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黄実花

今、何て言ったの?

あおい

だから、やったよ!なりすまし!!

あおい

それが聞きたかったから、あたしを小難しい言葉でグチグチ責めたんだろ?

あおい

それでー?これが何の罪に問われるんですかーぁ?

あおい

あぁそっかあ!あんたらの作業妨害罪!!あっははは!

あおい

作業の邪魔してごめんなさいでした〜

あおい

これでいいっしょ?はい解散!

黄実花

どうしましょう、こんなに日本語通じないなんて思わなかったわ

黄与花

謝って済まない問題だから、こうして先生まで呼ばれてるのに、理解出来てないんだ

黄与花

てかこいつ、犯罪なら何をしてもいいって思っちゃってる?

黄実花

そうみたいね、モラルがない人ってこれだから嫌なのよ

あおい

へー?そこまであんたらのお絵描きって、お高貴なお仕事だったんだぁ!知らなかったぁ!!

黄実花

ひどい。これなら増額してよかったかもね?

黄与花

同じ学生で、同じクリエイターだから、ってお金は取らなくていいって言ったけど……これはねぇ

黄実花

どうする?今から取ってって、お母さんに言う?

あおい

は?何言ってんの?

あおい

あたしはただ、あんたらの名前を借りただけじゃん

あおい

なりすまし罪 なんて犯罪、なくね?

黄与花

あのさあ……

あおい

あたしが憎いからって、勝手に犯罪の項目作んなよ!

黄与花

さっきからふっざけんなよ、お前!

黄与花

どんだけうちらをバカにすりゃ気が済むんだ!

黄実花

黄実花

確かに、なりすまし行為そのものは、犯罪ではないわ

あおい

へえ!

黄実花

でも、その過程(かてい)で貴方がした事は、確実に犯罪よ

黄実花

貴方、私達のアカウントから、何を持ち出したっけ?

黄実花

何を、使ったかしら?

黄実花

あおい

あっ

黄実花

気付いた?

黄実花

絵や小説は、二次創作であろうが、その権利は私達のもの

黄実花

なにより、私達の作品を盗作して、勝手に自分の作品にした

黄実花

その事によって、私達は多大なる被害を被(こうむ)っている

黄実花

これは立派な犯罪行為、著作権侵害よ

あおい

……は?何それ?

黄実花

貴方、それも知らないで創作してたの?

黄実花

貴方がなりすましの為にしたことは、無断転載っていうの

黄与花

多額の罰金を支払う羽目になる、結構重い罪なんだけど……なんで知らないわけ?

あおい

うっさいな、誰も教えてくれなかったんだから仕方なくね!?

あおい

で、その罰金って幾(いく)ら……?

黄実花

そうね、個人支払いの最高額で、1000万円って聞いたわ

あおい

いっ、せんまん?

黄与花

すごい額だよねー、1000万!

黄与花

これだけ払うのに、何十年かかるんだろうね!

あおい

ぼったくりだろ!そんなん払える訳ないじゃん!!

黄実花

もう、必ず1000万円払うわけじゃないんだから、そんなに叫ばないで

黄実花

貴方が払うのは、1割にも満たない額よ

あおい

そ……それでもお金は払わなきゃいけないってことじゃん……

黄与花

そうだね!それか、うちらの為に働く毎日が待ってるよ!

黄与花

懲役(ちょうえき)って言うんだけど!

黄実花

懲役とは、警察に捕まった後に科せられる罰のこと。流石にこれは知っているわよね?

黄実花

ああでも、貴方ならこっちの方がいいのかしら?より自分の仕出かしたことを、自覚しそうだものね?

黄与花

それな!だって、こいつがしたのってさ、ただの無断転載じゃないじゃん

黄与花

なりすましとかいう、もっと悪質なことに使ったわけじゃん!

黄与花

警察のお世話になる可能性は、充分にあるよね〜

罰金。懲役。

自分には一生縁(えん)がないだろう、と思われていた社会的な罰が、彼女達の口から並べられていく。

その罰の重さに、あおいは黄与花の手からスマートフォンを奪い返す事を、すっかり忘れてしまった。

想像する。 この2人のために、1年も2年どころか一生になるかもしれない、罰則(ばっそく)の日々を。働いて金を作り続ける毎日を。

あおい

そ……そんなの

あおい

そんなのって、無いじゃん……

最悪、しわくちゃのおばあちゃんになっても、中学生の時に犯した罪の贖(あがな)いをしなくてはならない。

あおい

あたしの人生、こいつらの為に使う事になるの?

あおい

こいつらの名前を使ったのはあたしだけど……

あおい

あたしの人生が、こいつらに使われるってこと?

あおい

あたし、有名になりたかっただけなのに

あおい

あたしの名前すら、こいつらの存在感に埋もれるかもしれないってこと?

黄実花

そういう事になるわね、残念

そうなれば、創作活動などできなくなるのは、目に見えて明らかだった。

黄実花

で?謝る気になったのかしら?

あおい

ひっ!?

あおい

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!

黄実花

あらま、教室の中とは立場が逆転したわね

黄与花

でももう遅いんだなー、これが!

黄与花

あんたの親に、どう償(つぐな)ってもらうかの話は進んでるし、謝っても意味ないね!

あおい

ああああああああ!!そんなん違うじゃん!!

あおい

親を出してくるのは違うじゃああん!!

あおい

だって!だって!知らなかったんだもの!

あおい

そんなの犯罪だとか!罰金だとか!懲役なんて!

黄与花

知らなかったんじゃないでしょ、知ろうとしなかったんでしょ?

黄与花

知らなかったじゃ済まない話なんだよ、これ

黄与花

作品を作る前に知っておかなきゃいけない、マナーみたいなもんだし

黄与花

それを今まで、知らずにやってきたのはあんたでしょ?

あおい

そ、そうだけど!

黄実花

なら、私達に言うことがあるわよね

あおい

もうしません!許してください!許してください!!

その場で蹲(うずくま)り、体を震わすあおい。

彼女の目から溢れ出した涙は、床のカーペットにポツポツと染みを作っていく。

あおい

ううっ……ぐすっ……

山口先生

後はこちらで対応する

山口先生

吉岡はクラスに行きなさい

山口先生

お前が来るのを待っている皆がいる

黄実花

……先生、お時間をいただきありがとうございました

黄実花

では、私達は失礼いたします

黄与花

行こっか、きみちゃん!

進路指導室を出る黄実花の背中に、教室の中で見られたような、おどおどとした様子は無い。

逆行を浴び、扉の前に立つ2人の影に隠れるように、あおいはただ泣いていた。

山口先生

立花、聞きなさい

山口先生

先程お前は、有名になりたいからなりすましをした、と言ったな

山口先生

そのなりすまし行為そのものが、お前が有名人になる道を邪魔したのは、分かるか?

あおい

どういう、こと?

山口先生

お前は自ら『自分は他人の物を勝手に使う人間だ』と、自らアピールしてしまったんだ

山口先生

無意識に悪事を働いてしまったと言うなら、誠意(せいい)を持って謝罪し、やり直しを図ればよかった

山口先生

だがお前は、その時間すら与えられなかったな

山口先生

まああの態度では自業自得(じごうじとく)でしかないが……

あおい

え?

山口先生

お前は、なりすましをした時点で、真の意味で有名になる道を絶たれたんだ

山口先生

目立ったとしても、それの前には『悪』の字がつく……悪目立ち、と言うやつだ

あおい

それじゃあ……もう、あたしは

山口先生

そうだ。お前が望んだような、他者からの賞賛(しょうさん)は得られない

山口先生

二度とな

山口先生

インターネット上でも、今を生きているこちらの社会でも……

山口先生

『望岡きなこのなりすましをした』という、不名誉(ふめいよ)な肩書きが先に着く

あおい

……そんな

山口先生

お前のしたことは、言ってしまえば自分の名を捨てること

山口先生

他人の名前で活動するという事は、そういう事だ

山口先生

山口先生

とはいえ、お前にはまだ道がある

山口先生

もし、まだ創作活動を続けると言うなら……

山口先生

自分の作品の評価だけでなく、自分自身への評価にも、なりすましの悪評は付きまとう

山口先生

その自覚を持って、慎(つつ)ましく、謙虚(けんきょ)に取り組みなさい

あおい

ひっぐ、ぐすっ

山口先生は教室の方角を見やる。廊下に出た2人を、見守るように。

山口先生

さて、立花。お前は、自分の犯した罪を償わなくてはならない

そうして山口先生が取り出したのは、例の分厚い封筒。 その封を解き、彼が出したのは、クリアファイルに入った何部もの書類だった。

そのほとんどは、先程画面で見た証拠。 これらがスマートフォンを壊された時の備えであることは、山口先生自身も薄(うす)らと感じていた。

その束をより分けて、山口先生が取り出したのは、1枚の花柄の封筒である。

山口先生

開けてみなさい

あおい

あいつの字……?

あおい

あおい

『立花あおいの罰と、その軽減について』……!?

途端に涙を引っ込めて、あおいは夢中で封を開ける。

もしかしたら、先程までのお金の話は脅(おど)しで、本当はそんなもの無いのかも。

そう待を胸に抱きながら、あおいは中身の書類を取り出した。

立花あおいさんへ 貴方のなりすましの対処に、多大な時間を費やした私達は、精神的苦痛を味わいました。

今頃は、私達の親と貴方のお母様とで、処罰に関する話し合いがされているはずです。 きっと、軽くはない処罰(しょばつ)が下されると思います。貴方には、多額のお金が請求されるでしょう。

ですが、私達も鬼ではありません。

貴方が以下の条件に従い、誠心誠意(せいしんせいい)反省するならば、その処罰を軽減してもよいとの結論に至りました。

・貴方のアカウントが使っている、私達の作品を全て削除する

・なりすましを認め、速やかに謝罪の文章を掲載する

・上記の条件を、1週間以内に必ず実行する

・加えて、学校には明確に病気とわかる理由を除(のぞ)き、毎日登校する

以上です。決して、己の仕出かしたことを忘れませんよう。

その後、どうやって教室まで戻ったのかは、覚えていない。あの手紙を読んだ後の記憶、全てが曖昧(あいまい)だ。

女子A

あ!立花さん!

女子B

立花さん、大丈夫?すっごいフラフラだけど

男子A

もう帰った方がいいだろ、顔色とんでもないぜ

男子B

吉岡にはもう会って話したんだろ、さっき聞いた

女子C

吉岡さんのお別れ会、もう終わるしね

覚束(おぼつか)ない足取り。不安気に前を見つめる表情。 クラスメイト達の表情は、あおいを心配しているようにも見えた。

あおい

……痛い

女子A

へ?

あおい

あたし、もう帰るね

男子B

おう、そうしときな

女子C

立花さん、またね〜

あおいはバッグを掴むと、何も答えずに教室を後にする。

その背中を見つめる幾つもの目の中に、尚のこと心配そうな様子の目が一対……

美紅

あおちゃん?

男子C

よ、よーっし!それじゃあ最後に、吉岡に贈る言葉〜!

女子B

色紙を買う時間がなかったから、ノートの切れ端の寄せ集めになっちゃった……

黄実花

ううん、いいの!むしろこちらこそごめんなさい!

黄実花

急な話だったのに、こんなに素敵なものを用意してくれて……皆ありがとう!

静かな廊下にも、楽しげな声は漏れ聞こえる。やけに耳につくそれが、遠ざかっても鼓膜の奥で反響しているような、そんな気さえする。

あおいは1人背を丸めて、とぼとぼと家路に着いたのだった。

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