心臓がドキドキしていた

こんな日に限って雨で

じめじめして気分もどんよりしてしまう

恭也さんは席に座ると

メニューを開いて私に見せる

近くにいた店員に声をかける

ここに来る前から私はもう決めていた

恭也さんは驚いた様子で私を見ていた

今までのデートで一度も頼んだことのないコーヒー

それも砂糖もミルクも入れずに飲もうとしている

コーヒーが苦手だと思っていたのかもしれないが

飲もうと思えば飲めるし

むしろ私は紅茶の方が苦手だった

コーヒーに砂糖やミルクを入れないのは

苦いコーヒーを変に甘くするのが嫌だから

それに

これから私は大事な話をしなければいけない

苦いコーヒーにした方が

気持ち的にも引き締まる気がした

恭也さんの言葉が気になった

"何もしていない"ってどう言うこと？

その"する"っていうのはもしかして……

ね？

ダメだ

気持ち悪くなってきた

恭也さんの気持ちが透けて見えてくる

言いかけたところで恭也さんに止められた

何だろう

恭也さんに焦りを感じる

このまま話してちゃんとわかってもらえるかな？

と言うか

どこに行くつもりなんだろう……

恭也さんが伝票を持ってレジに向かう

飲みかけのコーヒー

恭也さんに手を引かれ

たどり着いたのは……

ギュィィィィィィン！！

こんなこと言いたくなかった

今この子にこんなこと

違う

こんなことが言いたいんじゃない

いつもみたいに笑って話したかったのに

今はこの子の顔

まともに見れない

お願いだからそんな顔しないで

お願いだから……

いつもみたいに……

笑ってよ……