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現在時刻、十一時七分。

家に着いたぼくはまず、今立っている仮説をまとめることにした。

空腹を満たすため冷蔵庫を物色していたところ、キッチンにいた兄に

『今昼ごはん作ってるから。それまで我慢しなさい』

と言われてしまったためだ。

ぼく

……相変わらず、母親染みた兄だよ

二階の自室に入り、戸を完全に閉め、適当に選んだA4ノートにペンを走らす。

ぼく

この場合、Aが被害者で、Bが犯人だな

ぼくが第三者なことに変わりはないようだった

ぼく

とりあえず、思い付いてある仮説は二通り………まず一つ目は───

書き終えたところで失笑する。

ぼく

まあ、これは例の清掃当番表を完全無視した場合だから、望み薄だけどね……

分かっている限り、清掃員は三人もいるんだ。その全員が二ヶ月もの間、一度もオムツ交換台を下げてないとは言い難い。

現場が親子連れも遊ぶ公園の公衆トイレだということも、仮説①を否定していた。

ぼく

………まあ、本命はこっちだし

次のページをめくり、新しく書き入れる

なんだかご都合主義的なタイミングだけど、こっちの方がなまじ現実味がある。

というか現実なのだ。

AやBをはじめとした仮説はぼくの勝手な推測だが、あの状況だけは現実と言っていい。

ぼく

うー、杉並公園に入るとき、自転車に乗る若男を見た気がするけど………正直記憶が曖昧だな………

何故今さらそんな重大ヒントを! と思ったであろうが、しかしこれは多分、本件には関係のないことだ

そもそも"近くにいたから"くらいで犯人にされちゃあ、その若男もたまったもんじゃないだろう。

なんなら現状としては『実はぼく自身が真犯人だった!!』という一言だけで丸く解決できる程度の問題なのだ。

───しかしご存知、ぼくは犯人ではない

架空の人物であるAとBは確かに実在している。

ぼくは所詮第三者で、言わば推理小説の発見者役だ。

発見者役は、基本的にそのためだけに配役される役割で、それ以上のことを求めるのは筋違いというものだろう。

ぼく

あ───発見者が犯人だったって展開のほうが、王道とされているんだっけ………?

閑話休題

ぼくはもう一度、ノートを見返す。

ページを何度もめくり、確認する。

ぱらり

ぱらり

ぱらり

ぱらり

ぱら───

おい

ぼく

え? あ──あ、うん?

振り替えると、戸の脇に、エプロン姿の兄が立っていた。

餅、いくつ?

ぼく

んー、二個

そう

そのままの姿勢で、後ろ歩きに兄は部屋を出ていった。

ドアを閉めていかなかったのが、若干ムカついた。

ぼく

───はあ

椅子を立ち、大きく伸びた後、ぼくは戸に向かった

途端、ゆらあり。と、視界が歪む

次の瞬間には、ぼくは戸に体重を掛けていた

開きかけの戸が、徐々に弧を描き、すぐに開ききる。 ぼくはその場で倒れた

起立性低血圧 立ちくらみ───

───否、これはもっと酷い………

ぼく

前失神………?

止まらない冷や汗

動揺が思考を拒む

白黒反転する視界

働かない視力の中、ぼくが最後に見たものは───

十三時七分を指した壁掛け時計だった。

カコン

秒針が鳴る。

第三話 円環 / ピース

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