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放課後。 蒼は、旧校舎の前に立っていた。 来るつもりは、なかった。 でも、気づいたら足が向いていた。 校舎の影が、妙に濃い。 昼なのに、夕方みたいだった。
入口には、 「立入禁止」の札。
手を伸ばした瞬間、 スマホが震える。
「まだ戻れる」
黒いノートの男子からだった。 蒼は、画面を伏せる。 戻ったら、 何も変わらない気がした。
扉は、音もなく開いた。 中は暗い。 でも、怖いほどじゃない。 廊下の床には、
古い足跡が何重にも残っている。
蒼
教室の一つに入る。 机が、並んでいる。 数は、今のクラスと同じ。 黒板には、白い文字。
「◯月◯日 今日は、誰も覚えてなかった」
机の中を開けると、 ノートが一冊入っていた。 名前は、書いていない。 代わりに、最初のページに こうあった。
「消えたんじゃない 消された」
ページをめくる。
昨日まで話していた友達が 急に自分を知らない顔をしたこと 出席番号が、勝手に詰められたこと 名前を呼ばれなくなった日のこと
字は、途中で乱れている。
最後のページだけ、 やけに丁寧だった。
「旧校舎に来られる人は、 まだ“いる”人」
背後で、音がした。
振り向くと、 黒いノートの男子が立っている。
蒼
男子は、しばらく黙ってから言った。
黒いノートの男子
蒼
黒いノートの男子
突然、廊下の電気が消える。 遠くで、足音。 複数。
黒いノートの男子
蒼
黒いノートの男子
二人は走る。 息が切れる。 でも、足音は近づく。 角を曲がった瞬間、 蒼は見てしまった。 廊下の向こうに、
名前のない生徒たちが立っている。
顔は、ぼやけている。 でも、 全員が、こちらを見ていた。
次の瞬間、 黒いノートの男子が蒼を突き飛ばした。
黒いノートの男子
蒼が転んだ拍子に、 景色が反転する。
気づくと、 蒼は旧校舎の外にいた。 夕方のチャイムが鳴る。 まるで、 何もなかったみたいに。
ポケットの中に、 紙切れが一枚。 さっきの、名前のないノートの 切れ端だった。 そこには、 新しい文字が書き足されている。
「次は、君」
蒼は、校舎を見上げた。 窓の一つに、 黒いノートの男子が立っている。 でも次の瞬間、 その姿は、消えていた。