戦線の魔法使い

放課後

元婚約者だった彼は俯いて拳を握りこんだ

恥ずかし気もなくそう私の事を言う彼

知ってる、その気持ち 私もそうだったから

そう呟くお前は下を向いて、決意を固めたように見えた だけど、それでもさ

俺は彼女の頬を掴んで引っ張った

進める足を止めて振り返る

考え込んでしまう彼女を見て思った 「ああ、分かってないんだ」って

嬉しそうに顔を緩ませる彼女

貴女を解放するその日まで この偽りの関係を続けるわよ

ミケイラさんとはちょっとギクシャクしたけど、今じゃ普通に…

ソファーに横になるのはいいけど、彼女は今私のお腹の上で寝転びながらタブレットで何かをやっている

最近何か忙しいらしく、何をしてるか聞いても「会社の手伝い」としか言わない

こんなに近くにいてくれるのがとても嬉しい

ずっと、このまま、ずっと一緒に居てくれたらいいのにな、なんてこれから戦場に行く事を考えながら彼女の髪を撫でた

父は腕を組み顎に手を添え窓の外を見つめ始めた

先の2人はわかるけど、何故父がそんな危険を犯そうとしているのかが理解出来なかった だって、彼はグループリーダーとしての責務があるからだ

膝の上でチチは右前足をペロッと舐めた

いつものベンチに座って空を見上げた

彼女が来るまでボーッと空をただ、ずっと眺めていた 膝にチチを乗せたまま

ミケイラさんが忙しいと言っていたので私は久しぶりに一人で食事をとっていた

テーブルの向かいに来た彼を見上げると真剣な顔で私を見つめていた

多分この時から、何かが変わっていった

素っ気なく返事をする彼女

私の足の間でくつろぐ彼女はぐっと私に体重を預けてきた

背中に感じる彼女の温もり 彼女の匂い、声 もうすぐ傍から消えるこの温もりを堪能するかのように私はすっと目を閉じた

バサッと彼女の匂いに包まれた 彼女が上着を私に掛けてくれたのだ

鼻の奥がツンとなるのを唇を噛み締めて耐えた

出陣1か月前

だって、約束したから

彼女は背伸びをして私の首輪を外してから手に持ってた首輪を付けた

目元が少し赤くなってる彼女の頬を撫でる

絶対に負けられない だから絶対勝つ

開始の合図が鳴り響いた

タブレットで2人の攻防を見つめる

剣を捌きながら後ろに距離をとった

魔力を剣に込めようとした時、首につけていた首輪が赤く光って身体に電撃が走った

膝を着いた瞬間首に刃が通った

どうして…？なんで…？私にその首輪を…？

あまりの出来事に声すらも出ず、ただ目から流れる液体を拭わず下を見ていた

チチが私の袖を引っ張るまで私は動けなくなっていた

制服は脱ぎ捨ててスーツで身を固めた

理事長室を出ると最近表情が緩くなってたはずの彼が無表情のまま私に声を掛けた

それだけ言うと彼は振り向きもせずに歩いていった

呟いた声は少し、ほんの少しだけ震えていた

くしゃくしゃになったシーツの上でギュッと丸まって、自分を守るように、心を守るように 几帳面な彼女がこんなに部屋を散らかしてるのは本当に珍しい

4日、4日間ずっと飲まず食わずこの状態だ

唸り始めた彼女の頭を前足で撫でる

右足で思い切り頭を殴った

冷蔵庫を開けると買った覚えのない食材や、誰かの手作りのようなものが入っていた