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ある日から、綺麗な満月の夜に、外を歩くのが日課になった。
歩きながら、ずっと昔の大切で、楽しい記憶を思い出す。
あの時も確か、こんなに綺麗な夜だった。
確かその時のボクは、何も考えず人の住む町に来て、人と仲良くなろうとした。
あの時のボクはまだ何も知らなかったんだ。 ただずっと、『悪魔』と『人間』が仲良く暮らす理想に思いを馳せていた。
思い出しながら、苦笑する。 あの頃の子供っぽさはもうボクにはない。もし『あの人』が今のボクを見たら少し寂しそうな顔をしそうだ。
ヴィルネ
ボクは悪魔だ。けれど他の同族とは違い、人との共存を望む。
昔からそこだけは変わらない。 いや、変えたくないところだ。
なんたって大事な人との約束なんだから――
昔のボクは悪魔なのに悪魔祓いの人たちと共に居た。
今思うと、ほんと何やってんだって感じだけど後悔はしていない。
そこでは沢山の思い出が出来た。
ヴィルネ
ヴィルネ
怒った声を出すのに笑っている貴方につられてボクも笑う。 初めはその言動の意味が分からず怖がってたっけ。
ヴィルネ
笑いながら、ボクの頭をグリグリと押す。何度もされたが慣れることは無くとても痛い。
涙が出るほど痛いのに、嫌だと思うことはちっともなく。ただただ楽しかった。
この時は、ずっとこんなふうに楽しく過ごして、いつか人間と悪魔もこんなふうになればいいなってお気楽に考えてたんだ。
そんな日常が、崩されるとも知らずに――
初めは、いつもおちゃらけていて、場を和ませていた先輩だった。
悪魔の呪いを直に食らってしまい、仕事をするのができなくなったらしい。
初めは目が見えなくなり、だんだん舌、鼻、耳…そして感覚、と五感全てを奪われた。
それでもその人は笑っていた。
怖いはずなのに、本当は泣きたいはずなのに。 その時のボクは、それがずっと不思議だった。
…確か、耳が聞こえなくなる前に、1度聞いたことがある。
『怖くないの?』『ボクはとっても怖いよ』『なんで笑っていられるの?』 なんて、言うつもりなんてなかったのに、笑っているその人を前に抑えきれなかったんだ。
ヴィルネ
ヴィルネ
そういう先輩は、いつものおちゃらけた雰囲気ではなく、ただ心の底からあの人を信頼しているようだった。
ヴィルネ
それでも引き下がらないボクに苦笑しながら先輩はただ、
と、呟いた。
――その数週間後、笑っていた先輩は、首に縄を掛け亡くなった。
ボクはその事実を受け止めれなかった。 だって、少し前まで笑っていたんだから。
ボクを、安心させてくれていたじゃないか。
そう思いながらただ、ひたすら涙をながすボクの横で、あの人は何も言わずただ、立ち尽くしていた。
信じられないものを見たような顔をして――――
確かその日からだ。
あの人が前より無表情になり、一心不乱に仕事をするようになったのは。
いつも優しかったあの人が、たまに怖くなったのは。
あの人は、ボクに対してキツい言い方をすることが増えた。 その度にものすごく謝られたのを思い出す。
ボクも、もう1人の同僚もあの人を止めた。 いつか体を壊すのが目に見えてわかったから。 それでもあの人は休むことをしなかった。
説得を諦め、あの人の力になろうと頑張った。けどあの人はボクを近づけなかった。
ボクが悪魔だから嫌われたのかと心配になった時がある。 同僚は黙ってボクの言葉を聞いてくれた。
言葉がまとまらず、泣きながら話していたのを覚えている。聞き取りずらいはずなのに同僚は優しく聞いてくれた。
ヴィルネ
そう言い、優しくボクの手を包むその手はとても暖かかった。
止まりかけた涙が、再び出てしまうくらいには。
ヴィルネ
同僚は、泣き止まないボクに目を丸くする。
ヴィルネ
必死に涙を止めようと目を擦るボクを、優しくハンカチで拭いてくれた。 あぁ、この人みたいに優しくなりたい。
そう、思わせてくれた人は 少しして行方がわからなくなった。
その報告を聞いて、呆然とするボクをあの人はただ、悲痛な目で見ていた。
そして最後
ボクは先輩からずっと離れなかった。
離れてしまったら、もう二度と会えない気がしたから。
そんなボクを見て苦笑する先輩も、それを見てどこか安堵しているようだった。
きっと、この人も、ボクがいなくなるのが怖いんだ。
ヴィルネ
ヴィルネ
ヴィルネ
ヴィルネ
ヴィルネ
ヴィルネ
ヴィルネ
ヴィルネ
ヴィルネ
ヴィルネ
ヴィルネ
そう返すと、先輩はどこか歪な笑顔を作った。
その人は、笑顔を作るのが下手なんだ。 かっこいいのに、どこかかっこ悪い、そんな先輩に、ボクは惹かれていた。
ボクの密かな目標の1つは、この人のようになることだった。 絶対に言ってやらないけどな。
いつか、その目標が叶ったら言ってやろうと思う、『貴方のように、かっこいい大人になれた』って。
そう、思っていたのに
先輩は、ボクの目の前でどこかに消えた。
いや、消えたわけではない。 悪魔に連れていかれたんだ。
先輩は、悪いやつに好かれやすいから。 ずっと、先輩を狙っていたあの悪魔に。
悔しくて、でもどうしようも出来なくてボクは絶望に打ちひしがれていた。
でも、それじゃダメだって思ったんだ。
ボクが誰よりも強くなって、絶対助けに行こう。 例え、先輩がもうボクのことを覚えていなかったとしても――――
あぁ、クソ。 思い返す度、腸が煮えくり返る。
みんな、同族のせいで死んでしまっただ。
同族をみんなと同じ目に合わせたいと思ったこともある。
けど、それだけは絶対にしない。
例え、どんなにイラついても、どんだけ憎んだとしてもボクは感情のまま動いちゃいけない。
だって、それが先輩との約束だから。 それが、ボクの夢だから。
ふと、どれくらい歩いたかと気になり、辺りを見回す。 うーん、知らないところだ。 …あの頃を思い出しながら歩くといつもこうだな。
ヴィルネ
ヴィルネ
ヴィルネ
ヴィルネ
人の住む街、ボクはいつもここで働いている。
もちろん、姿を変えてだ。それくらいの魔法、悪魔にとって造作もないことだ。
ヴィルネ
静かな街中で、好きな歌を歌う。 確かこれは誰かの癖だった。 誰の癖だったか、思い出せない。
それぐらい、昔の記憶だ。
ヴィルネ
ふと、近くから気配がした。
少し周りを見渡すうちに、血の匂いが辺りに立ち込める。
…酷い匂いだ。 同族は、この匂いを嗅ぐと楽しげにするが、ボクはちっともその感性が理解できない。
ヴィルネ
少し大きめの声で言うと、近くのゴミ箱からガタンという、大きな音がした。
ヴィルネ
ヴィルネ
ボクのできる、最大限の優しい声を出す。
すると、ゴミ箱の近くから小さな女の子が出てきた。 ボクを訝しげな顔で見つめている。
可愛らしい少女は、人間のそれと同じだったが、悪魔のボクにはわかる。彼女は人間ではない。 まぁ向こうもボクが人間じゃないことに気づいてそうだが。
人ならざるもの…悪魔や魔物が人間界に溶け込むのはそれほど珍しいものではない。それに、もし気づいたとしても無視する人がほとんどだ。 そういうやつは元の住処を追い出された弱者だから。
ヴィルネ
ヴィルネ
…もしかしてこの子は人の言葉をあまり理解していないのかもしれない。 人の街に住み始めたばかりの者は、そういう者も多い。
この場合、話はあまり通じないので、何も話はせず、手当だけすればいいだろう。
どこを怪我しているのかと注視してみれば、どうやら足と腕を怪我しているらしい。
腕も酷いが、足からの出血は少し多い。
人じゃない者の中には治癒力が高いのもいるが、そうじゃないやつももちろんいる、彼女はそのタイプのようだ。
ヴィルネ
いつも持ち歩いている治療キットを取り出す。 昔から怪我をよくするため、持たされていたものだ。 こんなところで役立つとは。
それからテキパキと手当をし、包帯を明日になったら替えるようにと伝わるように説明をして、包帯と消毒液を押し付ける。
わかったかと問うと、彼女はコクリと頷いたので、きっと大丈夫だろう。
ヴィルネ
ヴィルネ
そうして、彼女に笑顔を向け、帰路に着く。
相手が誰であれ感謝をされると気分が晴れる。 先程までのどす黒い感情はどこかに行ってしまったようだ。
あぁ、今日は珍しくよく眠れそうだ。
ヴィルネ