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せんべつマンション

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せんべつマンション

1 - せんべつマンション

♥

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2020年10月04日

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キィー…キィー… それははるか高くから聞こえる。

垂直に見上げた天井の、中央にある長方形の巨大なシャンデリアがその正体だった。

沢山の硝子の装飾を柳の葉のように重たげに垂らし、不気味に暖かな光を灯す。

ゆっくり回転し、振り子運動をする様は見ている俺たちを不安にさせた。

訳の分からない建物に入り込んでしまった。

ここは高層マンションの巨大なエントランス。

けれど、昼間なのに建物の中も、この場所にも人の気配ひとつ無い。

ゆうた

ここ、薄気味悪いな。

しろう

ああ…。

ゆうた

さっき入ってきたとこから戻ろうぜ。

しろう

そうしよう。こっちの正面側じゃなくて左側の門だったな。

ゆうた

そうそう。

2人は小走りで、先程入ってきた西側の門へ向かう。

ゆうた

しかしこの門、このモダンなマンションにどうも似つかないよな。

しろう

ああ、外から見た時はそれ程思わなかったけど今見るとすごく気味が悪い。

鮮明な赤色で塗られた中華で古風な門を俺たちは改めてながめ

ゆうたが門の重たい扉へ手をかけた。

支配人

どうも、お待ちしておりました。

しろう

…!?

しろう

おい、ゆうた!

ゆうた

どうした?

振り返るとそこには清潔な黒のスーツを着た、黒縁メガネの若い男が立っていた。

明らかに現世の人ではないような気を放つのを肌が感じた。

色の白い男はその無害そうな笑みを向けたまま、静かに立っている。

まるで俺たちが抵抗するだろうことをも見透かし、それが不可能であることをなだめすかすように。

しろう

…あの、すみません。俺たちどうやら間違えてここへ来てしまったみたいで。

ゆうた

そうなんです、すみません。

支配人

支配人

左様ですか、それは大変失礼いたしました。

しろう

(いくぞ、ゆうた…!)

ゆうた

(了解!)

しろう

(せーの…!)

ゆうた

(おらっ)

しろう

(おい、まさかな、嘘だろ…)

重い鉄の扉は先程と比べものにならない程固く閉ざされている。

支配人

どうされましたか?

しろう

ここから入ってきたんですけど、どうも開かなくなったみたいで。

しろう

ほかの出口は開きますか?

支配人

そうですね、出口であれば開くと思います。

俺たちはすぐさまほかの門へ走った。

どの門の扉も重く、固く、男2人の全体重をかけて押しても全く動く気配はなかった。

ゆうた

おい…!どういう事だ!?まさか閉じ込められたのか!?

しろう

くそっ!そんなはず…

しろう

入ってこられたんだ、それに中に住んでいる人が使う出口が必ずあるはずだ!

ゆうた

くそっ!どこだ!?

天井のシャンデリアが嘲笑うように部品の擦れる音を鳴らし揺れている。

俺たちは焦っていた。 このままではまずい。 何かがまずい。 漠然とした恐怖が背後から覆い尽くすように襲ってくる。

しろう

おい、出口はどこだ!!?

支配人

…出口

支配人

ですね。

支配人

申し遅れました。私このマンションの支配人の古谷と申します。

支配人

そして説明が不十分でして大変申し訳ございません。

支配人

こちらにある門、全て"入口"でございます。

支配人

大変恐れ入りますが、入口専用ですのでここから出て頂くことはできません。

支配人

お出口は"こちら"になります。

そう言い、古谷が示したのは自動ドアの向こうに見える建物1階のロビーであった。

支配人

それではご案内いたします。
ようこそ、我がマンションへ。

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