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仕事から帰宅し、ガチャリとドアを開ける。
玄関に入った途端体から力が抜け、同時に変身も解ける。 あぁ、今日も疲れた。
悪魔が人の世で働くのは本当に疲れるのだ。 気を抜くと魔法が解けてしまうし、そうでなくとも人間の常識と悪魔の常識は色々違うため、頭の切り替えをハッキリしないといけない。
初めはそれが難しく、とても苦労した。その問題も全て、あの人達に教えてもらい解決したが。
ヴィルネ
仕事と家でのモードの切り替えは、いつもコーヒーだ。
仕事終わり、特に緊張するようなことをして帰って来た後はどうも切り替えが上手くいかない。
家なのに仕事場にいるような感覚は少々、いや大分気持ちが悪い。 だからいつもコーヒーを飲み『ここは家だ』と無理やりにでも切り替えるのだ。
ちなみに、仕事場ではいつも紅茶を飲んでいる。
……確かこの癖は『あの人』の癖だっただろうか。
いつもコーヒーを飲むのに仕事中は紅茶を飲むあの人をずっと疑問に思っていたような気がする。 その時、同僚に教えてもらったんだ。『あの人はあぁやって物事を切り替えてるんだ』と。
ヴィルネ
…やめたやめ。 あの頃を思い出すと気持ちがいっぱいになると同時に、どうしようもないくらい悲しくなる。 これじゃあ明日の業務に支障をきたすかもしれない。
ボクは感情に左右されやすいのだ。
トポトポとドリッパーにお湯を注ぎながら、ここ一週間のことを思い返す。
日曜日の夜、そうやって1人反省会をするのが大人になってからの日課だ。
褒められて嬉しかったことや失敗して落ち込んだことを思い出しては気分が左右している事に気づき、苦笑する。
いつからボクはこんなに心が左右するようになったのだろうか。
生まれた時からだったような、突然なったような。 …今思い出すことは叶わなそうだ。
ヴィルネ
コーヒーに入れる用の牛乳をちょうど切らしてしまったらしい。 仕方ない、今回は無しで飲もう。
今日は帰宅するのが遅くなったが、明日は少し早く帰れるはずだ。 帰りにスーパーにでも寄って帰えればいい。 ついでに弁当でも買って帰るか?
ヴィルネ
今日の夕飯を作れば冷蔵庫は空っぽになる。 帰る頃にはきっと半額になった弁当があるだろう。
今はとても気分がいい。 なんたってボクお気に入りのお弁当が手に入ったのだから。
オムライスや肉団子、唐揚げの入ったボリューミーなお弁当。当然スーパーの人気商品だ。 今日はたまたま買うことができたが、いつもはすぐ売り切れてしまう。それぐらい美味しい弁当なのだ。 …まぁ、ボリュームに合わせて少々値は張るがな。
嬉しすぎてスイーツまで買ってしまった。 弁当が高い分、安いものだが。 例え安くても、カスタードプリンはどれも美味しいに決まっている。
家には杏仁豆腐もあるため、今日は贅沢をしよう。 毎日仕事を頑張っているご褒美だ。誰がなんと言おうとな!
ヴィルネ
鼻歌を歌いながらも歩いていると、遠くから親子が歩いてくるのを見つけた。
旅行に行った帰りなのか、少々多荷物だ。
どうやら少女は子供特有のわがままを言っているらしい。
子供らしく、とても愛らしいその姿を見て、人知れず口角が上がる。
躓いて転んでしまった少女に、笑いながら母親が駆け寄る。 恥ずかしそうに俯いている少女に、どこか既視感を覚えた。
昔、ボクもあんなことをしたような…。
確か、仕事で遠方に行った帰りだった。
ヴィルネ
ボクと『あの人』だけの仕事――まぁボクはただ観光してただけだが――だったので、他のみんなにお土産を買っていったんだ。
ヴィルネ
荷物は多く、足元が見えない状態だった。 まぁ、あの人の持っていた荷物も持っていたから当たり前なのだが。
あの人がボクに押し付けてきたわけではない。 あの人の役に立とうと考えた結果、それしかやることがなかったからだ。
この時、荷物で地面が見えず、しかもあの人に「大丈夫だ」とアピールするため、早歩きをしていた。
当然、足元にある石になど気がつけるはずがなく、思いっきり転んでしまった。
ヴィルネ
苦笑しながらあの人はそう言った。ボクは恥ずかしさや悔しさが入り交じりあの人の顔を見ることができなかった。
それで更に笑われたっけな。
――あぁ、懐かしい。
本当に懐かしい。 今まで忘れていたくらい、些細な思い出だ。
いつの間にか、先程の親子を通り過ぎていたようだ。 思い出に浸ると周りが見えなくなってしまうのはボクの悪い癖。
まぁ通り過ぎなかったとして何もないけれど。 怪我が酷いようなら手当する程度だ。
後ろから聞こえる声的にそれほど酷いものじゃないのだろう。
気にしなくて良さそうだ。
…そういえば、結構前に助けたあの少女は今元気だろうか?
アパートに着き、自身の部屋のある階へ登っていく。
このアパートに住む人は皆優しく、隣の部屋の人とは大の仲良しと言っても過言では無い。
…まぁ、怖がられるのが怖いから正体は明かしていないが。
ヴィルネ
遠目からだが、ボクの部屋の前に何かがあるのがわかった。
置き配はBOXを用意しているため違うだろう、ならなんだ?
…見間違いでなければ人のように見えるのだが。しかも女性。 何かボクに伝えたいことがあるのか? いや、それだとして何故ドアの前で座っている?
普通に怖い。 ここらで暮らしてきた中でTOP5に入るくらいには。 ちなみにだが第1位はごみ捨ての日に寝坊した時だ。
…怖いが近づくしかないだろう…。
1歩、また1歩と近づいていく。 座り込んでいる女性はこちらに気づいたのか、僕に目を向ける。
ヴィルネ
ヴィルネ
近くに行くと、彼女が人ではないことはすぐに分かった。
それに、久しぶりと言われたが、ボクに彼女と会った記憶はない。
忘れているだけなのだろうか?
ヴィルネ
ラトカ
ラトカ
ヴィルネ
その言葉を聞いた途端に、頭にどこぞの昔話が浮かんだのは言うまでもない。