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太田豊太郎

ああ、俺はこの手紙を見てはじめて自分の立場をはっきり見ることが出来た。

太田豊太郎

恥ずかしいのは自分の鈍い心だ。

太田豊太郎

俺は自分の進退についても、

太田豊太郎

また自分の関係しない他人のことについても、

太田豊太郎

決断力があると誇っていたが、

太田豊太郎

この決断力は順調なときのみあって、

太田豊太郎

逆境にいるときにはなかった。

太田豊太郎

自分と人との関係を照らし出そうというとき、

太田豊太郎

頼みにしていた心の鏡はくもっていた。

太田豊太郎

大臣の信頼はすでに厚いものになっていた。

太田豊太郎

しかし私の近眼はただ自分が尽くした職分をだけ見ていた。

太田豊太郎

俺はこれに未来の望みをつなぐということは、

太田豊太郎

神もご存じの通り、まったく思い至っていなかった。

太田豊太郎

しかし今ここに気づいて、俺の心はなお冷静でいられるか。

太田豊太郎

前に友人がすすめてくれたときは、

太田豊太郎

大臣の信用は屋根の上の鳥のようなものであったが、

太田豊太郎

今は少しはこれを得ただろうか。そう思うと、

太田豊太郎

相沢がこの頃言葉の端々で、

相沢謙吉

本国に帰った後も一緒にいられたら……

太田豊太郎

というのは、大臣がそうおっしゃったのを、

太田豊太郎

友人であっても公的なことなのであからさまに告げられなかったからか。

太田豊太郎

今になって思えば、

太田豊太郎

俺が軽率にも相沢に向かってエリスとの関係を断とうと言ったのを、

太田豊太郎

早くも大臣に告げたのだろうか。

太田豊太郎

ああ、ドイツに来た初めごろに、

太田豊太郎

自分の本質を悟ったと思って、

太田豊太郎

また受動的な人間にはならないと誓ったが、

太田豊太郎

これは足を縛って離された鳥が、

太田豊太郎

しばらく羽を動かして自由を得たと誇っていたようなものではなかったか。

太田豊太郎

足の糸は解く方法がない。

太田豊太郎

最初にこれを操っていたのは我が某省の長官で、

太田豊太郎

今この糸は、

太田豊太郎

ああ、かなしいことに、天方伯の手中にある。

自分の置かれた状況に気が付いた豊太郎であったが……。続く。

日本の名作シリーズ 舞姫(完結)

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