大学生の時に初めて買った メイクセットを持って、 ドレッサーに向かう

ファンデーションを手に取って やめた

寿命が尽きた化粧品のせいで 肌が荒れたら大変だ

流行りを無視した 黒のワンピースを着て

百均で買ってきた カボチャの形のランプを持って 家を出た。

夜の街は少し肌寒い

ちょっとひきこもり過ぎたかも

でもそんな寒さも吹き飛ばしてしまうくらい今夜は賑やかだ

ドラキュラにゾンビ

あ、あのお姉さんの持ってる魔女のブーツ可愛い

目の前には ペアルックのカップル

ふん、羨ましいぞ

皆さんお分かりの通り、 今日は10月31日

死者が地上に来る日

人間観察をしていると あっという間に目的地に着いた

長ベンチに腰をかける

しばらくすると

毎年

年に1回

私が人間らしい生活が出来る原因が、のんびりと此方に近づいてくる

懐かしいなぁ この感じ

と、私が身につけた橙色のイヤリングを指さした

何事も無かったかのように すっと横に座って来たけど

バレてるよ？文

あー、その動き

子犬みたいに頭を横に振るやつ

可愛いからやめてって言ったのに

凄く、驚いた顔をしていた

文が居なくなって5年 という現実だけは

ずっと変わらないよ

うわ、流石は文だ

視界が濁ってきて

何故かハグを求めた

バレバレな嘘で 貴方を騙せるなんて思ってないけど

今日だけは、どうか 知らないふりをしていて。

亡霊の筈なのに 文のガタイのいい体つきも、温もりも、 しっかり伝わるなんて 神様は意地悪だ

唯奈は隣にいる

　けれど、触れられない

唯奈は気づいていないのだ

死んでいるのは自分であると 知らないのだ

だけど、今日だけは 知らないふりをする。

唯奈は 俺にしか見えない

だから街ゆく人々は皆 空間を腕で抱えている俺を 不気味に思うだろう

だけど今夜だけは

知らないふりをして。

END