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感動しました… 山崎くん、勇気を出してくれて本当にありがとう… いじめの情景がリアルで、読んでいて胸が締め付けられました 私だったらどうだろう、 山崎くんのように勇気を出せていたのか…と、少し考え込んでしまいました 澪さんとの進展もまた読みたくなりますね☺️ 次回もとても楽しみに待っています
良いお話をいつもありがとうございます😊最新話が出るたびにいつも1話目から読み返してしまいます(笑)この物語は永遠に読ませていただきたいです!
柚月君の学校生活を書いた時、「柚月君が可哀想」「柚月君のいじめがなくなりますように」等のコメントを頂きました。当初は10話で最終回にしようと思っていたのですが、やはりこの問題は解決しないといけないと考え直した故の「救済回」です。 次回は柚月君もちゃんと喋ります!読んでくださりありがとうございました❗
簡単なことだ。
いつも縦に振っている首を、今日から横に振るだけ。
吉田
頭ではわかっていても
山崎孝太
机に書く油性マジックの罵詈雑言。
「それは止めとけ」等々言い交わしながら、肘でつつきあい机を黒く染める。
昨日までは俺もその輪の中にいた。 自分の身を護る為に無理に笑顔を作っていた。
だけど昨日、関西弁の女性がそれ以外の道もあると 俺でもその道を歩むことが出来ると 教えてくれた。
気紛れじゃない。この気持ちに嘘偽りはない。 だけど
重力に逆らうのが、流れに逆らうのが こんなにも難しいなんて。
吉田
呼びかけにすぐに応じない俺に、吉田が声に苛立ちを滲ませた。
吉田
首が重力に従って縦に動きそうになるのを必死に堪える。
俺はもう、周りの顔色を気にして「そうだな」で武装したりしない。 昨日誓ったんだ。
だから だから勇気を少し_______。頑張れ俺。
山崎孝太
吉田
俺の震えて掠れた声は、吉田の声にかき消される。
足が震える。吉田達の顔を直視できない。 頑張れ俺。頑張れ。
山崎孝太
山崎孝太
駄目だった。完全に日和った。
見張りなんて完全に同罪じゃないか。
__入り口で廊下を往来する人を眺めていると、不意に泣きそうになった。
関西弁の女性だったらきっと「止めろ」と言う。見張り役をするなんて馬鹿なことはしない。
やはり俺では無理なのか。媚びへつらうことしかできないのか。
景色が霞んで見えたから、西谷先生が来たことに気づかなかった。
我にかえった時は吉田達は現行犯で取り押さえられていた。
__その後2時間、生徒指導室で過ごした吉田の機嫌はすこぶる悪い。
吉田
吉田
俺の背中に、はっきりと敵意を滲ませた吉田の視線が刺さる。
きっともうすぐ俺は喰われる。
ならせめて、悔いのないように散りたい。 あの関西弁の女性のように誇らしく。
だから だから勇気をあと少しだけ______
翌日からシカトされた。
当然体育のテニスのペアもいない。
吉田
既にペアを確保した吉田がニヤニヤしている。
吉田
ここで気の効いた皮肉を言うほど俺は肝が座ってない。 あの関西弁の女性なら言うだろうけど。
今無言でボールを掴み空いたコートに入ることが、鳴沢柚月の救いになっているかは分からない。
ただ俺は謝る以外の選択肢を取っただけ。悔いを残したくないだけ。
言ってしまえばただの自己満足に過ぎない俺の行動に、鳴沢柚月は驚いたような顔をしていた。
俺はテニス部に所属している。
だから体育の授業レベルだったら造作もない。 返しやすい場所にボールを打ち込んでいく。
しかし誰にでも得手不得手はある。 …鳴沢柚月は学年でも指折りの成績優秀者だが、体育に関してはそうでもないようだ。
打球が弱くしばしばボールがネットにぶつかり、ラリーが止まる。
何度かそれが続いたので、俺は意を決して、ボールを回収しにコートの中央に来た鳴沢柚月の元に歩み寄った。
鳴沢柚月が怯えたように目を逸らした。 俺もネットから視線を上げることは出来なかった。
山崎孝太
山崎孝太
一息にそれだけ言うと逃げるように元の位置に戻った。
__自分の在籍している部活が体育の授業だった時の宿命だ。
いつだって手本を見せろと言われるし、教えてやれと言われる。
今のこれもその一環だ。珍しいことじゃない。
だからそんな驚かれることじゃないし、会釈されることじゃない。
……でも 鳴沢柚月と話したのはこれが初めてだ。
鳴沢柚月の打ったボールが、ネットを超えて俺のコートで1度跳ねた。
別段珍しい現象じゃないけど、鳴沢柚月はとても嬉しそうな顔をした。
俺の頬も緩むのを感じた。 初めて見る表情だ。
…この人こんな風に笑うんだな。
今なら素振り100回でも何でもできる気がした。それくらい体が軽い。
やっぱり軽装備がいい。
さらに翌日の昼休み。
相変わらずシカトは続いており、昼休みでも1人だ。 塾の宿題が出来るからいいけど。
与えられた数学の宿題が半分ほど解き終わると、誰かが机の脚を蹴った。
吉田
山崎孝太
時々思うけど、この人達は暇なのだろうか。 シカトはするくせに、足を引っ掛けるだのなんだのいろいろ妨害はしてくる。
昨日のテニスもわざわざ俺達の隣のコートに陣取り、ボールや野次を飛ばして来た。
部活仕込みの高速サーブをお見舞いしてやったら大人しくなったけど。 今日はそのことでいちゃもんをつけて来たんだろう。
吉田は勝手に俺の前の席に腰掛けた。
吉田
吉田
吉田
吉田
目だけ動かして吉田の顔を窺った。 口は笑みの形をしているが目は全然笑ってない。
俺の返答いかんで、明日からの俺の学校生活が変わる。
それは俺だけではなく、今教室にいる人全員が察しているのだろう。 喧騒が消え、教室は静まりかえった。
誰もが次の俺の答えに耳を傾けている。
怖くないと言ったら嘘になる。 でももう心にもないことを言って武装したくない。そんな生き方はしたくない。
頑張れ俺。
あの関西弁の女性ならきっとこう言う。
山崎孝太
今まで俯いていた鳴沢柚月が初めて俺の顔を見た__
__と同時に吉田が先程より強い力で、隣席の椅子を蹴った。 派手な音を立てて椅子が倒れる。
もう吉田の顔に笑みは浮かんでいなかった。
張り詰めた空気の教室に、低く怒気のはらんだ吉田の声が流れる。
吉田
吉田
そして正確に傷を突いて来た。
それを言われると辛い。どんな言葉で取り繕っても俺は吉田と同罪だ。
__吉田は再び笑みを張り付かせると、わざと もったいつけて俺の机に何かを置いた。
山崎孝太
吉田
吉田
吉田は牛乳を指さし、
吉田
次いで鳴沢柚月を指さした。
吉田
山崎孝太
取り巻きの誰かが俺の腕を掴み、無理やり立たせた。 吉田が俺の手に牛乳を押し付ける。
吉田
耳に入ったその声は、どんな声よりも冷たかった。
吉田
吉田
吉田
吉田が俺の肩に手を置く。 そして耳元で囁いた。
吉田
吉田が俺の背中を押した。
一瞬だけ鳴沢柚月と目が合ったがすぐにそらされた。
諦めの雰囲気を全身に纏ったその姿。
昔の俺だったら、その姿を言い訳に牛乳をかけていた。 同調圧力が強すぎるこの空気に耐えられないから。
だけど今は違う。はずだ。 それを証明する気の効いた言葉が出て来ない。
牛乳片手に突っ立ったまま時間だけが過ぎて行く。
初めは「早くかけろ」と煽っていた取り巻き連中の声にも次第に苛立ちが滲む。
「もうすぐ昼休み終わるんだけど」 「次の教科何だっけ?」 「数学。西谷だから早く来る」 「うわ、マジあいつ…」 「かければ済む話だろ。昔みたいにさぁ」
___もうすぐ、数学の西谷先生が来る。
産休に入った先生の代わりに来た西谷先生は、最近教室に来るのが早い。
___確かに俺はヒーローにはなれない。 そんな勇気は無いし資格も無い。
そんな俺でも、傷つけずに済む方法。 ヒーローのようだと称えられはしないけど。
まだ足が震えているけど前に送り出した。 顔を強張らせる鳴沢柚月
____の横を通り過ぎた。
山崎孝太
昼休み終了前にやって来た西谷先生に牛乳を手渡した。
俺の口から出た声はとても小さい。 掠れてるし最後は震えた。
吉田
吉田
答えだ。
後悔しない、明日から胸を張って生きていける、 俺の答えだ。
俺はもう傷つける側には立たない。
塾に向かういつもの交差点。
信号待ちをしていると、あの関西弁の女性に出会った。 出会ったと言うか隣にいた。
挨拶するべきか否か悩んでいると、俺の視線に気づいた女性が顔を向けた。
女性
山崎孝太
女性
山崎孝太
女性
山崎孝太
女性
女性
山崎孝太
山崎孝太
話込んでいた。 愛想笑いとかそんなスキルを発揮することなく普通に。
塾までの道のりが、今日ほど短いと感じたことはなかった。
もっと話していたい、と思ったのはいつぶりだろう。
だから別れ際 勝手に言葉が滑り出た。
山崎孝太
山崎孝太
女性
女性
その女性は 相原澪と言った。
「また会えるといいな」なんて 社交辞令かもしれないけど
少し心臓が跳ねた。