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#塩﨑太智受け
#吉田仁人
なふ
1,112
文化祭当日。体育館は全校生徒と保護者で超満員。『ロミオとジュリエット』の開演直前、暗幕の裏で、二人は並んで出番を待っていた。
吉田仁人
勇斗が、仁人の冷え切った手を力強く両手で包み込んだ。
佐野勇斗
吉田仁人
キーン――。劇のイントロの音楽が流れ、スポットライトがステージ中央を照らす。仁人が真っ直ぐな足取りで、光の中へと踏み出した。 静まり返る体育館。ステージを照らす一本の白いスポットライトのなかに、ロミオ姿の仁人が立っていた。分厚いメガネと長い前髪で世界を拒絶していたあの吉田仁人が、今、大勢の観客の視線をその圧倒的なビジュアルで釘付けにしている。
吉田仁人
客席の誰もが、仁人の迫真の演技に息を呑み、微動だにせず見入っている。だけど、仁人のこのセリフは、台本をなぞっているだけではなかった。
吉田仁人
音楽の転調とともに、ステージの反対側からジュリエットのドレスを纏った勇斗がゆっくりと歩み出てくる。いつも一軍の真ん中で「完璧な佐野勇斗」を演じていた彼が、今はただ真っ直ぐに、仁人だけを見つめていた。
佐野勇斗
勇斗がセリフを紡ぐたび、その瞳の奥にある剥き出しの熱情が、仁人の心を激しく揺さぶる。
吉田仁人
ついに、二人がステージの真ん中で対峙する。お互いの息遣いが見えるほどの至近距離。勇斗がすっと大きな手を伸ばし、仁人の白い手をそっと包み込んだ。
吉田仁人
台本にはない動き。勇斗が繋いだ手をさらに強く引き寄せ、仁人の耳元に顔を近づけた。マイクが拾うか拾わないかの、微かな、だけど二人だけの秘密の距離で、勇斗の地声が囁く。
佐野勇斗
吉田仁人
仁人の琥珀色の瞳から、一滴の涙がハラリと頬を伝って落ちた。それは劇中のロミオの涙であり、過去の呪いから完全に解き放たれた仁人自身の歓喜の涙だった。仁人は、繋がれた勇斗の大きな手を、壊れそうなくらいの強さで握り返す。
吉田仁人
照明がゆっくりと暗転していく。二人の重なり合ったシルエットが夕暮れのようなオレンジ色の光の中に溶けていく。 一瞬の静寂の後――。 ――ワァァァァァァァッ!!!という、地鳴りのような大歓声と拍手が体育館中を包み込んだ。 幕が完全に閉じた瞬間、二人はステージ裏の暗がりに倒れ込むようにして、お互いの身体を強く抱きしめ合った。クラスメイトたちが駆け寄ってくるまでの、わずか数秒間の、二人だけの特別な抱擁。
佐野勇斗
吉田仁人
コメント
2件
すごいっすね…
うわあ、これを読んだらもう涙腺が…。台本のセリフを借りてお互いの本音をぶつけ合う演出、本当に最高でした。特に勇斗の「俺がお前を世界で一番幸せな男にしてやる」って地声の囁き、あそこは思わず声が出そうになりました。暗闇から救い出したのが勇斗だって仁人が気づくシーンも、物語の伏線がここで綺麗に回収された感じがして胸が熱くなりました。演劇って嘘の世界なのに、そこでしか言えない本当の気持ちがあるんだなあ…。二人の幸せを心から願います!