【第五章】その背に手を伸ばして

ばしっ、と乾いた音が響く。

ピアノを、間違えたから。

また乾いた音が鳴る。

いつも、そう。

自分から努力しなきゃいけないものが 嫌いだったから、

だからピアノも長くは続かなかった。

いつも逃げてばかりだ。

努力することから、

いつも、

いつも。

えっ？

ギザ歯で声と身長が低い、男性。

やっぱり、 どっから見てもワイテルズなのに…

「クラスでいじめはあるか？」

───うちのクラスには、

───酷い虐めがある。

彼女の名前は「涙」。

「涙」と書いて、「ティア」。

明らかにキラキラネーム。

だからそのせいで…………

いつもいじめられていた。

そしてしっかりとヘッドホンを付けて向き合わない私。

教室の後ろから音が鳴る。

ティアの身体を蹴る鈍い音。

うっ、とくぐもった呻き声。

クラスメイトの笑い声。

私も、必要に応じてくすっと笑う。

だって、

そうしないと面倒だからね。

私って、ほんとに、

ほんとに"普通"…？

シャークんさんが、 ふっと表情を和らげた。

いつになく真剣なシャークんさん。

気が付くと頷いていた。

本。

物語。

ティア。

──その背表紙に、手を伸ばす。

きっぱりと彼は胸を反らす。

実は……

私も、人間を音楽に例えようとした事がある。

悲しい音楽、楽しい音楽、暗い音楽、変拍子の音楽。

それを、人間に重ねて生きていた事が。

本だって、音楽と同じなのかも知れないな。

ただ……

ティアの物語を読むって、

物理的にどうするんだろ…

……To be continued