コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
今日はダンエビの収録。
控室はワンエンと一緒で、 にぎやかな空気が漂ってる。
俺はソファに座って水を飲みながら、 向かいのふみをちらっと見た。
──さっきから、 やけに落ち着かないな。
スマホをいじったり、 ペットボトルを持ったり置いたり。
いつもならもっと堂々としてるのに、 今日はどこかソワソワしてる。
ケビン
冗談っぽく聞けば、ふみは一瞬だけ俺の顔を見てから、鼻で笑った。
史記
そう言いつつ、目線の先には、
──永玖と話してる楓弥。
ワンエンの山下永玖とうちの最年少が、やけに楽しそうに笑い合ってる。
ケビン
俺は軽く笑いながら、ふみにだけ聞こえるようにぼそっと言った。
ケビン
史記
ケビン
ケビン
ふみの眉がほんの少しだけ動いた。
史記
即答。 でも、目は笑ってなかった。
ケビン
ふみって、昔からそう。
自分の感情には正直じゃない。
でも目の奥で、ちゃんと“思ってる”ってのがバレてんだよ。
ケビン
史記
返事はなかったけど、ふみは視線を逸らしてスマホに目を落とした。
けど、それは“気を紛らわせようとしてる”ようにしか見えなかった。
……ふみ、もう気づいてるんじゃない?
自分の中で、演技じゃ片付かない気持ちが生まれてること。
俺は何も言わず、水を一口飲んだ。
ふみの隣にいると、こういう空気、 わかるようになってきた。
だからこそ、今はただ、 黙って隣にいてやる。
撮影の声がかかるまでの、 ほんの短い沈黙だったけど。
ふみの胸の中には、少しずつ、静かな波が立ちはじめている気がした。
楽屋に入った瞬間から、 なんとなく落ち着かなかった。
チェックするふりしてスマホをいじって、水飲んだりして──
でも、集中できない。
目が勝手に、 ある方向ばっか追ってしまう。
楓弥
楓弥の弾んだ声が、やけに耳に残った。
笑ってる。 その笑顔が、すごく無邪気で、 楽しそうで─
……別に、 気にする必要なんてないのに。
わかってる。
楓弥が永玖を“推し”として 見てるのは前から知ってる。
でも、目の前であんなキラキラした目で見られると、なんかこう……。
ケビン
隣から聞こえたケビンの声に、 反射的に答える。
史記
そう言いながらも、 視線はまだ楓弥と永玖の方に向いてた。
永玖が何か言うたびに、楓弥は目を細めて、時々、恥ずかしそうに肩をすくめて笑う。
その仕草が、妙に胸に引っかかった。
……ああいう顔、 俺にはあんま見せないのに。
って、何考えてんだ、俺。
これはビジネス。
俺たちは演出の一環で“恋人設定”をしてるだけで、本当の気持ちなんか──
手元のスマホの画面がぼやけて見える。
どうでもいいニュースアプリをスクロールする指先が、少し震えている。
ケビンは横目でちらっと俺を見て、 ふっと笑った。
ケビン
唐突に、ケビンがボソッと言った。
史記
ケビン
心臓が、ドクンと跳ねた。
してない。 ……そう言いたいのに、 喉が詰まって声が出ない。
史記
でも、その一言が自分でも驚くくらい、薄っぺらかった。
わかってる。
ケビンは、全部気づいてる。
俺が── 気持ちをごまかせてないこと。
史記
それに気づいた瞬間、 目を閉じたくなった。
でももう、止まらない気がしてた。
楓弥の笑顔も、声も、距離感も──
全部、ただの“演技”じゃ済まされないところまで、俺の中に入り込んできてる。
スタッフ
スタッフさんの声が響いた瞬間、 俺は立ち上がって、大きく息を吐いた。
──切り替えろ。仕事だ。
でも、その一歩先で、楓弥が永玖に向けて笑ったあの表情が、また脳裏に焼きついたままだった。