕はなんともないし

クラウス・ツェルネ

村長、も…?

村長

……

村長

血縁者は狂わない

クラウス・ツェルネ

…え

村長

そう言われている

村長

確かな情報ではないがな

村長

お前も私も

村長

祖先をずっと遡った先に

村長

奴の血縁者がいるということだ

クラウス・ツェルネ

……そんな

村長

まぁ知らなくて当然だ

村長

二百年も前の話しだからな

クラウス・ツェルネ

……

クラウス・ツェルネ

村長…

クラウス・ツェルネ

僕は

クラウス・ツェルネ

僕はどうしたらいいんでしょう

クラウス・ツェルネ

本を持って行かないと

クラウス・ツェルネ

妹は……

村長

テレーゼのことは諦めなさい

クラウス・ツェルネ

!!!?

村長

これは

村長

お前の父親

村長

ヨアンの罪でもある

クラウス・ツェルネ

父さんの?

クラウス・ツェルネ

父さんが本を持ち出したから?

クラウス・ツェルネ

だから…

クラウス・ツェルネ

妹は死んでもいいの!?

クラウス・ツェルネ

妹は関係ないでしょ!?

村長

私の妻と子も死んだ

クラウス・ツェルネ

!?

村長

狂った庭師の男に

村長

枝切り鋏で喉を切り裂かれて

クラウス・ツェルネ

!!!

村長

お前の父親が本を持ち出し

村長

封印さえ解かなければ

村長

誰も死ななかった!

村長

お前の父親が

村長

お前の父親が全てを奪ったんだ!!

村長

妹を助けてほしいなんぞ!

村長

そんな願いを聞き入れると思うな!

そう言うと村長は

クラウスをもう一度殴りつけ、

馬乗りになり、

首を絞めました。

クラウス・ツェルネ

うっ…ぐっ……

村長

何故だ

村長

何故、あの本を持ち出した

村長

あれほどあの本に触れるなと

村長

言ったはずなのに…

村長

何故…

クラウス・ツェルネ

うぅ……

村長

娘は昨日八歳の誕生日を迎えたばかりだった!

村長

妻の腹の中には

村長

新しい命も宿っていた!

村長

なのに…

村長

どうしてこんなことに……

村長

お前も失えばいい!!

村長

大切な者たちを!!!!

【上下】夢幻の魔女【完結】

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